小競り合い
女子三人、内初対面二人と学校を回る。言うなればハーレム状態。いやぁ、並の男がそんな状態になったら思うだろう。
これ、三人について行ってるだけじゃん。これ混ざれる奴は相当コミュ能力あるだろ、少なくとも俺じゃない。それに俺は別に仲良くならなくとも──
「で、君は今日どんな感じだった?」
「え、おう? 俺?」
「君以外誰がいる? 私はイマジナリーフレンドにでも話しかけているのかい?」
「いるんじゃないか?」
「いない。私をなんだと思っているんだ君は」
「暇人」
「酷いな君は……そうだ、紹介し損ねていたけれど彼女が『奉華遊』、この子が『夜海香代』字はえっと、奉る華に遊ぶって書いて奉華遊、夜の海に香る代表って書いて夜海香代ね」
「……です」
「よろしくね、遊は人見知りだから気にしないで良いよ? てか香織その表現ウケるんだけど」
「仕方ないじゃないか、思いつかなかったんだ」
ずっと伏し目でこっちを見てこない女の子が奉華、金髪の子が夜海、か。覚えた。
それで、てっきり依田が間に入って紹介してくれるのかと思ったが、なかなか言い出さない。
「俺は、結城止水って言うんだ。よろしく」
「へぇーっ、珍しい名前ね」
「明鏡止水って所から付けたんだってさ」
依田が補足する。その様子を見て夜海が思ったのか、聞いてくる。
「そう言えば香織と結城くんはさ、前から知り合いだったみたいだけどどういう知り合い? まさかカップルだったりする?」
気になったのは彼女だけでなかったのだろう。一瞬奉華も目をこちらに向けた。
ただ、期待には応えられないこと川の如しだ。
「しない、単なる幼なじみって奴だよな」
「そうだね、止水には、本命がずっと居て私とそう言う仲になるなんて微塵も考えられないね」
「………"は"、か」
「お、そうなんだ。本命? へぇー?」
なんか、奉華が何か引っ掛かったような感じで首を傾げたが、夜海がニヤニヤして俺を見てきたためその対処に追われる。
「無駄なこと言わなくて良いだろ、依田、おまえいつもそう一言多いんだよ」
依田はその言葉を取り合わずに、下手な口笛を吹くなんて言う演技をする。ちなみに依田は口笛吹けるので下手なとこまでわざとである。
「こう、見てみると普通の高校生だな」
皆、強力な能力者とは思えないな。そう言う意味を込めて俺は言った。能力が発動している気配はなく、また、すごく平和だったからだ。
「……まぁ、今の所は普通に見えるけど、明日から実戦説明あるからどうなることなのか、ね」
「あー、俺とか大丈夫かね?」
「私とかと当たらなきゃ平気だろう? ゼロ秒で直接相手に作用するタイプの能力じゃなきゃ相手に出来るじゃないか」
「いや、出来るだけでそれ無理ゲー過ぎないか?」
夜海は依田が平然とそう口にしたからか、聞いてきた。
「止水君、クラスどこ?」
「……0」
「え、無能力者だったん?」
「あ……まぁ、そうだな」
予想外だったのか少し動揺しているのが見て取れる。依田は7組の人間でそれと友人であればそこそこの能力が有るだろうと思うのは当然のことだろう。
能力差は人間関係すら歪めるのだから。
「……へぇー、それで何でこの高校に?」
「まぁ、成り行きで」
「成り行きで筆記満点取れるわけ無いだろうに」
「それ、お前のせいじゃないか」
「私満点じゃない、よって私のせいではない、だろう」
「だろう、ってお前……」
「勝手にやっただけじゃないか? 私は毎日覗きには行ったが」
「確かに邪魔しかしてなかったな、お前」
「だろう?」
だろうじゃないっての。ほら二人とも置いてけぼりで………ん?
