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 30s   作者: リョウゴ
空想錬金と二人一組
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最悪の空気



 今日の試合は最後の方なので、それまでが何となくやることはない。紫野がかなり考え込んでいるところで悪いとは思うけれど、俺には前へ出て剣で殴ることくらいしか出来ない。武器を渡されれば使うし、作戦を考えろというのであれば考える。けれど紫野はそうしろと言わなかったし、俺もそうするつもりは無かった。


 紫野とは試合前にまた会おうと言われ、特に何もすることがなくてふらふらと歩いていると、ベンチで奇妙な声を上げている女子が目に入った。


「ぐへぇ……えぁ………」


 ベンチの背もたれに背中を預けて後ろを向くほどだらりとしていたのは藍逆だった。


「……どしたの? 藍逆さん」


「ふぇ………あ、結城君か。お疲れ様……」


「お疲れ様、っても俺は試合まだだけどさ。何があったの?」


 ベンチがまだ空いていたので隣に座り込む。藍逆はさすがに脱力しすぎと思ったのか座り直す。若干まだ脱力しているけれど、多少マシだった。


「聞いてよ……実はさ……」


 急に姿勢を正し、神妙な顔で藍逆が話し始める。藍逆の試合の経歴を思い出すと、また負けたとかそう言う話なのかもしれない。


 そうだとすると結構同情するというか。でも、そうじゃなかった。


「五勝できたんだよ……」


「ふーん……ん???」


「五連勝!! おかしくない!?」


「お、おう?」


 前のめりになって叫ぶ藍逆に、驚きのけぞる。確かに五連勝は凄いが、おかしいという受け止め方、確かにマッチング壊れてるんじゃないかっていう相手と戦い続けて負けしか経験していなかったのだから変ではない。


 だとしても、藍逆が脱力していたのは何なのか。燃えつき症候群か。


「おかしいでしょ!! これ!!」


「組み合わせが良かったんじゃないの?」


 組んだ相手、対戦相手の組み合わせが良かったんじゃないのか? と俺は全く理解できないままに聞く。


「…………取り敢えずこれを見てよ」


「……おう?」


 差し出された端末を見る。藍逆のタッグ戦の様子を見せられるらしい。


 ────うわぁ。


「何で全部相手の空気が険悪なんだ……」


「ね? 組んでた子ともなんか微妙な空気になるし最悪だったよ」


 動画上の険悪な空気を裂くように藍逆の相方の放った空気の魔弾が刺さる。隙だらけとは言え一撃で頭を打ち据えて気絶させる技量はさすがだった。


「……藍逆さん何かした?」


「してないよ……偶々仲の悪いとこに当たったんだよ」


 藍逆さんは口先では否定しつつも何かしたんじゃないかと自己疑心を抱いているようであった。


「……そうかぁ」


 してないでこれなら、お疲れ様としか言いようがない。


 お疲れ様。




 ───ぽつぽつと呟かれるような愚痴を聞いていたら昼休みになっていた。


「あはは……長かったよね、ごめんね」


「いや、別に。結構大変なのは見てれば分かるし謝らなくても良いよ」


 たはは、と困ったように笑っている藍逆と一緒に教室に向かう。藍逆は財布をとりに、俺は弁当が教室にあるからだ。


「…………うん。そうする」


 数歩後ろを歩く藍逆から小さな声が聞こえた。


「あ! 師匠!! こんにちは!」

「こんにちは」


 葉野と跡見が前から歩いてきた。葉野がとてとてと駆け寄ってくるのを跡見が早足で追いかけている。


 後方に彼女達の校舎がある。通り過ぎるのかと思いきや、葉野は俺の横でくるっと回り隣を歩き始めた。


「師匠、お昼休み空いてます?」


「空いてる、けどどうしたの?」


「さっき試合終わったんですけどやっぱり私弱いな、って思ったんです」


「稽古してくれ、って?」


「っ! そうです!!」


 興奮気味な葉野にがっしと右手を取られる。


「別に、良いけど」


 俺は真っ直ぐ見てくる葉野から目を逸らす。ちらっと視界に入ったが葉野の胸、かなり大きいな……。


「やったあ!!」


 どんと俺の右手を掴んだままバタバタと上下に腕を振る葉野から目を逸らした先にいた跡見に藍逆にじとーっという目を向けられていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 眼下、窓の外に結城とほか数名の女子が見える。その様子を一緒に眺めていた夕張に一言投げかける。


「……行かないのかい?」


「…………うん」


 これだ。以前の夕張であれば結城を見たらそっちに理由もなく近付くような女だった。今は物憂げな表情で答えながら


「じゃあ何で教室のドアに手をかけているんだい?」


「はっ!? こ、これは、ドアがガタついているのが気になって」


 これだ。感情と理性が反している動きだ。


「識杏、別に行けばいいじゃないかと私は思うのだけど?」


「わ、私がいるせいで、止水くんが──」


「識杏、ドア壊れる」


 木で出来た部分を握り潰さん限りにミシミシ音を立てていたのを依田が指摘した。慌てて手を離す夕張。


「私が、止水くんを縛り付けていなければ。その方が止水くんにとって良いことのはずなの」


「そうだね」


 依田は興味なさげに呟いた。夕張が恐れていることは結城に嫌われることだ。依田はそれが気に入らなかった。とても、気に入らなかった。


「だから会わない」


 嫌われることを恐れるあまりに現状から逃げるこの女が、とても気に入らなくて、もはや嘲笑う気も起きない。他人を嘲笑う事自体柄じゃないのでとても疲れるのに、そんなことをするものかと。


 そして立ち向かわない夕張にほっとしている依田自身が一番気に入らなかった。


 逃げているのは依田も同じだったから。何から逃げているのかすら気付かないまま逃げている。それが依田が最も気に入らない事であった。


「でもちょっと遠くから撮影するくらいは良いよね??」


 高そうなカメラを取り出した夕張は言うより早く窓から見える結城を激写していた。


 少し気持ち悪いな、とも思ったけれど。


「識杏って面白い子だよね」


「え、どう言うこと?」


 カメラを仕舞い込みながら聞き返す夕張。


「言い訳したそばから外行こうとしてるところとかね」


「あ、これは違うの、えっと」


「はいはい、いつまで今の姿勢が保つかなぁー」


 あの文字列へと向き合うかどうかが決まるのはそう遠い話じゃないんだろうな、と依田は考えながら夕張をからかった。

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