鬼ぼんじゅーる編19
学校の放課後。今日はりっちゃんは一緒に帰れない。来週ある体育祭のクラス対抗リレーの練習をするから。
クラスの足の速い人から選ばれるリレー選手にりっちゃんは選ばれたのだ。さすがりっちゃん。まあ僕の方が足は速いけどね。
いいなあ、体育祭僕も出たい。
と、そんな訳で僕は放課後一人で帰ろうと帰宅する生徒が疎らにいる玄関の靴箱のところをトコトコ歩いていると。
「あれ?モフフくん」
雪門と会った。
鞄を手に持ちちょうど雪門も帰ろうとしていたみたいだ。
「雪門お兄さん今帰り?」
「うん、モフフくんも?三門は?」
「りっちゃんはこれからリレーの練習だから先帰ってろって」
そう答えると雪門は微笑み「なら一緒に帰る?」と聞かれたので、僕はすかさず肯定した。
「帰る!今日 雪門お兄さんは家に帰るの?」
「うん。一回家に帰ってから塾に行くよ」
「そうなんだ。雪門お兄さんと初めて一緒に帰れるの嬉しいよ」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
お互いに笑顔でそう言って、僕らは帰路についた。
駅までの帰り道僕らは周りを気にしながらもお話をする。
「雪門お兄さんは体育祭何に出るの?」
「うん。200と400メートル走に出るよ」
「二つも出るの?」
僕はチーと一緒に授業に参加しているから知っているけど、体育祭は普通出場するのは一種類だ。まあ足の速い陸上部とかは僕が見たクラスだと二種類入れられてたけど。
「うん。本当はリレーに入ってほしいって頼まれたけど。塾があるから二種類で了承してもらったんだ」
「リレーって雪門お兄さん足速いの!?」
りっちゃんと違い運動しているところも見ないし肌も白いから正直 雪門は運動が苦手だと思っていた。
僕が驚くと雪門は苦笑した。
「まあ、他の兄弟よりは運動はできないけど。悪霊払いの仕事もあるから僕もまったく鍛えていないわけではないしね。それに人はね、コツさえ知っていれば平均より運動はできるようになるものなんだよ」
「そうなの?」
「うん。運動できない子はただできないって思いこんでいるだけ。僕から見たら後ろで一生懸命走ってる子はもったいないなと思うよ。ああいう子の方が強くなれそうなのに」
「それなら妖怪にもあるかも」
僕は師匠とすぐに出会えたから妖怪の中でも上位になれたけど、我流だったらここまで強くはなかっただろう。
「僕は師匠から教わってここまでになれたもの。師匠がいてくれて良かったと思うよ。知識って大事だ」
「うん。僕に運動や勉強のコツを教えてくれたのは兄さんなんだ。僕もだから兄さんに感謝しているよ」
雪門はそう優しい表情で微笑んだ。
なるほど、だから雪門は春門のことが大好きなんだ。
りっちゃんも春門に感化されてるって言っていたし、本当に良いお兄さんなんだな。怖がってごめん。
「じゃあ、雪門が走るの僕応援するね」
「いいの?ありがとう。モフフくんが応援してくれるなら頑張れるよ、それに君が見ているのなら格好悪いところはみせられないね」
雪門は少し恥ずかしそうに頬を染めてはにかんだけど、これ聞いている僕の方が恥ずかしいと思う。僕は僕の美しい毛に隠れて表情は悟られないけど。こそばゆくなる。面はゆい。
僕は隠すように冗談めかす。
「雪門お兄さんって危ないね。妖怪の僕でさえちょっとときめいたよ」
「そうかな。本音を言っただけだったんだけど」
「ほらほらぁそういうところ。まったく女の子にそういう勘違いされそうなこと言わないようにね」
「ふふっ、大丈夫だよ。僕は勘違いされても良い子にしかこういうことは言わないから」
「うぐっ」
雪門は微笑みを保ったまま綺麗にそう言い切った。なんてたらしな言葉だろう。
これ、雪門まさか僕をからかっているのではと疑うんだけど。どっちだろう。天然か腹一物か。
雪門をまじまじと見てみるけど分からない。
ま、まあ僕に勘違いされても僕は妖怪で種族も違うから、勘違いされても問題ないから言ったってことだよね。そう結論付けておこう。
「とにかく、気をつけてね。りっちゃんも雪門お兄さんもモテるんだから。僕知ってるよこの前お昼休みテニスコートの近くで雪門お兄さんが告白されてたの」
ちょうどチーと一緒に歩いている時に目撃したのだ。
チーと一緒にひょこんと壁から顔半分出して覗いていた。
真っ赤に可愛らしく頬を染めた可愛い女の子に告白され、雪門があっさりと「今はだれとも付き合うつもりはないんだ。ごめんね」と返していたのを。
あのあっさりさ、確実に告白慣れしてる。
りっちゃんなんて前告白されていた時、恥ずかしそうにしながらもきっぱりと断っていたし。まありっちゃんも告白慣れしてるけど、事務的に返していた雪門ほどではない。
「見ていたんだ。恥ずかしいな」
雪門は困った様子でそう言った。
「モフフくんの言う通り、気をつけてはいるんだけどね。告白されても受け入れるつもりはないから断るのは申し訳ないからそうならないように」
「受けないの?」
「うん。まだ誰かと付き合うとかそういうのは余裕もないしね。モフフくんはどうなのかな?」
「僕?」
「もし君が誰かに告白されたら付き合う?」
話を変えられるように雪門に尋ねられ困った。
うーん。付き合うって言っても僕は長い年月を生きる妖怪だから子供を成す必要がない分人よりそういう感情は希薄だ。
そう成りたいと思う者がいたら分からないけど。今は特にいないし。甘えたいとか撫で撫でして欲しいとか友達が欲しいとかならあるけど。
「僕はいいかな。面倒くさいし。僕は妖怪だからね。そこまで恋とかって必要もないもの」
「話には聞いていたけど妖怪って恋愛事はあまりしないものなの?」
「うん。そりゃあるにはあるけど。子供たくさんいる鬼もいるし、人間と恋した妖怪もいるけど。珍しいよね」
「人間と恋?」
「うん。いくつか聞いたことあるよ。でも、長い年月の中のいくつかだから稀だし。やっぱり生きている次元が違って種族も違うからそうあることでもないよ。犬とかに恋するようなものかな。いや、まず出会うことも難しいから深海魚と恋するようなもの?」
僕は首を傾げて説明した。
細かく聞かれるのは困るから言わないけど、リスクもあるし。
やはり妖怪の間では人と交わることを好適に思う者はすごく少ないし、過去やはりそうなった時に大きな問題を引き起こしたことも度々あった。そんなリスクを知ってまで愛しく思う人なんて今までいないし。
「そうなんだね」
雪門は先ほどより声を落として言った。
気が付けばもう駅近くで通る人も増えてきている。
黙って僕は駅に入る雪門の後を追う。雪門とおしゃべりすることに夢中になっていた。僕は恋はしないけど、女の子だから人間の恋話聞くのも見るのも好きだし。
生が短い人間ってそういう点いいよね。
甘酸っぱい。




