鬼ぼんじゅーる編8
それから春門と家族と共に夜を過ごし、僕は寝るためにりっちゃんの部屋へと付いて行った。
その際に春門に「本当に夜を一緒に過ごしているのか」と驚かれ、「私がいない間は私の部屋を使っても構わない」と言われた。
これを言われたのがりっちゃんや雪門なら「じゃあ部屋を漁っても良い?」とふざけて聞けたけど、春門との距離を測りかねているので僕は「春門お兄さん、ありがとう。でも僕りっちゃんと一緒にいたいからたまに借りても良い?」と聞いた。
よくよく考えるとさすがにいつも一緒に寝るのはりっちゃんに悪いしね。前は寂しかったから一緒に寝るのに拘っていたけどここにいて良いって言われて僕も心に余裕ができた。
すると春門は頷いてくれて、すぐそばにいた雪門も「たまには僕の部屋にもおいで」と言ってくれた。
……すごく、うれしい。
そんな光景を見ていたりっちゃんは眉を寄せていたけど、何も言わなかった。
りっちゃんの部屋に入るとりっちゃんはベッドの上に腰をかけて、疲れた様子でうなだれた。
「りっちゃんどうしたの?大丈夫?」
僕はりっちゃんの隣によじ登り下からりっちゃんの顔を覗き込む。
さっきまでは春門に気まずそうにしていながらも疲れた様子なんて見せなかったのに。部屋にきて気が抜けたのだろうか。
「大丈夫だ」
「本当?りっちゃんってさ、見ていて思ったけど春門お兄さんのこと苦手?」
僕は遠慮しないで尋ねると、りっちゃんは驚いたように目を見開いた。
「そんな風に見えたのか」
「えっと気まずそうな感じだったよ。なんとなく」
自分では気がついていなかったのか?僕だけでなく。春門は気がついているかは知らないけど、たぶん雪門は気がついているだろう。
少しだけりっちゃんを気遣うように見ていたから。
「兄さんのことは苦手という訳ではないよ」
「そうなの?」
「ああ。むしろいつも気にかけてくれるし、尊敬もしている。友達の兄弟と比べたら俺は恵まれた兄を持っていると思う」
りっちゃんはそう言葉を選ぶように少しゆっくりと話す。
「ただ、俺は春門兄さんを差し置いて次期当主に選ばれたから、どういう顔をすればいいのか分からないだけだ」
「ああ、そういえば長男とか生まれた順に関わらず当主は選ばれるんだっけ?」
「雪門兄さんから聞いたのか?……そうだよ。俺は選ばれる前は間違いなく春門兄さんが選ばれると思っていたから。俺が選ばれた時は本当に驚いた」
気まずそうなのはそういうことだったんだ。
確かに自分が誰かを差し置いて選ばれるのって気まずいものね。しかもりっちゃんは優しいからそういうこと気にしちゃう子だし。
りっちゃんも非凡な才能を持っていると思うけど。選ばれなかったのが尊敬していたお兄さんならなおさらか。
「気持ちは分かるけど。僕ならそんなことで兄弟から気を使われるのは嫌だな。春門お兄さんのことはよく分からないけど、りっちゃんのことを嫌いなようには見えなかったし」
まだはじめて会ったばかりでも、そう思う。もちろん裏腹な人がいることは知っているけどそれなら聡い雪門が春門をあそこまで好くとは思えないし。
りっちゃんへ言うとりっちゃんは哀しそうな表情をして僕を見下ろした。
「そうだな。本当に、俺は今まではただがむしゃらに努力をしてきて、それが正しいと思っていたけど。それだけじゃなくきちんと周りとも言葉を持って向き合わなければいけない。モフフと会って、気がついた」
「僕?」
「前までならこんなこと誰にも言わなかったのにな。ありがとう」
りっちゃんはそう言って少し笑うと、一つ僕の頭を撫でて部屋の電気を消しに行った。
もう寝るらしい。いつもは勉強をしたりしてから寝るのに珍しい。
僕はりっちゃんが布団に入るのに合わせて布団に潜り込んだ。
「おやすみ。また明日ね、りっちゃん」
「おやすみ」
きちんとりっちゃんは返事をしてくれたので僕は嬉しくてりっちゃんに擦り寄りながら目を閉じた。
りっちゃんと春門のことは心配ではあるけど。
本当は僕が何か手助けをする必要はないくらい大丈夫だと思う。だってこの家族には確かに絆を感じるから。




