底知れない相手に
「──はいお疲れ様っと」
「──いい働きだったぞ助手二号」
グーにした手をコツンと当てる。第二戦は何ら波乱もなく勝利だった。
炎の能力者は真っ先に俺を狙ってきたものの、リーチの長い武器を持っていたおかげで安全に戦えた。炎の能力者は諦めず、普通に気絶するまで殴る羽目になった。最早紫野が暇だったのか明後日の方向に消火器の中身をぶちまけていたのを覚えている。舐め腐った動きは良くないが、錬金の元にしているのを後で確認した。
炎の能力者が気絶すると、回復能力者は普通に降参した。
「調子がいいな、相手が良かったとも言えるか」
紫野が浮かない表情で呟く。
最初の一戦が結構危なかったのに二戦目はこうもあっさり行くと確かに不安になる。が、俺は何となくそうではないと思った。
「なんだよ、暇だったのがそんなに嫌か」
「……認めたくないが」
不満なのだ。消化不良気味だったのだ。自分が暇を持て余していた事が引っかかっていると。
まあ、そりゃ殆ど殴り合いだったから手を出せなかっただろうし、そう言うわけで危ないことをしていたのは結局俺だけだった。
「戦うのは好きと思ったことは?」
「無いはずだ。あぁ、好きじゃないはず」
断言できない。紫野は自信がなくなって来ている様子だった。
「まあ、仕方なく流されて戦うよりも戦いに前向きの方が勝ちやすいからそっちの方が良いだろ。別に紫野は自分から戦いに行こうとまでは思ってないだろ?」
「そりゃ、そうだ」
「ならいいんだよ、別に」
「そっか。いいのか」
紫野が呟く。その様子から紫野が納得したのを察して、俺は次の試合について調べ────!?
「なぁ、紫野」
俺は、次の試合相手の表示された画面を紫野に見せる。
「どうした? …………!?」
そこには『跡見御津』、『葉野明流』と映し出されていた。
ここで当たるのか、とか、どういう組み合わせだ、とか言いたくなるような光景。しかし、驚愕から口に出せずに二人でただ画面を見ていた。
「………………………………………マジ?」
紫野が漸く絞り出した言葉は、そんなんだった。
「マジ、だろうよ……」
ルール上当たる相手は俺達と一緒で無敗のタッグだけである。つまりしっかりここまで2勝してきているという事実。その事には驚いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うっわ。当たった」
自分に運がない自覚はしている跡見だが、この時も己の運を恨んでいた。ランダムで相手を決めたせいで運動音痴の槍使いを引き当てたり、今日までも大変だった。
行き当たりばったりではあるものの何とか二勝を取れたことは運が良かったなどと考えているが。
「あ、師匠だー」
「ししょーだー、じゃない……。確実に相性が悪いじゃない……大体万能なのよね、あの子も。結城くんも」
結城止水に関しては、万能でもないがそれは弱さの証明にはならない。
葉野明流の槍の能力は役に立つけれど、勝つには紫野が邪魔だ。試合の動画を見たが、なんだか彼女、少し見ない内に肝が据わったような気がする。
「手合わせしたいなぁ、結構強くなったんだぞーって」
「やーめーて、作戦決めるからその通りに動いてよ?」
「えー?」
「……勝利数稼げなくても良いの?」
「ぐぬっ……良くない」
でしょ? と葉野に言い聞かせる。これで強くなった、というのなら元々どこまで出来なかったのかが気になる。
「じゃあ私は少し考えるから、何かし暇を潰してて」
「分かりました!!」
元気は良いな、と跡見は溜め息を吐いて考えを巡らせる。
まだどうもコンビネーションが上手くいってない風な彼らに勝つための手段を、道筋を求めて。
「っ! っ!! っ!!!」
葉野は槍を素振りしている。凪払いの練習だけでなく、突きの練習と振り下ろしも。でもまだ、接近戦を許せるほどの身体能力が無い。能力の持ち腐れ感が半端ない。
