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 30s   作者: リョウゴ
帰国子女と異界騎士
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女装占い師の暗躍

 納詫高校の最寄り駅に程近いカフェ。その店の客の殆どが高校帰りの学生である。


 偶に女装癖の男とか、神官コスプレの男とか来ることがあるが、店自体は至って普通の喫茶店だ。


 そして開店前にその入り口をくぐる男が居た。前述した女装癖の男だ。


「突然だけれど二階、借りるわよ?」


「ハァ? 何言ってんだ、俺じゃなくてマスターに言えよ」


「八舟くん、分かってると思うけどマスターは殆ど管理してないのよ、この店をね? そんなマスターに言ってどうするのよ」


「ま、それもそうだな。けどテメェ自身でマスターに伝えろよ? ……つか、何で二階何ざ使うンだよ、あそこは誰も使ってなくて埃被りまくってんぜ?」


「……たまには掃除しなさいよ。店の清潔さに影響が出たらどうするのよ??」


「そんときゃ、マスターを退かす口実になるな」


「ホント、マスターに厳しいわね」


「自分の夢だー、なんて語っておいてやることは女性客の視姦盗撮となりゃ、当たり前だろ。アイツ情報収集すら出来てないんだぞ? 来る日も来る日も女のケツ追っかけてよ、頭に来るわ」


「……相当苦労してるのね。あぁ、それと何に使うかって言うのはね! 占いよ!」


「占いぃ? アァ、そういやそんな趣味だったな」


 言われなければ女性に見えるほど高度な女装も趣味によって培われた物だが、この男の本業には女装は無関係だ。


 占術師。向こうの世界ではそう呼ばれていたらしい。女装男、グリーフにとって女装は所詮『男の格好しているよりも受けが良い』というだけの話なのだろう。


「趣味じゃない本業!!」


「ネットで趣味レベルの占い師に負けてたじゃねぇか、確かブラックリバースってサイトの」


「あれは何かのインチキよ!! 私の占いが外れるわけ……!!」


「アーハイソーデスネ」


 興奮したグリーフは一度咳払いして落ち着いた風を装う。


「とにかく、私も本業を再開させるの。それで面白い作戦を思いついたのだわ」


「作戦だあ?」


「そうそれも『占いでアゲアゲ! 傀儡作戦!!』よ!!」


「……ハァ?」


「『占いでアゲアゲ! 傀儡作戦!』よ!!」


「…………ハァ?」


「『占いで──」


「いや聞こえてるわボケが。そのネーミングセンスを疑ってるんだよバカが。占いで傀儡にしてしまおうってんのは分かるがやっぱりネーミングセンスがねーわ。それはねぇわ」


「…………分かりやすくて良いじゃないの」


「百歩譲って分かりやすくて良いってことにしよう。だがな、ネーミングセンスがなァ」


「なんどもいわなくたっていいじゃねぇかよ!!!!」


 叫ばれた。うるせぇ。


「………んで? 何? お前の使う魔法に洗脳魔法があるって言うのか?」


「…………………………………そんなもの無いわよ」


「無いのかよ」


「ええ無いわ。この作戦はね」


「『ウラナイデアゲアゲカイライ作戦』は何」


 グリーフは無言で睨んできた。攻撃しようとしたようだが攻撃的な占術は基本呪いの域に入っている為に俺には多少の攻撃では効かないことを思い出したのだろう。攻撃の意思を引っ込めていた。


