鬼ぼんじゅーる編15
夕暮れ時、山に、来たよ!
僕は春門が帰った次の日りっちゃんが学校から帰ったのを見届けてから一匹で雛菊のいる霧崎山へとお土産のどら焼きを持ってやってきた。たっぷり粒あんの入った有名店のどら焼きだ。
それを持って雛菊に会うと今回は僕だけなので前のように殺気は向けられなかった。
なので一緒にオレンジ色に染まる空の下で話をした。
「あんたここに何をしにきたのよ」
「ちょっとお話に。はいこれお土産」
「どら焼き、ね」
「嫌いだった?」
「別に。まあありがたくもらってあげるわ」
「うん、良かった」
言葉とは裏腹に目をほんのわずか輝かせ嬉しそうな様子の雛菊に安堵する。お土産悩んだけど、和菓子ならハズレはないだろうと選んで良かった。アンコが嫌いとかじゃなくて良かったよ。
「それで話って何?」
「うん。前回はいろいろとありがとうっていうのと、最近の妖怪事情について聞きたくて」
「妖怪事情?そんなの同族に聞けば良いでしょ」
「だって実家に帰りにくくて。それにこの世にいる雛菊の方が詳しいかと」
理由としては前者の方が強いけど。師匠なら良いけど同期の妖狐には会いにくい。聞けば教えてくれるだろうけど、嫌みが絶対入ってくるし。僕が人の家にお世話になっていると知ってより嫌みが顕著になっていた。本当狐らしい狐だからね。
「ふーん。最近の妖怪事情ね……」
「うん。なんか最近妖怪の動きが活発だって聞いて。雛菊何か知らない?」
「知ってはいるわよ。あたしの島もそうだから」
「雛菊のところも?」
「まあね。さすがにあたしを狙う馬鹿はいないけど。気が高ぶっているのか妖怪同士の殺し合いも少し増えた気がするし。あくまで気がする程度のものだけど」
「そっか、大きくは変わってないけど違和感はあるんだね」
「まあね。それでもあたしに何か来るまでは何もするつもりはないわ」
雛菊は腕を組んで大きな松の木に寄りかかった。
長い年月を生きている妖怪は小さなことには反応しないからそれが普通だろう。
けれど、僕は少し考える。僕だって普段は小さなことは気にしないけどなんとなくこれは気になった。まあ僕の場合実際に旧鼠と戦ったり不可思議なことを体験したからだろうけど。
「そんなに気になるなら父さんに聞いてみたら」
「菊衛門さん?そういえば菊衛門さんって今アイドルやってるの?テレビで見たけど」
「そうね」
雛菊は眉を寄せて思うところがあるように頷いた。
「知っているか知らないけど。父さんなら人の世に混ざっているから知っていることもあるんじゃない?」
「うーん。でも菊衛門さんっているの都会だよね」
「ええ。首都の帝京ね」
「行くの80年ぶりくらいになるな。僕は田舎者だから帝京苦手だよ」
「別にあんたは力も強いんだから問題はないでしょ」
「え、力が強いから問題はないって。どうして?」
そう尋ねると雛菊は呆れたように僕を見た。
「あんた本当に何も知らないのね」
「うっ、し、仕方ないじゃん。さすがに帝京に行く暇なんて無かったし」
「そうだろうけど。行けば分かるわよ。今の都は面倒くさいことになっているから」
「面倒くさい……」
それを聞いて行く気が少し萎えた。
問題もそこまでのものではないしそのうち機会があったら行こうかな。そもそもここから都会に行くの遠くて面倒くさいし。
そう怠惰なことを考えていると、ふと背後から視線を感じた。
それは酷く殺気を含むものだった。
僕はすぐに毛を逆立て背後を振り向いた。けれどそこにはだれもいない。
「今、誰かに視られていたような」
「……この山の異形でしょ。無視すれば良いわ」
「うーん。すごい殺気だったけど。あれか山の子とかが雛菊と仲良さそうに話す僕に嫉妬でもしていたのかな」
「馬鹿じゃないの」
雛菊は照れ隠しでもなく本気で僕を馬鹿にするように言った。
雛菊って結構辛辣よね。そこも可愛いけど。
雛菊のところから帰った夜、部屋に二人で行きりっちゃんの部屋で僕はベッドの上でゴロゴロ、りっちゃんは机の椅子に腰掛けて雑誌を読んでいたらいきなりりっちゃんは僕に尋ねてきた。
「モフフ、お前って薔薇に興味あるか?」
「もちろん興味深々だけど。どうしたの?りっちゃん」
「前に祭りで花園公園に行っただろ。そこで今薔薇園の薔薇が見頃だってさ」
「薔薇園?それいいね」
薔薇か。
女の子の僕はもちろん薔薇は大好きだよ。桜も美しいけど、薔薇は美人って感じ。
でも、薔薇園か。
人のお庭の薔薇をよく見ていたけど薔薇園に行くのははじめてだ。
「よしっ。次の休日に一緒に薔薇園に行こうよ、りっちゃん。まさか話しておいて一緒に行けないとかではないよね。優しいりっちゃんはまさか僕をぼっち狐になんてしないよね」
「土曜日は仕事だけど、日曜日なら行ける」
「え?本当に?」
「ああ。行けないならお前に言わないしな。絶対に連れていけって言うだろ」
確かに言うし言ったけど、行くって言うまで離さないほどには言わないもん。
でもまさかりっちゃんが一緒に行ってくれるとは思わなかったから僕は驚いた。
思わず頬が緩む。
「嬉しいな。りっちゃんが一緒。しかも遊びに行ってくれるのはじめてだし。僕とても楽しみにしてるね」
「別に花を見に行くだけだろ」
「分かっていないな、りっちゃん。女の子にとってお花は血湧き肉踊るものなんだよ」
「……それは。少し行きたくなくなった」
りっちゃんは沈黙ののち言った。でも声色は本当に行きたくないというものでもない。
「今更行かないって言ってもだめだからね」
「誘った手前断らない。ただ、大人しくしてろよ」
「うん!」
薔薇園しかもりっちゃんと!
りっちゃんとのデート楽しみである。




