鬼ぼんじゅーる編16
そしてやってきました薔薇園に。
前はチーと走って来たけど今日は電車でりっちゃんと来たよ。
薔薇園はちょうど見頃で休日なので女性やカップルで花祭りの時ほどではないけど混雑している。
でも、それでもピンクと白のツルバラで薔薇園の入り口の壁が覆われていてそれを見ただけで心踊った。
僕は入り口に来て、ちょっと待っていてとりっちゃんに言ってそばを離れた。
そして木の陰へと行き、誰も見ていない隙にりっちゃんと同い年の少女になる。
今日は巫女服ではなくちゃんと現代に合わせて白と水色のワンピース姿だ。
くるりと回って自分の姿を確認してから僕はりっちゃんの元へと戻ると、りっちゃんはすでに同い年くらいの女の子2人にナンパされていた。逆ナンだ。早い。
まあ、りっちゃんは格好良いしね。知ってたけど。でも僕と遊ぶ時にそれはジェラシーだよ。まったく目を離せない。
僕は女の子と話しているりっちゃんの背中目掛けて飛びつこうかと思ったけど。そういえば大人しくするという約束だったとギリギリ思い出して、止めた。僕えらい。
なので静かにりっちゃんに近づき、りっちゃんのシャツの袖をクイクイと引っ張った。
「りっちゃん、りっちゃん。お友達?」
「!?モ…、お前。いや、違う。少し話していただけだ。さっき話した連れが来たから失礼するよ」
りっちゃんは僕の名前を呼びかけて、途中で止めて女の子たちに断りを入れてから僕の手を引き薔薇園へと足を向けた。
僕はそれに大人しく付いて行く。
薔薇園に入ると赤、紫、黄色、ピンクと色とりどりの種類もたくさんある薔薇が咲き誇っていて僕はウキウキした。すごく綺麗だ。薔薇の上品な良い香りもする。
「そうじゃないかと思ったけど人の姿になったんだな」
薔薇に挟まれた道を歩きながらりっちゃんが小声で僕に話しかけてきたから、僕は薔薇へ向けていた視線をりっちゃんへ移す。
「うん、女の子になったよ。りっちゃんとちゃんとデートしたかったからね!」
「デートじゃない」
りっちゃんはしっかりと否定した。
「えー、まあいいや。でも女と男、どっちに変化しようか迷った。女の子だとりっちゃんと噂になっちゃうかもだし迷惑かなって。でも薔薇園に男二人で来るのもそれはそれでどうかと思ったから僕女の子にしたよ」
「別に俺は性別はどっちでもいい。お前の好きなようにすればいいよ」
「うん、ありがとう。りっちゃん」
お礼を言うとりっちゃんは少し照れた様子で視線を横に移した。
「薔薇すごいね。きれい」
「ああ、そうだな」
僕たちはゆっくりと薔薇を見ながら歩く。
「あのピンクの“芸者”って薔薇かわいい。芸者って言うだけあって日本の薔薇なのかな。大人しい感じで山茶花に似ているね」
「ああ、日本のが見たいなら少し行ったところに日本の薔薇を集めたところがあるけどそこを目指すか」
「わあ、うん行く。りっちゃんは薔薇園詳しいの?」
「昔はよく母さんに連れられて来たからそれなりだよ。とはいってもうちは男兄弟だからほとんど噴水とか遊具で遊んでたけどな」
確かに薔薇園の真ん中には噴水があって、そこから浅い水の通り道があるから今は子供たちが裸足になって水に入り遊んでいる。
僕も狐の姿なら遊びたいけど、人の姿だから自重する。
「あのさ、モフフ。お前の名前を呼ぶの呼びづらいんだけど。モフフって呼んで良いのか?」
「へ?」
「なんていうか……ペットを呼ぶみたいで今は人の姿だから普通ではないだろ。どうしてもって言うなら俺は別にいいけど」
確かに人間でモフフって名前は違和感ありすぎるか。だからさっき名前を呼ぶのを止めたんだね。
可愛い名前なのにね。
「それならりっちゃんの好きに呼んでいいよ」
「好きに……」
「うん、りっちゃんが付けてくれるならなんでも良い」
まあ変な名前なら困るけど、りっちゃんなら変な名前は付けないだろう。
りっちゃんは困った顔をして、少し悩んでから「なら……」と口を開いた。
「桜で良いか」
「桜、良い名前だね!うん、好きにそう呼んで。僕ちゃんと返事するから。ふふっ、りっちゃんに名前を貰って僕嬉しいよ」
「人が周りにいる時だけそう呼ぶ」
りっちゃんは顔を赤く染めながらも言った。
りっちゃんは名前付けるの上手だね。可愛い名前だ。それに初めて人から名前を貰ったから嬉しいよ。
僕は嬉しくてにやけながらりっちゃんと一緒に道を進んだ。
「あれ、りっちゃん?」
「あっ、遥香!」
りっちゃんと歩いているとりっちゃんの名前を前方から呼ばれた。
見るとそれは私服姿の遥香だった。
だから僕は笑顔で遥香に駆け寄りながらりっちゃんより先に名前を呼ぶと遥香は驚いた様子で目を見開いた。
「えっ、もしかしてモフフ?」
「そうだよ遥香。会えて嬉しい!遥香は一人なの?」
「うん、ピアノの楽譜を買いにきたついでに薔薇を見にきたんだけど。モフフと会えると思わなかった。人の姿でも可愛いね」
「ありがとう、遥香も可愛いよ!私服姿可愛い!けどピアノって遥香ってピアノ弾くの?」
「うん。少しだけ、ね」
「わあ、すごく聞きに行きたい」
「それは、恥ずかしいな」
遥香ってピアノ弾けるんだ。ピアノ弾けるってすごいね。ピアノ弾く遥香とか想像するとすごく似合ってる。
遥香と話すのは女の子同士で話が弾む。けど、りっちゃんもいるから後ろで静かなりっちゃんに振り返るとりっちゃんは目が合った僕に気まずそうな表情をしてから僕の隣に並んだ。
「遥香はもう薔薇を見てまわったのか?」
「うん。もう帰ろうかなと思って。これから楽器屋さんにも行かなくちゃだし」
「そうなの!?せっかくなら遥香とも見てまわりたかったな」
僕がそう残念で言うと、遥香は小さく笑った。
「うん、ごめんね。でも私もモフフと一緒に出かけてみたいから、次は一緒にどこか行こうか?」
「え?良いの」
「うん。モフフが良ければ」
「わあ、もちろんだよ。遥香と遊べるの嬉しい」
もし今僕が狐の姿なら尻尾をぶんぶん振っていただろう。嬉しくてそう言えば、遥香も照れたように笑ってくれた。