「取り敢えず1人、良さげな事情を抱えた納詫の生徒を占いを称して近付いてこの作戦の手応えを感じたわ」


「『うらな────いだぁ!?」


 グリーフがカードを一枚俺の額に真っ直ぐ投げてきた。俺は避けられずに仰け反る。


「まだ全部言ってねぇじゃねえか!!」


「言おうとしたじゃなーい!! 絶対言おうと、つか全部って言ってんじゃねぇかシバくぞ!?」


「やってみろやグリーフゥ!? この最強の呪術師である大悪魔たるグラッジ様を倒すことが出来るもんならなァ!!」


「あンだと呪術師風情がァ!!」


「ンだよ攻撃に措いて無能晒しやがる占術師如きが調子乗ってんじゃねぇぞ!?!!」


「開店前からうるせぇぞ二人揃いやがって!!」


「「ぎゃあー!?!?!?」」


 騒ぎすぎた結果マスターに叩かれた。いつのまに居たのかよ……。


 そうして現れたマスターにも事情を説明してやると笑顔で許可を出した。


「占いをうちの二階でやりたいって言うならちゃんと金を入れろよ?」


 この男、金目当てかよ。まあグリーフの占いは本業と言うだけあってよく当たるし、こういうオカルト風味なものは流行ればそこそこ稼げるだろうけど。


 そうなれば、見習ってマスターは真面目に働いてほしい。


 許可が降りたら次は掃除。グリーフは重い足取りで階段に向かっていく。


「分かってるわよ、それじゃあね……あーマジで埃臭いわねー、ちゃんと手入れしなさいよ、全くもう……今日一人分の予定入ってるのに」


 ブツブツ言いながら二階に上がっていくグリーフを見送るマスターに俺は一言言ってやった。


「マスターも掃除行ってこい。準備の邪魔だ」


「は? ひっどいな、オレは店主だぞおい」


「るっせぇな、行ってこい。こっち終わったら俺も行くからよ」


「はいはい仕方ねぇなー」


 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




「あーら、いらっしゃい。本当に来てくれたのね」


「そりゃ、言われたとおりの事が起きたら来るように言ってたじゃないですか」


「それで学校生活はどう? 慣れた?」


「まあ。思っていたほど悪くないですよ。入る前は最低最悪の環境になっているかと思ったけど、同級生に強すぎる奴が居る御陰ですかね? 結構楽しいですし」


「ふぅん? 楽しそうで何よりね。やっぱり何事も楽しまなきゃだものね。情報屋、って言うのもね?」


「そっすね。やっぱ楽しそうにしてればそこそこ良いことありますからね」


「おっ、良い笑顔ー!」


「そういう反応は気持ち悪いんで止めてくれますか。」


「酷いねー、これでも仲良くなりたくて言ったんだけれど」


「仲良くなりたくて? 違いますよね? ただの利害関係じゃないっすか」


「いーや? 仲良くしたいのは本音だよ? 仲悪くていい関係なんて無いでしょう?」


「……俺は」


「とにかくこの話は一旦止めましょ? ひとまずこの間の占いの見返り、頂戴?」


「……さあ? 何の話っすか?」


「ここまで来ておいてとぼけるのかしら? 杖、持ってきてるんでしょう?」


「…………占い師さん。さすがに怪しいからなぁ」


「怪しい? 私が? こんなに分かりやすく清廉潔白さ、そうそうないわよ?」


「そうっすね、どっからどう見たって分かり易く真っ黒だよ、占い師さんは」


「あらぁ?」


「そもそも俺のことを"情報屋"なんて最初から知ってて接触する奴なんていないっすから。それに今回の『賞金を裏社会で賭けられている転校生が、お金に目が眩んだ留学生集団に異世界由来の道具で隔離される』なんて言細やかに語る占いなんて、ふざけたものでしょ?」


「へぇ?」


「で、占いが当たったら一部始終を録画した動画とその道具をくれって。しかも占い師さん今俺が出す前に杖って言ったっすよね? おかしくないっすか?」


「何? 超能力が存在するこの世の中でそのくらいのことをおかしいだなんて言うのね、ふふふっ、そうかしら」


「予知でも出来るのか」


「さてねぇ。でも私は最初から言ってるわよ? "占い師"ってね、高校生の情報屋さん。そんなこと長々と聞いて、食費にでもするのかしら?」


「占い師さんの情報なんて扱ってもあんまり損得合わなさそうだからやらないっすよ。それとこれ。杖と一部始終の映像データ収められたメモリーっす」


「あら、ありがとう。所で何で包んであるのかしら?」


「この杖、直接触れるとマズそうなんでタオルでグルグル巻きにしたんすけど、余計でした?」


「いいえ、お気遣いどうも? まるで隠すみたいに渡してくるから偽物を疑ってしまいましたよ」


「そんな事するわけ無いっすよ。それで、最後に聞きたいことがあるんすけど」


「何? サングラスなんて外してどうしたのかしら?」


「────" 蒔野(まきの) (ゆい) "」


「あら不思議、とっても可愛らしい名前ね。その子きっと可愛らしい子なのでしょうね」


「性格クソ悪かったっすけどね。知ってるでしょう? なんたって占い師さんあんたは」


「仲良くない人とは私あんまり話したくないのよねー、うふふふ」


「………それもそっすね。さて、じゃあ俺はこれで失礼するっすね。これ以上話すことはないっすから」


「あら、そうなの? 私は有るのだけれど。実は7月頃にとんでもなく──」


「………」


「帰っちゃって良いのかしら? 蒔野唯ちゃん、だったかしら。占ってあげてもいいのよ?」


「何すか、それ」


「不思議そうな顔してるわね。当たり前でしょ、私はあなたの"味方"なのよ? 不利になるようなことするわけないじゃない。ただお願いを聞いてほしいだけよ」


「…………」


「聞く気になってくれたみたいね。情報屋さん、いや、田倉洋希君。いいわ、物分かりが良くて素敵」


「何をすればいいんだよ」


「言葉遣い、気を付けなさいね。それで、何をって話よね? えっと──」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「趣味が悪いな。何処が占いで上げて傀儡だよ。単なる利害関係じゃねぇか」


