鬼ぼんじゅーる編6
りっちゃんと一緒に学校から家に帰ると、一台の黒いお高そうなセダンが止まっていた。
車に興味がない僕でも知っている車だ。りっちゃんの部屋にある車雑誌に載っていた車だからね。何故かそのページに緑色の付箋が貼られていたし。この車のことだったのかな。
りっちゃんも車欲しいのかな?
僕が変化が得意な狐だったら化けて乗らせてあげられたかもだけど、技工の細かい無機物に変化するのは僕は苦手だし。
「……兄さん?」
りっちゃんはその車を見てそう呟くと足早に家へと歩いていったので、僕もその後を追いかけた。
家に入りまっすぐと和室へと行くとそこには一人の男の人が座っていた。
真っ黒い髪に切れ長の瞳を持つ顔立ちの整った、美人とハンサムを併せ持った人だ。年齢は二十代半ばほどに見える。
服装もグレーのシャツに黒のスラックスでシックで落ち着いていた。
「お帰り、三門。早かったな」
「ただいま、兄さん。今日はまっすぐ家に帰ってきたから。兄さんはどうして家に?」
「母さんから妖狐が戻ってきたと聞いたから急いで帰ってきた。父さんは仕事で来られないらしいが」
彼はそう言うとりっちゃんの足元で顔半分だけ出して自分を見てる僕に視線を向けた。
もともとなのだろうか。鋭い眼差しに怯んでしまう。
「君が聞いていた妖狐か。はじめまして。私は竜泉院 春門。三門と雪門の兄だ」
「はじめまして、僕はモフフです」
りっちゃんの足元で隠れながら挨拶をする。
りっちゃんが兄さんと呼んでいたから予想はしていたけど、やっぱりりっちゃんのお兄さん春門だったらしい。ってことは二十代半ばかと思っていたけど雪門の二つ上だからまだ未成年か成人になったばかりってことだろうか。
でもりっちゃんと雪門は似ているけど、春門は似ていないな。二人はお母さん似っぽいから春門はお父さん似なのだろうか。
「いつも家にいない私が言うのはなんだが、二人とも立っていないで座りなさい」
「ああうん」
春門がそう提案したのでりっちゃんは気まずそうに頷いた。
りっちゃんは春門とちゃぶ台を挟んで向かいに座ったので僕もりっちゃんの横にお座りする。
「えっとモフフくんで構わないだろうか」
「うん、何でもいいよ。僕は春門お兄さんでいい?」
「ああ、構わない。先月君はうちの家を旧鼠から守ってくれたらしいな。ありがとう。本当に君には感謝している」
「いいよ。僕もりっちゃんを守りたかっただけだし」
僕がそう言うと春門は僕へ薄く微笑んだ。
「聞いてはいたが、君は三門と仲が良いんだな。今日は一緒に帰ってきたのか」
「うん。なんたってりっちゃんと僕はおはようからおやすみまで共に過ごす仲だからね!超友達だよ」
「なるほど、それは兄としても嬉しいな」
少し調子に乗って言ってみると微妙にいろいろスルーされた感じになった。僕は嘘を吐いていないけど、たぶん本気にされていない。
けど、春門が嬉しいってことは。
「春門お兄さんは僕がこの家にいても嫌じゃないの?」
「ああ、もちろんだ。むしろ家に害意がないのなら君ほどの妖狐ならば家にいてくれた方が助かる」
春門はしっかりと頷くとそう言った。
追い出されなくて良かったけど、春門がここまで住まうことを認めてくれることに僕は困惑した。
その困惑に気が付いたのだろう、春門は少し目を細めた。
「君は最近異形が活発に動いていることを知っているか?」
「えっ?知らないよ」
「今回この家を襲われただけじゃない。あちこちで異形による被害が多発している。だから俺も……悪霊払いとしての仕事に追われている。君がこの家に来たのはそれに関係しているのではないかと思っていたが、違うのか?」
「違うよ。僕今はあの世の実家以外との関係はないし、実家に帰ったのだって今回少しだけだったし」
帰ったときはそんなこと、師匠たちは何も言ってなかった。まあ、古くからの同期の友達…幼なじみっていうのかな…はずっと嫌みばかり言っていたから話す暇がなかったのかもしれないけど。
僕は最近の異形事情はよく知らないし。
「兄さん、それは俺も初耳なんだけど」
ずっと静かにしていたりっちゃんが春門にそう言った。りっちゃんも知らなかったらしい。
「ここ最近の話だしな。たまたまそういう時期なのかと思いそこまで気にはしていなかったから見習いたちには話してはいなかったが。異形は歯車の合う時期には多くなることはよくあることだ。通年で言えば盆の時期か。あるいは申の年はそうだ。だが今回は特定の時期ではなく、いつもとは違うような違和感がある」
「うーん。ちなみにどんなことが起きてるの?」
「そうだな。今年に入りうちのように異形による襲撃がここの他に二カ所行われた。そして不自然な行方不明も増えた。他にもおそらく把握していないものもあるだろう」
まあ、昔はまだ異形との距離が近かったからそういうことはよくあったけど。現代は珍しいことみたいだからね。
そう考えると確かに活発化しているのかもしれない。
ずっと山や田舎にいたから僕は全然気が付かなかったけど。
「兄さん。俺が手伝えることはある?」
「いや、見習いはまだ巻き込むつもりはない。そこまで酷くはないからな。お前は次期当主としてこの家を守れ」
「……分かった」
春門の言葉にりっちゃんはどこか寂しそうに頷いた。
「まだ違和感程度のものだからな。モフフくんも知らないということはそこまで気にするものではないのかもしれない。油断はすべきではないが。私が家にいられない分、雪門や三門だけではなくモフフくんがいてくれるのは助かる」
「おう、僕がしっかりとりっちゃんを守るからね」
「ああ、ありがとう」
僕が胸を張ってそう言うと春門は真剣な表情でお礼を言ってくれた。




