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 30s   作者: リョウゴ
空想錬金と二人一組
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変な癖


 ゴールデンウイークが明けて久々の登校日。俺は病院から一度自宅を経由して学校へと向かった。


 家には荷物を取りに行っただけですぐ出たので誰とも会ってはいないけど、見覚えのない靴が一つ増えていた。それだけ何か、引っ掛かった。




 誰かと遭遇することなく電車に乗って高校前まで移動する。普段より二本ほど早い電車に乗れて居るのだから、依田や識杏とも出会うことは無い。


 心穏やかな、と言うよりも何というか──


「こう、普段通りじゃないと寂しい、かもな」


 誰に聞かせる訳でもない。小さな声で呟いた。まあ、聞かれても恥ずかしいけれど。


 通勤や通学ラッシュより一段早く乗れたせいで、人混みも無い。病院で静かな生活を短くてもしていたのだから、ほんの少し喧騒が恋しくなってもおかしくはないだろう。


 携帯電話を眺める。一月前は使い方もちんぷんかんぷんだったのだが、たった一ヶ月でよく使った。もう完全に使い方を習得して馴染んでしまったまである。


 まあ、使う機能はレインくらいだが。


 当然携帯電話を使うときはレインを使うときだ。別段ソシャゲをする、だとかそう言うのは無い。ネットもあんまり。


 ……そういえばタッグ戦の組み合わせ、ランダム選定の奴は今日発表らしい。知り合いの中ではランダム選定頼りの奴は居ないけれど、そういう人たちは殆ど初対面の人間と組まなくてはいけないので、大変だな。と他人事のように考えていたら、高校前に着いた。




「……誰もいない。早く来すぎたな」


「おはよー?」


「おわっ!?」


 背後から挨拶してきたのは、長めの黒髪を右側で一つに纏めたサイドテールの女子生徒、秦野胡桃だった。


 この子、なんか心読んできているような節があるんだよなぁ。だから何だという話だけれど。俺読まれて困るようなこと考えてないし。


 ただ、ちょっと苦手って言うのはあるかもしれない。


「その驚き方はちょっと、悲しいよ?」


「すまん。気配がしなかったから」


 事実床が軋む音が聞こえなかったのだ。鳴らないときが無いというのに一切鳴ったことに気付かないのは俺としてはおかしい。


 おかしいと言ったらおかしいのである。


「それは影が薄いって事? 傷つくね」


「いや、足音聞こえなかったし」


「分かってるよ。消してたし」


 やっぱりか。……って。


「いやそれ凄いな。この校舎どこを踏んでも音が鳴るぞ」


 そう言いながら俺は廊下の床板を踏む。メシリ、と音が鳴ると共にあっさりと抵抗を止めて穴が空く。


 …………。


「ほらな?」


「戻しときなよ?」


 …………はい。




 踏み抜いた床板を適当に戻してから、俺は秦野さんと会話を再開する。


 無言で居ても彼女は構わないだろうが、今の俺は無駄にでも喋りたい気分だった。


「にしても足音もさせずに移動とか、どうやってるの? 俺にはとても出来ないけど」


「特に弱い床板をピンポイントで踏み抜くような人には出来ないよ」


「いや、あれは偶然──」


「弱点を見極めて狙う癖でもついてるのかもね」


 ……あー。幻闘流のせいか……。


 確かに、障壁や盾に脆弱なところがあればその一点を狙えるように訓練されてましたけれど。なるほどそうか。


「納得、した……?」


 秦野さんは適当に言っていたのだろうか。驚いた様子で俺を見てた。


「でもさ、足音しないって言うのはちょっと違うよね。なんかコツがあるの?」


「それは企業秘密」


「おー、やっぱりタネがあるのか」


「さてね」


 秦野さんは少しだけ頬をゆるめてごまかした。


「そう言えば結城くんはさ。タッグ戦、あのちみっこい子と?」


 ちみっこい子……。


「まあそうだな。組んでるけど」


「良いよね、他クラスの人と組めて。平凡に負け続けてる私とかは無理だからあえて誰とも組まないでランダム選定だよ」


「………」


「まあ、どうせ。このクラスの人と組むんだろうけどね」


 それは、そうだろう。そもそも他のクラスからすれば、余りものには福があるなんていって組まないような馬鹿らしい行動をとる奴なんて居ない。


 ゼロクラスが余っているだろう事なんて容易に想像が出来るからだ。恐らくそれが予想できても人と組めない人はいるだろうが。


 二人一組作ってー、と言うのは学校において屈指の無茶ぶりなのだ。


 少しだけ、俺は楽をしているのだろうか。何となく落ち込んでいると秦野さんは取り繕うかのように呟いた。


「や、別に責めてるつもりはないんだよ。羨ましいけど」


「羨ましいのか」


「当然。勝ち確じゃん、結城くんならさ」


「確定か? いや、それはないだろ」


 恐らくは、かなり悪意あるマッチングをしてくるだろう。……まあ、依田曰く。


 あいつが言うことはそう的外れだった試しはない。何故、どこが悪意なのかは分からないがただ弱い相手とぶつかるよりは己のためになるだろう。


「ふーん?」


 気付けば、秦野さんは俺を下から覗き込んでニマニマしていた。


「結構信頼してるんだ?」


「……? あ、依田のことか?」


「よく一緒にいるからねー。あの人の事、どう思ってるの?」


「?? そりゃ、友達?」


「……ちがくない?」


 何がだ、とは思ったものの確かに違和感がある。依田をどう思っているかを改めて考える。


「じゃあ、腐れ縁?」


「まだ何か違うと思ってない?」


「いや、なぁ。親友って言っても良いし、腐れ縁と言っても良いし、なんなら……いや、うん。そんな感じだ」


 仲人、って言おうとしたが、それを口に出すと何だか怒られそうで止めた。仲人ってなんだし。


「仲人ってなんだし」


「えっとな。人には人の事情があるんだ」


 口に出していたのだろうか。ともかくらしいことをいって誤魔化そうとしたが、秦野さんは納得しない。


「……変な事情をお抱えで」


 が、言葉の感じから何かを感じ取ったのか、不満そうに引き下がる。


「……で、香織さん? のことは異性としてどう思ってるの?」


「そりゃ別にどうとも?」


「……ふーん?」


 疑わしい、と言った目で秦野さんは俺を見る。どう思ってるも何も───


 それきり、変な空気になって二人の間での会話は途切れた。


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