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狐ぼんじゅーる編5

 りっちゃんはお母さんの言葉にその場に崩れ落ちた。僕に負けたことが悔しかったのか、僕の面倒を見るのか嫌だったのか。

 そんな弱った様子のりっちゃんを見て、僕は口の端が緩みそうのになるのを抑えてお母さんにお礼を言った。

 お母さんはそれに「いいのよ。モフフさん、三門みかどをよろしくね」と僕へ微笑んで言い、続けて「そろそろご飯だから席に着きなさい」と微笑んだまま四つん這いで項垂うなだれるりっちゃんに言い残しキッチンへと戻った。


 すると、その後すぐに僕の白色のフサフサの耳は二階から人が降りてくる規則正しい足音を捉えた。誰か来る。

 その足音の持ち主は僕たちがいる居間の前まで来ると扉を開け、扉の前に崩れ落ちていたりっちゃんに驚き、続いてその横にちょこんといる僕に目を見開いた。

 彼も僕が視えるらしい。…なんだかこんなに人に視えてると自分が妖怪だってこと忘れそうになる。

 現れたのはまたもやりっちゃんたちよりミルク多めのミルクティー色の、りっちゃんより少しだけ長い髪に、琥珀の瞳の男の子だった。

 いや、子と言うのが迷う年齢だった。

 りっちゃんによく似ているけど、りっちゃんより髪のふわふわは落ち着いているし、背もりっちゃんよりいくらか高い。あと何だかんだ筋肉があるりっちゃんに比べて細くて弱そうだ。部屋着として着ているのか紺色こんいろのジャージの下から見える肌の色も白いし。


「君は」

「僕は妖狐のモフフです。400歳です。しばらくこの家でお世話になります」

「これは、ご丁寧に。僕の名前は竜泉院りゅうせんいん雪門ゆきかどです。三門みかどの兄で同じ学校に通う高校三年生です」


 僕がお行儀ぎょうぎ良く自己紹介すると、雪門ゆきかどは僕の目線に近づくためしゃがんで僕に優しく挨拶してくれた。いい人じゃないか。りっちゃんも爪のあかせんじて飲ませてもらい。


「それで、三門みかど。こんなところに膝をついてどうしたの?お腹でも痛いのかい?」

「違う」


 雪門ゆきかどは決してからかう訳でもなく真面目にりっちゃんの心配をしたから、りっちゃんはうめくように返事をした。

 …というか、もう僕の話題は終わり?僕、妖怪なのにここにお世話になるんだけど。雪門ゆきかどは良いのかな。

 もしかしてこの家では妖怪って珍しくないの?お母さんもあまり話を聞かないで僕の居候いそうろうをOKしてくれたし。


雪門ゆきかどお兄さん、あの、僕は妖怪なんだけど。ここにいていいの?」


 今度は自然と耳をぺたんと伏せて雪門ゆきかどに聞くと、雪門ゆきかどはふわふわと人を安心させる笑みを浮かべて頷いた。


「はい。悪霊を払うのが家業の家ですから妖怪の全部が悪いものではないことは知っていますし。この家にはこの家に対して悪意を持った悪い異形いぎょうは、家に入ると消滅する結界が張ってありますので。家に入れたということはモフフくんは悪い妖怪ではないのでしょう?」


 と、笑顔でのたまった。

 …ちょっと。りっちゃん、僕それ聞いていないんだけど。

 雪門ゆきかどの言葉が聞こえたはずのりっちゃんは項垂うなだれたまま反応はないのでこのことを知っていたらしい。


「ちょっと、りっちゃん何それ。僕聞いてないよ。もし可愛い僕が消滅しちゃったらどう責任とってくれたの」

「お前なんて消滅してしまえ」

「わーん、雪門ゆきかどお兄さん。りっちゃんが僕をいじめるから撫でろ。優しく労るように」

「は、はい」


 僕が泣くふりをしてしゃがんでいる雪門ゆきかどの胸へと飛び込めば、雪門ゆきかどは戸惑ったように僕を抱きしめて恐る恐ると背中を優しい手つきで撫でた。うむ、苦しゅうないぞ。

 思わず、甘えるようにのどを鳴らして雪門ゆきかどが僕を撫でる腕に尻尾を絡ませていると、横から伸びてきた手が僕の白色の尻尾をガシっと掴んだ。


「ちょっと、いきなり尻尾を掴まないでよ」

「調子にのるなこの狐」

「調子にのってないし。甘えてあげてるだけだし」


 尻尾を掴まれて思わず狐火きつねびを出さなかっただけありがたいと思いなよ。本当にびっくりしてりっちゃんの手を燃やしちゃいそうだったんだからね。人間ろうそくになるところだったんだからね。可愛い感じに例えてみたつもりだったけど、想像したらグロい20点。

 ちなみに狐火っていうのは妖狐が使う火の術のことだよ。僕ももちろん使えるし。あと風系の術も得意。


雪門ゆきかど兄さんもそいつなんて撫でなくていいから、むしろ投げ捨てて」

「え、でも」

「りっちゃんの言うことなんて聞かなくていいよ。雪門ゆきかどお兄さんは僕をいっぱい甘やかしてくれたらいいから。というかりっちゃんはそろそろお洋服を着替えた方がいいんじゃないの?」


 りっちゃんを改めて見て思い出したので助言すると、りっちゃんも今だに女装だったことを思い出したらしい。

 すごい勢いで居間から出ていった。


「…」


 りっちゃんに着替えておいでと言ったのは僕だけど、いなくなると少し寂しい。

 もうりっちゃんの姿のない扉が開け放たれたままの廊下を雪門ゆきかどと一緒に見つめていると、優しい声色こわいろ雪門ゆきかどは僕の頭を撫でて言った。


「モフフくん。三門みかどとどうか仲良くしてやって下さい」


 仲良くしてるもん。

 僕の尻尾は力なくだらりと垂れ下がった。


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