ここまで勝ててきたのは彼女の槍の一つ、《トライデント》と名付けられた槍の能力のおかげだ。能力の換装が出来る事が彼女の強みである。例え槍使いとしての能力が最底辺でも一応の回避能力 ──本人の身体能力任せの回避であり特殊な能力ではない───に加えて少しだけある持久力のお蔭で何とかなっているのだ。あと多少押された程度は耐えられる体幹、か。
要は葉野がマラソンやらされていた事が漸く実を結んだ、ということだ。
「まあ、なんとかするしかないか。葉野さん、こういう槍って作れる?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ほう、案外ちゃんと作戦会議を」
「覗き見に盗聴? 良いのかそんなことして」
「助手一号だぞ? 少しは警戒もする。何せあの子をただの回復能力者と思っていたら痛い目を見るからな」
試合の動画を見た。どちらの試合も結末は同じだ。
端末の画面に映っているのは、葉野の槍の生み出した高波に飲まれて場外へと弾き出される姿。その場面で動画を一時停止している。一戦目も二戦目もそれに対処できない人達であったことも確認している。
「あれで、かなり有能なのだ。助手一号は」
「そりゃあ、紫野の保護者だしそう言うのは分かってるよ」
「あ"ぁ"?」
「事実なんだよなぁ」
跡見が紫野の保護者というのは噂だ。紫野はそれなりに有名人で、それに隠れるように存在する一つの噂。と言うか渾名。本人にとっても不名誉で、紫野にとっても不名誉だろう……ま、紫野は自業自得か。
「とにかくその高波対策は私がするしかないだろうが……他の能力は分かるか?」
「あー。ちょっと待て。波を出す能力とは思わないのか?」
「あの槍は持ち込みの品じゃない。波を出すためには槍を持つ必要性が理解できない。以上証明完了」
「あぁ、まあそうだ。葉野さんの能力は全部槍依存なんだよ。いろんな槍があるって……何が出来るかは分からないけど同時に槍は一本しか持てないし槍それぞれで能力が違う。この槍は……たしかトライデントって」
紫野は盗聴盗撮を続けながら聞いている。いや、その行為に意味はないと思うが。寧ろ不利になると思うのだが。そんなことを今更、とも思うしな。
「情報を本気で隠してきている、よな」
勝ち筋がワンパターンなら仕方ないが、跡見は相手が完全に場外に出るまで油断しているように見えなかった。
葉野? 水を生み出すことに夢中にしか見えないな。
「私の助手、それも一号だからな。本当は前に出て戦えるというのに、全部葉野に任せることでひ弱な回復能力者を……」
ひ弱…………か?
「目つきが完全に弱さを感じないな。演じ切れてないのだな、流石助手一号」
どこが流石なのやら。
少ししか映ってはいないが、俺から見てもひ弱な女子、という感じはしなかった。いや、かといって凄い強そうとかそういう見た目をしているわけではない。一般市民よりも心構えが出来ている、と言う風に見えただけである。
紫野が言うとおり戦えるのだろう。それがどの程度かは分からないがその言葉を裏付けるような印象を俺はこの動画から受けた。
紫野が盗聴盗撮を止める。
「結城」
まっすぐと、紫野が俺を見た。助手ではなく、しっかり名字を呼んだことに少し驚いたが茶化すことはしない。真面目な話だと察したからだ。
「跡見の相手を頼む。本気で、殺す気で掛かってもらって構わない」
「…………良いのか?」
「どうせ死なないのだ。勝ちも譲りたくない」
「助手だからか?」
「……そうだと思って貰っても構わん。とにかく、負けたくないのだ」
紫野は真っ直ぐに俺を見て、そう言った。
「分かったよ。殺す気でやる」
「ふっ、それで良い」
紫野は柔らかく笑うと、それきりで歩いて去っていく。
……紫野が殺す気で行け、といった理由を考える。跡見は回復能力者であり、能力は自分の身体に近いほど効果を強く発揮すると言った。
「まあ、大方致命傷を一瞬で回復するとかそんな感じかな……、だとしたらヤバいな……」
さて、だとすれば、どうするか。




