狐ぼんじゅーる編41
家の廊下を歩きながら雪門にりっちゃんのことを尋ねると、りっちゃんは今は神社の仕事で外出していて夕方頃家に帰ってくるらしい。相変わらずお仕事を手伝って偉いね。
雪門に僕は塾は大丈夫なのかと聞くと、雪門が言うには今日はお休みらしい。
毎日のように塾があって今日はいつも塾に行っていたのにたまたま休みだというのに少し疑問に思ったけど。僕は雪門と一緒にいられるのならと気にしないことにした。
ひさしぶりに雪門と一緒に過ごせるの嬉しいもの。
雪門と和室のコタツではない、いやコタツだけど、コタツ布団の無いコタツで話をしていると、少ししてからりっちゃんのお母さんが帰ってきた。
お母さんは和室を見て僕がいることに気が付く驚いてから、雪門の膝の上にちゃっかりと座っていた僕を抱き上げて抱きしめて「モフフさん、三門を助けてくれてありがとう」とお礼を言った。
僕はそれにくすぐったく思いながら「僕にとってもりっちゃんは大切だから。助けられて良かったです」と頬をお母さんの頬にすり寄って答えると「モフフさんも無事で良かったわ」と笑って言ってくれた。
さすが、二人の母親なだけあり優しい人だ。お母さんともひさしぶりに会えてうれしい。
それからお母さんもコタツテーブルに加わって話をした。
話はお互いに僕がいなくなってから1ヶ月の間に何があったのかという話だ。
旧鼠と戦った後りっちゃんは左腕を深く切ったり、体のあちこちを怪我をしていたけど今はもうだいぶ治ったらしい。雪門は自分が家にいなかったことを悔やんでいた。
雪門はお母さんから連絡があって塾から急いで家に戻ろうとしていたけど、帰路で同じく紛い物の旧鼠に襲われていたらしい。
怪我は無かったのか尋ねると「僕の方は二体だったからね」と時間をとられただけで怪我は無かったそうだ。
けれど、雪門にまで手を回していたなんてずいぶん手が込んでいる。
今、旧鼠が竜泉院家に現れたことについて悪霊払いの協会で調査中らしい。あと送られてきた悪霊憑きの人形についても。人形を送ったのは事実だけどそれは本来は見習いでも簡単に払える程度のものだったようだ。
一応僕にも旧鼠について心当たりはないかと尋ねられたけど、僕は首を横に振った。旧鼠とは80年前に戦ったことはあるけど、あれは紛い物ではなかったし。
まったく関係ないという確証はないけど関係するという確証もない。
あのとき黒鼠は“主様”と言っていたから何か他にいるのか、雪門が倒した方の旧鼠がその“主様”だったのかさえ分からないし。もしも前者ならこれからも気が抜けない。
良い情報が得られる気もしないけど、後でチーに聞いてみようかな。
僕は鼠妖怪の友達に家が襲われていると聞いて駆けつけたと正直に話すと二人は驚いた顔になった。
そしてなるほどと頷いた。
「ならそのお友達のおかげでモフフさんは戻ってきてくれたのね」とお母さんは言った。
戻ってきたという言葉を使ったということはりっちゃんは二人に直前に僕と仲違いをした話をしたのだろう。
お母さんは続けて「できたらそのお友達にお礼を言っておいてくれるかしら?」と頼んだので僕は頷いた。
僕もチーにお礼を言いたいし。チーのおかげでりっちゃんを助けられたからね。
…そういえばチーは学校に帰れているのだろうか。迷子なのに置いてきぼりにしちゃったけど。
たぶん、大丈夫だよね。たぶん。
それから僕があの世の実家に帰っていたという話をすると二人はまた驚いた。
「実家ってことは。モフフくんは本来はあの世に住んでいるの?」
雪門が僕に尋ねた。
「ううん。僕は前に言ったように少し前まではここから北に離れた山に住んでいたよ。あの世にいたのは死んでから100年くらいだけ。それからはこの世で暮らしてる」
「そうなんだ。あの世には家族がいるのかい?」
「家族っていうか妖狐の師匠がいるよ。あと何匹かの弟子が入れ代わり立ち代わり」
「妖狐の師匠…」
雪門は興味深げに質問してきたので、僕はそれに答えていった。
妖怪によっては人間に自分のことを話されたくない者はいるけど、師匠はそんなこと気にしなそうだから細かくない程度に話す。
細かく話さないのは気にしないとはいえプライバシーだし、師匠は気にしなくても小姑のような同期の兄弟弟子がうるさいものね…。
今回帰ったときも旧鼠に、しかも紛い物にやられたと知ってめちゃくちゃ馬鹿にされたし。だから微妙に帰りたくなかった。
二人と話していると、玄関から物音が聞こえた。
…りっちゃんが帰ってきたのかな。
僕が耳を立ててそわそわしながら玄関の方角を見ると、雪門が僕の考えていることを察したのか「行っておいで」と優しく微笑んで声をかけてくれた。
お母さんも優しい笑顔で頷いてくれる。
僕は雪門とお母さんの優しい笑顔に背中を押されて、「いってきます」と和室から出て、走って玄関に向かう。
どんな顔をして会えばいいのか分からなかったけど。
りっちゃんにまた会えることが、嬉しい。心臓がばくばくする。
僕が玄関までたどり着くと、その人影はピンポーンと家のインターフォンを鳴らした。
「こんにちはー、宅配便でーす!」
…ブルータス、またお前か。
すぐに「はーい、今行きます」と言って和室から出てきたお母さんは宅配便のお兄さんから荷物を受け取っていたので。
僕が尻尾と耳を下げて和室に戻ると雪門がヒーヒー笑いながら悶絶していた。




