格差的入学式1
とか考えているうちに入学式だ。
いや、うん。親のパソコンだったのが悪い。パスワード知らんし。うん。スマホは手に入れたけど、忘れてた。そう言うこともあるよね。
「にしても便利だよね」
駅前で依田と待ち合わせる。どうやら夕張さんも誘ったらしいが、様々な事情が重なり合流は出来なかったようだ。
「なにが? ………ああ電車か」
「そう、転移式移動車とか言う奴」
転移式移動車───数人の転移能力者により転移を可能にした車。と言うか最早金属の箱。駅で乗れる。
移動時間なんとゼロ秒。どう目を凝らしてもゼロ秒。しっかり確認した。俺が言うんだから間違いない。
「便利、かもね。まあ、よくわからないけど」
「そりゃ、自動車並みの早さでかっ飛べる依田様には分からないかもしれないけど」
あの動き、めちゃくちゃ速すぎるのだ。超能力怖い。
「いや、私かなり速く動けるけど結構疲れるからね。その癖使わないなら使わないで鈍るから困ったものだよ」
だから最低限毎日使うのだという。超能力だって、そう言うものなのだ。
「とにかく行こう、忘れ物はないね?」
「無いから大丈夫だよ」
依田はほんの少し気分が良いらしく、足早に俺を急かした。制服が気に入っているのだろう。何となく分からなくはない。
階段を上る依田の横まで駆け足で上る。いや、後ろに行くとスカートはそんな短くはないから下着とか見える心配はないけど、ほら、ちゃんと適度に運動してるのがよくわかる締まった足が膝裏辺りからほら、えっと。
まあどうでも良い。見てないし。見てないし? 見てないしね?
「で、どう?」
「えっ、なんのこと??? ん?」
「何、その反応。私、制服似合ってるかって話なのだけれど?」
挙動不審に陥った俺を冷めた目で依田は俺を見る。そう、制服、制服だね。うんすごく制服。
違う、制服だ。
「さあ? 俺にそう言うの聞かれてもなぁ」
動揺を悟られないように殺しながら答えると依田は
「そうかい、やはりそう言うか」
「読んでたなら聞かなくても」
「一応、念の為、さ」
「なんだそれ」
「なんでもないさ」
心なしか怒っているように見えた。まあ、気のせいであろうが。
若干の浮遊感とかブラックアウトとか全くなく一瞬で電車は次の駅まで移動する。それを何回も繰り返す内に目的の駅に到着する。その間約30分である。家から通えるな、これは。
広大な土地と言うが近年の駅事情より駅前に高校が存在する。周り田舎っぽい田園風景が広がっている。
高校は、そこそこの大きさだ。まあ一学年8クラスと言うわけで取り分け大きい高校と言うほどでもない。生徒が生活する棟はそう大きいわけでもないのだ。まあ、敷地で言えば話は違う。
「おぉ、広いな思っていた以上に」
依田は素直に驚いていた。確かに広い。生徒棟は比較的正門に近い為入った直後では殆どその広さが分からなかったが、今なら分かる。
くっっっっっそ広い。ひろーい。
めっちゃ広い。東京ドーム何個分だろうか、東京ドームがどのくらいの大きさか全く分からないので参考にならないけど参考までに聞きたい。全く分からないが。
「で、ここで別れなきゃだね」
「あれ、そうなの?」
依田は呆れた様子で俺を見た。
「調べなかったのかい?」
「いや、ははは……」
「まぁ、にしても酷いかもねあれは」
「ん?」
依田が指を指した先を見る。若干色がハゲかけた三階建ての建物だ。
「あれが君の通う方の校舎だよ」
「ふーん」
「あれ? 悲しくないのかい? あの建物とそこの建物、随分質に差があると思うんだけれど」
「いやぁ、分けられてるのは悪くないと思うし、若干ボロい感じは、どうせ見た目だけだろ? ほらそこまで金が回らないとかそう言うのよく聞くし」
「あれはたぶんそう言うのじゃ」
「それに大事なのは誰がいるかだろ?」
「……そうかもね」
「だから夕張さんと会えるように計らってくれよ?」
「結局それか。それさえ出来れば君にとっては良いのだろうね。分かってるさ、その方が楽しそうだからね」
「ありがとうな」
「頑張りなよ、止水」
おうよ、と言って別れる。
にしてもあの建物。見た目以上にボロそうだなぁ。
入ってみれば普通の校舎の様相を保っていた。
一階が三年で、三階が一年だった。階段を上がろうとして、気付いたけど手すりが細い。しかも支えている柱も細い。しかもそっちいくつか根本から折れてる。ちゃちぃ作りだ。
「うわ」
足元からぎしりと音が鳴って、足裏に感じていた反発が弱くなる。ちょ、見た目凹んでるだけで油断していたけど床腐って抜けてないここ?
驚いて数秒硬直してしまった。
「大丈夫か、ここ」
……思わず口に出してしまったが、許して欲しい。
ともあれ、教室にたどり着いた。そもそも教室数も少ない校舎だ。すぐにたどり着くのは道理である。
良かった、いる人間は普通だ。当たり前か。