氷原にて炎舞う 2
「いたいた、香織ちゃん、早かったね」
「何となく席が埋まりそうだったからね。早めに来てたんだ。識杏、君は人混みは平気だったかい?」
「うん、ちょっと、酔ったかも?」
「見ての通り、この人混みだからね。仕方ないさ」
依田が周りを見回す。席全てに人、人、人。最前列は最早空いている場所がない。何故こんな人気なのか。
「止水、人気だねぇ」
「………田倉か。何故居るのかい?」
「親友の戦いを見に来ることが悪いというのなら、退場するのは御免だね。絶対見る。でてけって言われてもね」
「私は何故背後の席に居座っているのかって聞いたのだけれど?」
「細かいことは気にしないの、香織ちゃん、そんなんじゃ楽しめることも楽しめないよ?」
何とも依田にとって気分の良くない所だ。だが、田倉であれば何か知ってるだろうと、依田は口を開く。
「なんてかね、実戦評論部? って言う部活動がね、ピックアップしてたからね、このカードを。だからここに上級生すら来てるわけだよ」
が、勝手に田倉はそう言った。実戦評論部、と言うのは何か依田には分からない、けれど何か下らないことをしている雰囲気があるなと、勝手に思った。
「言われてみれば、確かに年が違うね」
夕張がそんな事を言うが、見ただけで年齢を知れるのは君だけだ、と依田は内心苦笑を浮かべる。
「で、勝ち目有ると思えます?」
田倉が、急に真面目な声で聞いてきた。急激な変化に、依田は
「……無理じゃないかな。例え強化専門だった最城でも、さ」
「強化専門? 今まで剣で攻撃してたあの人が?」
「そも、魔剣を強制的に作り出す能力、って最初に言ってたのは彼自身だ。でも、武器は持ち込めない。だからあの戦法を取っているのさ」
「理屈が分かんねぇよ」
「知るか。私が知ってることなんて高が知れてる」
夕張が見たら即看破であるが、依田は耳打ちして、彼女が発言する可能性を既に封じている。まあ、大方予想は付いている。空気中の金属元素でも媒介にして魔剣を造ったのだろう。恐らくはそれが一番───弱い。
「そうなら別に良いか」
田倉の視線の先で、試合開始の合図が響く。依田は食い入って試合を見る夕張を横目で見て、席を立った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へぇ、流石に驚かないか」
剣が六本同時に飛んでくる。俺は足元を確認しながらゆっくりと前に進み、剣を振り払う。
幅広の剣の先に引っかけるように当てるだけで、炎の剣が散る。火の粉が氷原を溶かしていく。
下に土はしっかり存在するが、溶けた氷でドロドロの泥。恐らくは下手に固まった氷よりも悪い足場ということだ。
「どうしたんだ? 走ってこないのか?」
再召喚した炎の剣が一本ずつ真っ直ぐに打ち出される。それを俺は立ち止まって迎え撃つ。右へ左へ振り払うと炎が羽を広げるように散っていく。その傍らでゆっくりと練気を溜めながら。
練気のカラクリは聞いていないのだろう。急がない、所々しっかり動きを止めて溜めていく。六本であれば多少の隙が有る、彼我の距離は今三十メートル。
「寒いのか暑いのか分からんな」
雪が解けて蒸気が視界を覆う。剣が見えなくなるほどではないにしろ足下が見えづらくはなる。あまり悠長にはしていられない。
「幻闘流《暗翔》っ!!」
練気が右足に2、左足に1の比で分けられる。三秒分も消費して発動する《暗翔》は脚力を三歩分上げる武技。
成り立ちがバスケで立ち止まってしまった時にダンクシュートするために出来たとか師範がふざけた様子で語っていた。ちなみに立ち止まったときの足もカウントされるから三歩も歩いたらトラベリングである。
それは今どうでもいいか。
「鍛造」
名の通り、飛翔する。たった一歩で直線五メートルは飛び越える。宙に居る俺を狙って炎剣が飛んでくる。俺はそれを盾を正面に作り出してガードする。
実体が余り強くない炎である。盾で弾けば十分───着地地点が霧が覆われている!!?
「まずっ───」
盾を消す。炎の剣が連続で飛んでくるのは変わらず、俺は何とか剣を振り払って散らす。とっさのことで頬や手を焼かれたが、そう大したことはない。
そして着地点は案の定、地面が露出していた。周辺がごっそりと、雪も氷もなく、水溜まりになっていた。剣が低空を飛んでいたり、時折減速していた事は意識の外であったが、成る程このためだ。
「──っとぉ!!」
「それは見させて貰ってるよ」
盾を下にして着地の用意──だが、そうすることは分かっていたのか。最城はそう言った。
盾が着水すると同時に不自然な水の隆起が起きる。それは中心に異様に黒い泥があり、錐状になって俺に迫る。
水溜まりは最城の何らかの能力のカモフラージュだったのだろうか。偶然の水しぶきじゃないことに気付いてからじゃ、回避は間に合わない。
「らぁッ!!!!!」
接衝。それも体に接していない盾を通しての発動は不完全で地面と俺の間から逃げた余波が水を揺らす。それから俺の体が跳ねる。尚水の錐は揺らがなく、狙いを外した事を察する。
体を捻りながら盾を消して再度構築する。
「ごめんね、高所恐怖症とかだったらね」
何のことだ、と思ったが遅かった。水の錐、と思っていた物は剣だった。下からの乱撃が俺を襲う。
ただ、空に叩き上げるつもりだと言うのを理解したがどうしようもなく、盾でひたすら防ぐしか出来なかった。
「あーーたっけぇ!!!!」
ヤケクソに叫べどもどんどん高度が上がる。盾は砕けて硬度が上がる。
ねぇこれ死なない?? 死なないよな!?




