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狐ぼんじゅーる編9

 りっちゃんは電車通学だったので、僕もりっちゃんに付いて駅まで歩いた。

 そして駅に着いて僕も一緒に電車に乗る。僕はこれでも何回か電車に乗ったことがあるよ。無賃乗車むちんじょうしゃだけどね。

 妖怪は人から視えないから大丈夫。よい子の人間は人から見えるから死んで視えなくなるまで真似しちゃ駄目だよ。逮捕されちゃうからね。

 田舎の電車だけど通勤通学時間の電車はギュウギュウ詰めとまではいかないけど人と人がぶつかるくらいには混んでいた。

 電車の中では僕は踏まれないようにりっちゃんの肩によじ登った。りっちゃんはその際、僕に視線を向けたけど何も言わなかった。

 僕は霊ではなく妖怪だから一応実態があるので人に踏まれると痛いのだ。まあ、体をあの世に近づければ踏まれても大丈夫だけど。加減が難しくて上手くそうするのに力を使うから楽な方にする。僕はほとんど重さは無いからりっちゃんの肩の負担にはならないしね。りっちゃんが野球部に入部したとしても肩の心配は無用だ。

 りっちゃんは今日は男の制服を着ていた。男の制服は学ランだった。

 ちゃんと男の格好をしていれば、りっちゃんは普通に格好いい。女装はあと一年の見習い期間限定だそうだしがんばれ。



 電車から降りた駅を徒歩で少し行ったところに学校はあった。特に目立つところはないよくある公立の高校だった。

 けど、校門に入っていく子はそこはかとなく頭が良さそう。たぶん眼鏡のせいだ。生徒の三割くらいは眼鏡をしている。


「ねえねえ、りっちゃん。りっちゃんの学校って頭いいの?眼鏡の人多いね」


 僕は足元でりっちゃんを追いかけながら話しかけるけど、りっちゃんは僕をひたすら無視した。

 まあ、家から出るときに『俺はおかしな人だって思われたくないから周りに人がいる時はお前の言うことは無視するからな』と宣言されていたけど。

 一匹で話しかけているのも寂しい。


「おはよう、竜泉院くん」


 校門に入ってすぐりっちゃんが女の子に話しかけられた。薄っすらと化粧をしているおしゃれが好きそうな女の子だ。

 話しかけられてりっりゃんは愛想良く彼女に返事をした。


「おはよう、高橋」

「良かったらここから一緒にクラスに行かない?」

「いいよ。そういえば今日は朝礼だな」

「…はあ、朝礼の日ね。服装検査があるんだっけ面倒くさい」

「でも今日は抜き打ちじゃないだけマシだな。俺は普段から問題ないから大丈夫だけど」

「もう。男子はいいよね」

「男だって髪の長さを注意されるけどな。前も小林が指導室行きだったし」

「小林のあれは、まあ仕方ないかなあ。でも髪型くらい好きにさせて欲しいわ」


 二人は傍目から見ると仲良さそうに話している。

 りっちゃんはこんな風に通学途中、同じ学校の制服をした人やそれ以外にも男女問わず話しかけられていた。中には顔を赤く染めて挨拶してくる女の子もいたからそういう意味でも人気があるんだろう。

 …しかし、僕は気がついた。りっちゃんは他の人に接するとき僕に対してよりずっと当たりが優しい。

 せっかく優しそうな少女マンガでならヒーローしてそうな容姿なのに性格がもったいないなと思っていたけど。その残念な正確は僕の前だけらしい。

 優しさを僕にも分けたまえ。


「みんなには優しいのにりっちゃん僕にだけ酷い。りっちゃん僕にだけ冷たい、りっちゃん不平等。りっちゃんの怒りんぼ星人!」


 思わずりっちゃんが無視をしているのを良いことに足元からりっちゃんに不満を言うと。

 りっちゃんは視線を変えずに同級生に笑顔で対応しながら、足元にいる僕を蹴った。器用な男である。



 学校の間は最初は真面目に授業風景を見守っていた。座学の間はお休みの人の机の上で伏せをしながら聞いて。そして飽きたらりっちゃんの膝に乗ってりっちゃんのお腹と机の間から顔を出して授業を聞いていた。