 聞き耳を立てていた俺は足音を消しながら階下へと降りる。なるほど『蒔野唯』か。どっかで聞いた記憶がある……じゃあ多分邪神教徒が関係してるな。ならそれを交換条件で従わせようとしてるのか。


「いざとなったら消す準備はしておかねェとな。どうも………」


 あの田倉とか言う野郎、俺達が邪神教徒であることに気付いているような感じがしたからな。勝手に自滅してくれれば楽だが、そうもいかないだろう。


「八舟さん、どこ行ってたんですか?」


「っ!? っと………酒田さん」


 突然声かけられて驚いてしまったが、名札みる前に俺は声を掛けてきたバイトの子の名前を答えられた。


 つか俺今聞かれたらマズいことを呟いてたような……聞かれてないよな。


「何を消すんです? マスターさんなら協力しますよ?」


「おいおいひでェ言いようだな。……さすがに俺もマスターを消すのはやらないですよ」


 あ、やべ、口調戻し損ねた。しかし酒田は気にしていない様子。


「ですよね、言ってみただけです」


「そ。消すってアレだ。ちょっとマスターお気に入りのコップを叩き割ったからその証拠をね」


 嘘だ。まあ、何度か割ろうとしたことはあるがな。


「えっ、それは大変ですね!?」


「だろ? まあそんな感じだから心配しないでいいよ。だってどうせマスターの私物だし」


「そう、ですかね? ま、マスターだし良いですよね」


 よし誤魔化せた!! ナイス偶には役に立つじゃねぇかマスター後で何か買ってやろう!


「あ、田倉君だ、よっすー」


「よっす」


 二階から降りてきた田倉が酒田と挨拶を交わす。俺はこの場から姿を消す振りをして聞き耳を立てた。


「あれ? 二階って確かゴミだらけだったよね、何の用でそっちに? 不法侵入?」


「ん?? いや、二階って今日から占い師さんが居座ってるぜ? 当たるかどうかは知らないけどさ」


「占い師? そんな話聞いてないよ?」


 あーそう言えば従業員に対して言うの忘れてたわ。言いに行くか。


「あー。そういや酒田さん? あんまりこの店に入れ込まない方が良いよ?」


「何、突然。うちのお父さんみたいにバイト止めろとか言うの?」  


「そんな事言われたの?」


「ほら、八舟さん居るじゃん。なんか、アレはダメだーなんて言ってさ。ちょっと騒ぎになっちゃって。ほんと、何のつもりなのかなお父さんは」


 ……初耳なんだが。


 そんな話を聞いて田倉は苦笑いしながら


「へぇ。案外間違ってないんじゃない?」


 なんて言った。


「田倉君までー」


「ま、普通に働く分には良い店だと思うけどね。んじゃ」


 田倉は一瞬俺をサングラス越しに見てから去っていった。恐らく聞かれているのを気づいてあんな会話をしていた。さり気なく俺達に対して警戒させるように。


 流れ的にその矛先は俺に向いていたが。勘弁してくれ、この店は健全なんだ。邪神教徒が経営してるなんて良からぬ噂が流れたらどうしてくれんだ田倉洋希。


 あ、でもそんときゃ仕事から解放されるから、ま、いっか。


「あれ? 八舟さん? またどうしたんですか? マスターの処理は終わったんですか?」


「まるでマスターを消したみたいな発言は止めてくださいよ、あとちゃんと終えたので大丈夫です。それと言い忘れてたのですが二階には───」


 普通に紹介しようかと思って止めた。変な疑念を抱いた奴が定期的に出入りする事の運びになったんだから、少しくらい仕返ししても良いか。


「───女の占い師に見える人が来てて占いの店を開いたんだよ」


「二階に占い師さんですか? 田倉君も言ってましたけど」


「そ。女装に凝りすぎて精神性に異常を抱え始めた変態男の占い師がね」


 そう言ってやったんだ。


「そうなんですか、じゃあ今度行ってみようかな」


 あれ………。思ってた反応と違ぇや。行くんだったらあとであの野郎にはうちの店員には手を出すなって釘を刺しておかねェとな……。

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