鬼ぼんじゅーる編18
ソフトクリームを食べ終わった後、ベンチでこれからまだ行っていない園内の蔓薔薇のドームがあるイングリッシュガーデンに行こうかと話していると、りっちゃんはいきなり立ち上がった。
「ごめん、少し行ってくる」
りっちゃんはそう一言感情を抑えるようにして言うと入り口にある蛭のようなよく分からないモニュメントの方へ向かって行った。
りっちゃんの向かう先には一人りっちゃんと同い年くらいの焼けた肌、短い髪でどこにもいそうな健康そうな少年が立っていた。誰だろう。初めて見る人だ。
僕も遅れてりっちゃんを追いかける。
「あれ三門じゃん、こんなとこでなにしてぐぇっ」
気が付いた少年はにかりと笑い愛想良くりっちゃんに声をかけたけど、言い終わる前にりっちゃんに後ろから腕を首に回され絞められた。
「田中、お前ずいぶん面白い写真をばらまいているみたいだな」
「ちょっ、ギブギブ」
田中と呼ばれた彼は慌ててりっちゃんの腕を叩き手を離すように訴える。苦しそうだ。
そういえば田中と言えばりっちゃんの女装写真をSNS上にシェアしたとか言っていたけど、彼のことなのだろうか。
首を傾げて田中を見ているとりっちゃんは話させるために首に腕を回したまま力を抜いた。
「三門、写真をバラまいたって、えっ、どれのこと?」
「へえ。そんなに心当たりがあるのか」
「い、いや。ない、かな?」
笑顔で尋ねるりっちゃんに田中も引きつった笑顔で返す。
「ないのか?」
「ごめんなさい」
さらに笑みを深めたりっちゃんに田中はあっさりと謝った。
りっちゃんの怒り方、なんとなく雪門を思い出した。いや怒ったところはまだ見たことないけどなんとなく。
「だって三門って顔良いから写真貼ると反応が良いからついさ。もちろん知り合い内に留めてるよ」
「だからって勝手に写真をシェアするな」
「うん。ごめん」
田中は反省したようで頭を下げた。
それにりっちゃんも腕を解く。
「りっちゃん、お友達?」
僕はそろそろ良いかなと思って、りっちゃんに近寄って話しかけた。
すると僕に気が付いた田中が目を見開いてまじまじと僕を見る。
「うわっ、可愛い。三門の彼女?」
「いずれ、ね」
「違う」
僕が微笑みそう答えるとりっちゃんはすかさず否定した。
「つまらないの。私は三門の友達の桜です。はじめまして、田中くん」
「あっ、うん。はじめまして。俺は三門と同じ中学に通っていた田中光晴です」
さっそく僕はりっちゃんにつけてもらった名前を名乗った。
それに田中は少し頬を染めて緊張しながらも猫を軽くかぶる僕に丁寧に挨拶を返す。うむ、さすがりっちゃんの友達なだけあって良い子そうだ。
「ちょ、三門本当に彼女じゃないのか。友達って、友達でも羨ましい」
「ただの友達だよ」
「まじかよ。桜さん、俺とも友達になってくれませんか。SNSのID教えて下さい」
そう頼んでくる田中に僕は何も言わずに微笑んだ。
一緒にやり取りしてりっちゃんのお話しが聞けそうなのは楽しそうだけど。残念ながら文明の利器など僕は持っていない。
無言笑顔の僕に田中は否定と取ったのだろう。
田中はりっちゃんの「桜はSNSとかやらないんだ」とのフォローは聞こえていない様子で泣く真似をするようにして、背を向け走り出した。
「うわああん、フラれたし!こうなったら三門のあんな写真やこんな写真を中学の同級生に共有してやるぅぅ!!」
「はあ?!まて、ふざけんな!!」
りっちゃんは怒りながら走り去る田中の背中を全力で追いかけた。
それに僕は大人しくその場に立ち尽くした。
こうしてしばらく二人の追いかけっこは続いた。
りっちゃんは足が速いのを知っていたけど、田中も速かった。運動部なのかな。
追いかけっこは田中の待ち合わせしていたらしい同級生の女の子が来たところで、足を止めた田中のお腹にりっちゃんがボディブローを決めて決着がついた。
それから去っていった二人を見送った後、僕に少しの時間ほったらかしにしたことをりっちゃんは謝ったけど、僕は首を横にふった。
「僕も見てて楽しかったからいいよ」
りっちゃんにそう言うとりっちゃんは気まずそうに視線を逸らした。
友達とはしゃぐりっちゃんを見れて嬉しかったし、楽しかったのは本当だ。
けど少しだけ寂しくなったのは内に秘めておいた。