 りっちゃんは何か言いたそうだったけど、何も言わずに膝の上に置いてくれた。


 でもそれにも飽きたから午後の授業中、僕はりっちゃんが授業で教室から離れられない間に遙香はるかを探しに行った。

 りっちゃんは教室から出る時に「おまえ、どこに」と小声で呼んだけど、耳の悪い僕は聞こえないふりをした。


 遙香はるかは二つ隣の教室にいた。やっぱり同級生だったらしい。

 僕は遙香はるかにだけまた視えるように妖術を使って遙香はるかに近寄ると、僕に気がついた遙香はるかは驚いた顔をして、けど笑顔を僕に向けてくれたので僕は遙香はるかの膝によじ登った。

 遙香はるかはその際に机から椅子を引いて座り直してくれたので、僕は簡単に膝の上に登れた。


「遙香、こんにちは。遙香はるかあのね、りっちゃん酷いんだよ。僕を邪険じゃけんにするの。でもね、りっちゃんの家族は僕に優しかったよ。遙香はるかからもりっちゃんに僕を可愛がるように言ってよ」


 僕が愚痴を吐くのも遙香はるかは嫌そうにしないで膝の上の僕を周りから気がつかれない程度に撫でてくれた。

 さすがに授業中なので無言だったけど僕が来たのを嫌がってはいないみたいだ。

 やっぱり女の子は良いね。柔らかい。そして手つきが優しい。雪門ゆきかどももちろん良いけどね。


 授業が終わるとすぐにりっちゃんは遙香はるかの教室にやってきた。

 りっちゃんは遙香はるかを見て、遙香はるかの机に座る僕を視ると少し不機嫌そうな様子でずかずか教室に入ってきた。


「おはよう、竜泉院りゅうせんいんくん」

「おはよう本田ほんだ


 …あれ?2人はお互い苗字呼びだ。

 昨日はりっちゃん、遙香はるかと親しげだったのに。いつの間に喧嘩でもしたのか。


「2人とも喧嘩は駄目だよ。仲良くしないと。そうだ、僕がとりなしてあげよう。りっちゃんは僕に対して性格悪いけど、良い人だよ遙香はるか遙香はるかは、りっちゃんと違って優しくて座り心地も柔らかかったよりっちゃん」


 僕が二人のことを褒めると、りっちゃんは僕の頭を不自然でも気にしないといった様子でガチリと手で掴んだ。


「俺が怒っているのはお前に関してだ馬鹿狐」


 りっちゃんは僕とやっとこさ遙香はるかに聞こえるくらいの小声で言った。それと同時に頭をギュウって握りしめる。僕が頑張ってりっちゃんを褒めてあげたのにこの扱い。

 ちょっと、握力が強い。頭潰れちゃう。さすが拳大の石を思い切り投げられるだけのことはあるね。


「り、竜泉院りゅうせんいんくん。私は大丈夫だよ。あの子も良い子にしていたし」


 遙香はるかは周りに聞かれても良いように僕のことをあの子と言い換え、僕をフォローしてくれた。遙香はるか優しい。しびれる。頭もしびれそう。

 それにりっちゃんの手の力が緩んだので、僕も反論する。


「そういうことだ、りっちゃん。僕は良い子だぞ。心配するな」

「本当に大丈夫なのか?」

「う、うん」


 りっちゃんは遙香はるかの目をしっかりと見て尋ねると、遙香はるかは少し恥ずかしがるようにして首を縦に振った。

 するとりっちゃんも諦めたらしい。遙香はるかの机から身を引く。


「分かった。けど何かあったらすぐに言ってくれ。…あと、あいつに伝えておいてくれ。今日も俺の家だからなって」

「えー。まあ、お母さんも雪門ゆきかどもいるからいいけどね。あとこたつとりっちゃん」


 りっちゃんは怒っているのか僕のジョークに反応しないで教室から去って行った。


 遙香はるかもりっちゃんもどちらも授業を真面目に受けていた。

 周りの子がやっている教科書やノートに落書きなんかも、友達と手紙のやりとりもしないできちんと話を聞いている。だから僕も授業中はもうおしゃべりはしないで大人しく遙香はるかの膝の上に丸くなっていた。

 りっちゃんのことが頭から離れないまま。


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