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 30s   作者: リョウゴ
万物支配の王と邪神教本
17/98

再戦、王 1



 爆音が響く。俺は思わず耳を塞いだ。どっかの能力者の能力誤発か? なんて思いながら素早くベッドから降りる。


 もう既に足は不自由なく動く。数日でこのレベルに回復するとは、とんでもない環境だな。日本どこを探してもここまで傷を治すのが迅速に行われる場所など数えるほどしかないだろう。そう思いながら走り出した。


 日が煌々と赤く煌めいているのが窓から見える。夕暮れ時である。


 夕張が帰って行ったことが記憶に新しすぎる所で爆音だ。当然身構える。────が、慌てて行動したところで既に無駄だったようだ。


「やあ? あわててどこに行くんだ? 結城止水君?」


 待ち伏せをしたかのようなタイミングで保健室を出ようとした俺の目の前に凶悪な笑みを浮かべた男子生徒──王貴優成が丁度保健室にやってきたのだ。


 何のために? 当然コイツが何故こんな性格なのかは解らない。分かりたくもない。けれど何をしに来たのかは分かる。そいつの目には強い感情が煮えたぎっていた。


 復讐、と言ったところだろうか。先程の爆音はお前が? 夕張はどうした? 聞こうとして、止めた。


 ───何故ならば聞く前に確信したからだ。こいつが、やったのだ。


 相手を見定める為に王貴優成の全身を見る。この男は制服姿で、ただ一冊の本を右手に持って居るだけ。隠し持つ、なんて性格でもない。


 だが、剣を引き抜くための挙動はその一冊の本が目に留まった地点で止めてしまった。いや、止まるほどに驚いた。


「な、お前、何でそんな物を持って」


「あ、これぇ? わかるぅ? 分かるよねぇ? これ、王の書って言うらしいんだけど、もう王ってだけで僕に相応しいよね?」


 ──"王の書"だって!? "それ"はそんな馬鹿みたいな名前の物じゃないだろ!?


 しかし、王貴はペラペラと喋る。持っている本の危険性をまるで理解していないそぶりに、俺は苛立つ。それは、持っていても何一つ良いことなんか無い道から外れた力だというのに。


「当然。この本は凄かった。何せ王の書っていうのはこの僕のためにあるような本だ。当然僕は今まで以上の───力を手に入れた。王として素晴らしい力をね!!!」


 本から───否。王貴から闇が吹き荒れる。実際に風を伴ったのはその闇色のオーラが実体を伴っているからだ。なるほど、俺はその力をよく知っている。


「それは、誰に貰ったものだ?」


 俺は思い出したかのようにレインを開いて夕張に電話をした。


「さあ? 僕の凄さを良く解ってくれる良い奴だったとだけ。他は覚えてないなぁ」


 王貴は、嘘をついた訳ではない。本当に覚えていないのだ。興味がないから。そのとき興味があったのは王足り得る力、ただそれ一つだったからだ。


 10コール。出ない。次は依田───あぁ。あいつの電話は登録してなかった。依田ならこの事態の重大さをよく分かってくれる筈なのだ、だからこのタイミングで連絡できないとなると


「おい? 結城止水? 何をしている?」


 王貴の目が俺を見据える。感情の読みとれない、目だ。見る相手に恐怖を感じさせる様な……。


 怪しんでいる。兎に角このままでは不味いと話題に乗る。


「あ、この後どっかでやり合うんだろ? 先生に電話をしようかと思ってね」


 そう言いながら掛けた先は田倉だ。だって選択肢がないんだから、仕方ないじゃないか。先生の電話番号? 知るわけ無いだろ?


