狐ぼんじゅーる編40
なんていうかさ。
今生の別れみたいな感じに別れた後にまた会いに行くのって、どんな顔をして行けばいいか分からないよね。
こんにちは、僕はモフフだよ!
いやあ1ヶ月くらい前に旧鼠との戦いで、あまりにも体力と妖力が限界過ぎてあの世に引きこもって回復を待っていたんだけど。
あの世に行く前にりっちゃんにあまり説明ができないままだったからさ。
どうしよう。
これでも元野生の狐だからあまり人に弱っているところは視せたくなかったし、また会えるなんて確証もないから『またな!』って下手なことも言えなかったし。
体とかめっちゃ痛くて細かいこと考える余裕も無かったしとか、言い訳を言ってみる。
はい、ごめんなさい。
もし僕がりっちゃんなら『このう心配させやがって』と百ポカポカ(叩く音であって気温が暖かい時の表現ではないよ)だけど。
りっちゃんは優しいから温かく迎えてくれると信じている。
…いや、それ以前に。旧鼠との戦いの前にそういえば僕、りっちゃんに山に帰れって言われてたね。
そもそも心配されているかどうか。会いに行って帰れなんて言われたら僕泣くし。
うん。帰りづらい理由がプラスされちゃった。
でも、僕はりっちゃんの家に帰るけど。
りっちゃんの家まで行くと桜がすでに葉っぱだけで青々としていた。
妖怪によって時間を狂わされても妖怪の影響がなくなればすぐに時間は元通りになるから、元の散った桜にあの戦いの後は戻ったのだろう。
昔僕はもう葉桜の桜並木の下を通ったとき、大量の毛虫が糸で桜の木から水風船のように大量にぶら下がっていたのが微妙にトラウマだから恐る恐る確認してみたけど、毛虫がぶら下がっている様子はない。
きちんと消毒されているのか。その時期は終わっているのか。ともかくこの桜の木はそうならないことを祈る。
桜の木以外は1ヶ月しか時間が経っていないから竜泉院家は花が増えたり、真っ赤なミニバラが家の前に咲いているくらいであまり変わらない。
僕は子狐の姿でお土産に持ってきたデコポンの入った風呂敷を体に斜めにかけて背負いながら玄関の前に座った。
デコポンはりっちゃんへのお土産…貢ぎ物である。
家のインターフォンを鳴らそうと上を見る。
今日は休日なので誰が家から出てくるかは謎だ。
高い位置にあるボタンを妖術で押さなければと思うけど、ドキドキする。
まるでピンポンダッシュする時のような緊張感だ。
ピンポンダッシュを知らない人のために説明すると。家のインターフォンを鳴らして人が出てくる前に逃げるという、はた迷惑な子供の度胸試しのことだ。
なんで僕がその緊張感を知っているのかって?
今日はいい天気ですね。
とはいえ、いつまでもこうしてはいられない。
勇気を出して押さなければ。
ピンポーン
…つい力を込めてしまいまだ押す気はなかったのに考え半ばで押してしまった。
僕の緊張感と真逆の軽い音が鳴る。
勢いで押したけど思わず逃げたくなる。
けど、逃げない、僕は逃げない。逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。ドキドキする。
すると玄関の奥から足音がした。
僕は緊張しながら、扉が開かれるのを待った。
「はい、どなた…モフフくん?」
「お久しぶりです、雪門お兄さん」
出てきたのは雪門だった。
おかわりなく優しそうな雰囲気で僕を視ると驚いた表情になり、緊張していた僕は思わず敬語で話す。
「…うん。久しぶり。また来てくれて嬉しいよ」
「雪門お兄さんっ!」
深くは聞かずに相も変わらず優しく微笑んでそう言ってくれる雪門に僕は泣きそうだ。
雪門バンザイ、雪門バンザイ!
最初の再会が雪門で良かった。一気に胸の中が安心感と喜びで満ちる。
雪門は喜んで尻尾を振る僕の前にしゃがんだ。
「三門から話は聞いているけど。怪我をしたんだって?体の方は大丈夫?」
「はいっ、元気だよ」
「そっか、良かった」
雪門はそう言って自分のことのように嬉しそうに僕の頭を撫でる。
気持ち良い。
思わず僕は目を細めた。
「心配していたんだ。モフフくん、君が帰ってきてくれて嬉しいよ。それにありがとう。家を、三門を守ってくれたんだってね」
「ううん。どういたしまして!…あの、雪門お兄さん。りっちゃんは何か言ってなかった」
「三門がかい?」
これからの戦いに備えてりっちゃんの情報を得ようと雪門に尋ねると、雪門はきょとんとした顔の後、少し笑って口元に手を当てた。
「そうだね。いろいろ言っていたかな」
「い、いろいろ。りっちゃんは怒ってる?」
「怒っていると言えば怒っているけど」
それを聞いて僕は動きを止めた。
りっちゃんは怒っているらしい。き、聞かない方が良かったかな。
「りっちゃんにデコポンを買ってきたんだけど、それじゃ誤魔化されてくれないかな」
「デコポン?」
雪門は不思議そうに首を傾げて、僕の背中にある包みを見た。
「ふふっ、今の時期のデコポンは高かったでしょ」
「そうなの?僕はデコポンを買ったことなかったから値段とか分からないけど。ちゃんといいやつだよ。デパートで買ったからね!あっ雪門も食べてね」
「僕もいいの?ありがとう。デコポンは時期もそろそろ終わりだからね。ああ時期が終わりと言えば。モフフくんの好きなコタツももうコタツ布団を仕舞ったよ。テーブルとしては使っているけど」
「コタツ、そっか。寂しいけどもう暖かいしね」
今は5月末。夜は冷えるけど、コタツに入るほどではないものね。
「うん。そういえばコタツ布団を片付けるとき、三門ったら複雑そうな顔をしていたよ」
「りっちゃんもコタツが入れなくなるの寂しかったんだね」
「そうだね、ふふっ」
りっちゃんがコタツが仕舞われるのを寂しそうな顔をしていたのが楽しかったのか、雪門は少し肩を震わせて笑う。
そんなに楽しかったのなら僕も見たかった。
「ごめん。立ち話、ではないかな。外で話しているのもなんだし家の中で話をしようか」
「うん!」
雪門は立ち上がり僕を変わらず招き入れてくれた。嬉しい。
僕は1ヶ月ぶりにりっちゃんの家へとお邪魔した。