気付けば2人は別の一つの方角を見ていた。続けて俺と依田もそちらを見る。
夜海がおわったー? と言わんばかりにこちらを見る。
「言い争ってるねー、誰だろ?」
「誰……ってあれ識杏じゃない?」
「───。」
「待って、君はまだ動かない方が。何言ってるのか聞こえないから」
「ほんと何言ってるんだろ?」
「君は何のつもりでこの僕の言葉に逆らうのだ」
「……ちょっと何言ってるか分からないですけど、あなたが私に告白した、それは間違いないですよね?」
「馬鹿にしているのか? 君には僕に逆らうという選択肢はない。痛い目を見ない内に従うべきだ、そうだろう?」
「嫌ですぅ。馬鹿にしてるのはそっちじゃないですか? 何初対面の病弱虚弱系美少女に告白なんてしてるんですか? もっとこう、なんかあるでしょう? 何か、少女マンガでもきょうびやらないようなほら、そう言うのって高校生の特権じゃないですか。うん、えっとそう、いろいろ手順を踏んで、そうっ……」
「で、君は僕のものになるのか? 従うべきだ、と僕は言うけど」
「……はっ………えっと」
「……"見えてる"のか。めっちゃ識杏があれほど焦っていると言うことはあの頭のおかしな男子やると言ったらやるのだろうね………あれ? 止水は?」
そう依田が聞いたとき、夜海は聞いていない。聞いていたのは奉華だけ。彼女は指を指した。
依田が見ると、一人、男が建物をよじ登っていた。多分上から言い争いに参加しようと言うバカなのだろう。
───そう、俺だ。
「何やってるんだ止水降り──いや戻ってこいバカ!!」
「とうっ!!!」
俺は華麗に二人の間に飛び降りた。コンクリート固い……。
「なんだ君は」
言い寄ってた男子生徒がゴミを見るかのような目で俺を見る。
「いやお前こそ誰だよ? この人とは今日初対面なんだってな? それでお前は力を盾に言い寄ってるんだな? ほう? ほうほう? 多分もうそこそこ見てる奴が居るんだ、先生とかも来るかもな……」
「君は邪魔するのか?」
「そうだけど? 何? 邪魔? どかしてみれば?」
そう言ったら男子生徒、表情をピクリとも変えずに能力を使った。
エネルギー弾の射出。俗に"魔弾"と呼ばれる割と持っている人の多い能力である。
「見えてるっての、まともに貰う訳ないだろバカが」
───俺の能力を使うまでもない。
背後の識杏に当たってしまうコースで放たれた魔弾を俺は左手で払いのけるように打ち消す。組成が甘く、恐らく威圧用だ。
……うわ、腕痛っ!!?
俺が痛いというのを表に出さないように苦労しているのに気付かないまま、男子生徒は激昂した。
「そうか!! 君は邪魔をするんだな!! この王貴優成の邪魔を!!!」
「ああするね!! なんだ偉そうにしやがって!! 何様のつもりだテメェ!!」
「君ィ!! 名前を言え!!」
「結城止水だ!!」
「覚えたッ!! 初戦でお前を滅多打ちにしてやるッ!!」
「上等じゃボゲ!! いつかと言わず今やってもいいんだぜ!!?」
「──今は止めたまえ」
「あ、先せ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………マジかよ、いつのまに気絶させられてたんだ」
「早業だったね。師範代にも出来るかどうかってレベル」
「ここ、保健室か?」
「そうだね。恐らく今年度最初の利用者」
白いベッドに寝ていた俺は、長く息を吐きながら起き上がる。案外体の調子は悪くない。
「動けるんだ」
「あれ、担任の先生なんだけど今年一年俺は平気かね」
「平気でしょ。と言うか痛くないんだ?」
「凄腕って事だろ。で夕張さんは?」
「先に帰らせたよ、ま、君のことは憶えてすらいないね案の定」
「……そうか、名乗ったんだけど」
「いや止水、君が飛び込んだ瞬間に優しく引き込んで置いたので騒動の中にいたことを学校側は知らないね」
「うわ、後ろちゃんと確認してたら受ける必要なかったじゃん」
「左手で叩き砕いた奴?」
「そう。護るためだったら利き腕じゃない方くらいなら捨てられるけど全く無駄かぁ……許さんあの男」
言いながら左手を見ると、腫れていなかった。痛みもない。
「治癒能力者は無駄にいるくらいみたいだから、その程度怪我の内にも入らないよ」
「おお、すげぇ。ヒビ入るかもくらいは思ってたんだけど」
「雑にやってたからもしかしてだけど、引き延ばしてなかったでしょ?」
「いや、使うまでもないかなと」
無能力者、なんて言われてはいるが、一応能力はある。すごいしょぼい能力だが。勿体ぶるのもあれな能力だが。
使ったら負けな気がしたんだよ。たぶん依田もそんな俺の気分を分かってるだろう。
「そうだね」
「奉華さんと夜海さんは?」
「当然帰らせたよ。動けるんだろう? そろそろ下校しようか」
「そうしようか」