『はいもしもし? 結城? 珍しいな、結城から掛けてくるなんて』


「それなら第5屋外を予約しているから問題ない」


「あー? そうだったの? "第5屋外訓練場"で俺と"王貴"、お前が"再戦"しようって?」


「ああ、当然逃げないだろうな? 結城止水??」


 王貴の声は良く通る。それに保健棟の廊下と保健室の間の会話だ、元々騒音なんてそう有りはしない。だから当然電話にも届く。


「どうせやるなら審判は要るよね? "依田呼んで"いいよな?」


「当然断る。依田香織? あの女はお前側の人間だ。公平さの欠片もない。また手出しされたら面倒だ。却下だ」


 また、と言って思い当たるのは前回の試合終了後の救助される時の自爆。やはりあれは依田が干渉していたのだろう。


「ま、仕方ないな。所で王貴優成、夕張識杏っていう女子生徒、知らないか?」


「知らないな。僕は僕に相応しい女以外覚えていないからな」


 …………。


「と言うわけだ。どうせ依田の電話番号知ってるんだろ? 伝えといてくれよ? 頼んだぞ?」


『OK。任せてくれ──』


 マジで頼むぞ、田倉。


「ほう? 今の今まで助けを呼ぶ電話をしていたわけか。別に良い。王は寛大で有るべきだからな」


 ひらり、と右手に握る本を顔の高さで振る。本の間から闇が吹き出す様を見て漸く俺は思いだした。


 ───邪神教本の事伝え忘れた、と。




「律儀に到着まで攻撃を待ってくれるんだな」


「そも、王は寛大だ。ただでさえ弱者だと言うのに、その上不意を突くような真似、出来よう物か。いや、できまい」


 携帯電話が常に振動している。レインのクラスグループの通知だろう。ひっきりなしに鳴り続けるものだから気になって仕方がない。


「見ればいいだろう? 僕は今気分が良い」


 だから見逃してやろってか? 喧しいわ。見るけど。


 電源をつけると、真っ先にクラスグループの最新のコメントが表示される。


『と言うわけで現在集団で王貴某闇討ち準備中』


「どうしてそうなった!?」


 慌てて開く。王貴が怪訝な目で俺を見るがこの際無視する。色々なコメントを流し見していく。


田倉『取り敢えず結城が前の対戦相手に絡まれてる模様、すぐに助けを呼んできたのでなんかあったっぽい?』


『ぽい?』『そうっぽい』『ぽいー』『ぽいぽいー?』『ぽいっぽいー』『あんまりふざけられる文面でもないのにふざけるな』


田倉『取り敢えず第5屋外訓練場でやり合うらしいから見に行こうぜ?』


 この地点ではまだ普通だった。因みに今回はハンドルネームは分かる範囲で脳内補正しているので悪しからず。


藍逆『逆恨み? ですかね?』


田倉『まあ、だろうよね? 正直変な奴だったしね』


酒田『能力者相手に正々堂々と戦おうとする地点で間違えてる気がします』


田倉『正々堂々?』


秦野『正々堂々闇討ちする』


田倉『それ、良いかもね』


藍逆『ええっ!?』


真野『と、言っても野次馬根性発揮して行ったとして正面から戦うならまともな援護は無理だよね。賛成』


相楽『筋力が全てだ』


『ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』


田倉『よし、脳筋二人も賛成みたいだし来る人は第5屋外訓練場きてねー?』


 こっからか…………。こっから闇討ち準備中に繋がるのか。


結城『取り敢えずのんびり向かってる』


 コメントした。


「なる程、待ち伏せを選んだか」


 慌てて俺は携帯電話をポケットに入れた。しかし王貴は先を…──訓練場を見ていた。まさか、訓練場に誰かが居るのが分かるのか? このまだかなり距離あるというのにか?


「踏みつぶしてやろう。存分に──」


 動く。王貴は間違いなく。


『にげろ』


 ポケットに入れてしまった携帯電話を取り出して鍵打する。馴れないタイピングだというのに即座に三文字打てたのを誉めて欲しい、が今はそれよりも問題がある。


「この王たる僕を罠になぞ、三年は早いわ!!」


 闇が吹き荒れ、王貴を空へと運んでいく。俺はそれを咄嗟に出した盾で風避けしながら眺めているしかできなかった。


 遠くから悲鳴が聞こえたような気がして、急いで俺は駆け出した。

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