狐ぼんじゅーる編7
雪門にりっちゃんの部屋の場所を聞くと、りっちゃんの部屋は二階の階段手前だった。その奥にはりっちゃんの両親と今はいない長男の部屋があるらしい。
ちなみにりっちゃんの部屋の向かいが雪門の部屋である。
部屋のそれぞれにはプレートが掛かっているから間違えるとこはなさそうだ。
雪門は僕にドライヤーをかけた後、勉強があるからと部屋に戻って行った。雪門は今年受験生らしい。だから都会の学校に向けて勉強をしているらしい。
僕は自分の部屋に行った雪門の邪魔をしないように居間でお片付けをするお母さんと僕の食事についてとかを話をしてから、静かにりっちゃんの部屋に行った。
お母さんは僕の部屋を用意してくれるって提案してくれたけど、一人で寝るのは寂しいから断った。お母さんと一緒に寝たいなあとも思ったけど人妻と寝るのはね。パパさんがどんな人が分からないし愛妻家とかだったら怖い。
僕は雌だけどさ。一応念のため。
りっちゃんのパパさんってやっぱり悪霊払いをしているらしいから、下手なことしたら僕が滅されちゃうかもだし。
あっ、パパさんは今は仕事でしばらくはいないらしい。あと、もう一人一番上に雪門より2つ上のお兄さんがいるみたいだけど、彼は都会の大学に行っていていないみたい。長男も大学に通いながら現地で悪霊払いをしているって。
一番上のお兄さんか。
雪門みたいに優しい人ならいいのにな。できれば『よーし、モフフ。モフモフしてやるぞ。甘えさせてやるぞ。俺の世界はモフフで回っている!』みたいな。
…それはそれでやっぱり嫌かもな。ちょっと重いし怖い。
りっちゃんの部屋に勝手に入ると部屋は汚くはないけど少し散らかっていた。まあ、この程度なら高校生なら綺麗な方だろう。
青を基調とした男の子らしい部屋だ。
大きい家具といえばベッドと机、本棚くらいで少ない方だと思うけど、それでも雑誌とかの本や小さなぬいぐるみ、雑貨などの物があるので物は少なくない。
僕は青い布団がかかったベッドに登ると布団の上で体を丸めてりっちゃんが来るのを待った。
いつの間にか寝ていたらしい。
布が擦れる音が聞こえるなと思ったら、僕はいきなり下に敷いていた布団を傾けられ、ベッドから落とされて床に顔を打ち付けた。
目を開けると、りっちゃんが猫型ロボットと同じ色合いの青いシャツのパジャマを着て、僕の寝ていた布団の端を持ちながら僕を見下ろしていた。りっちゃんが僕をベッドから落としたらしい。
「りっちゃん、お風呂から上がったの?もう寝るの?」
「ああ」
「じゃあ一緒に寝よ」
僕は怒るのも面倒くさかったので、眠くて目を薄く開けながらよろよろとまたベッドへ登ろうと前足をベッドへ掛けると。
りっちゃんは僕の前足をベシっと払った。
「なあに、りっちゃん僕は眠いんだけど」
「おまえはあっちで寝ろ」
「あっち?」
りっちゃんが指差す方を見ればそこにはふかふかの空色のクッションに濃い緑色の毛が厚くて暖かそうなブランケットが添えられてあった。
りっちゃんが僕のために寝床を用意してくれたらしい。
ペット用の。
「気持ちはありがたく受け取っておくけど。僕はベッドでりっちゃんと寝たい」
「断る。動物なんだから床で寝ろ」
「床で寝たらりっちゃんの部屋で寝る意味ないじゃん。寂しいじゃん。なんなのりっちゃん。もしかして僕と一緒に寝るのが恥ずかしいの?」
「んな訳ないだろ。動物なんて気にしない」
りっちゃんは頬を染めて小声で怒る。小声なのはたぶん、向かいの部屋で勉強している雪門に遠慮しているんだろう。
じゃあ良いじゃんと思ったけど、りっちゃんは僕が何か言う前に僕を乱暴に抱き上げると用意されていたクッションへと僕を落とした。
クッションはフカフカなので落とされても痛くはない。ペット用にしては良い待遇だ。
「おやすみ」
「え、りっちゃん」
りっちゃんは有無を言わせずに部屋の入り口近くにあったスイッチをポチリと押して部屋の電気を消すと、一人ベッドへと向かい横になった。
僕はそんなりっちゃんをクッションの上にお座りをしながら暗闇の中見つめる。
まだ一日も経っていないけど。なんだかだんだんと、りっちゃんの僕に対する扱いが雑になっている気がする。
あ、雑なのははじめからだった。最初に石投げてきたしね。