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狐ぼんじゅーる編4

 りっちゃんの家は木に囲まれた古い神社の隣にあった。隣の神社はりっちゃんの家のものらしい。地味だけどそこが親しみやすいおごそかな神社だ。

 そんな神社の隣にあるりっちゃんの家は、田舎いなかだからか土地は離れや池まであってとても広い。家の前には今は五分咲き程度の大きな桜の木があり、裏には竹林ちくりんもある。

 けどそのせいで今は夜なので明かりはほぼなく人気ひとけもない。めっちゃ幽霊ゆうれいが出そうな感じ。

 ちなみに幽霊と妖怪は違うよ。僕たちのわけ方で簡単に説明すると幽霊は“あの世”に近い存在で、妖怪は“この世”に近い存在。それらを合わせて異形いぎょうと呼ばれる。明確な線引きはないけど。知恵のある妖怪の中では大体はそう認識されている。異形いぎょうではなく異邦いほうと呼ぶ子とかもいるけど。

 他にも人間とは異なる線引きがたくさんあるけどそれはおいおい々ね。

 つまり昔の僕は存在の認識されない幽霊だったけど、今はこの世で実体があるので妖怪ってくくり。

 数としてはやっぱり妖怪の方が圧倒的に少ない。死んで異形になるものの大体が幽霊になるからね。必然的に幽霊が多くなる。


 りっちゃんの家の前で僕は立ち止まって家を見上げてみた。昔ながらの木造二階建ての日本家屋でこちらもまた大きかった。床とかギシギシ鳴りそうな古めかしさだ。


「りっちゃんの家、めっちゃ古いね」

改築かいちくは何度もしてるけど500年以上前の家だからな」

「大きい地震きたら潰れるんじゃない?」

「そうだな」


 りっちゃんも僕の言葉に同意した。住人のりっちゃんもそう思ってたらしい。

 そういえば、帰り道でお互いの名前を名乗ったけどりっちゃんの本名は竜泉院りゅうせんいん三門みかどっていう書くのも言うのも面倒くさい名前だった。

 本名は分かったけど僕はりっちゃんと呼ぶことにした。

 だって三門みかどってちゃんと呼ぼうとする前にりっちゃんが『これからは三門みかどって呼べ。りっちゃんと呼ぶな』って言ったから。

 嫌がられるとなんか呼びたくなくなったからりっちゃんと呼ぶことにした。こう妖怪の血が騒ぐんだ。

 僕がりっちゃんと呼ぶとりっちゃんは嫌そうな顔をしたので、そう呼んでよかったと思いました。


「いいか。絶対におかしなことはするなよ。不振ふしんなところがあったら容赦ようしゃしないからな」

「おうよ。りっちゃんこそ、このモフフが可愛いからって変なことしないでよね」

「ねえよ」


 りっちゃんは眉間に皺を寄せ怒りながら乱暴な言葉で否定した。

 そんな顔したらせっかくのイケメンが台無しだぞ。いや、女の子の格好してる時点ですでに台無しか。


「ただいま」


 りっちゃんはガラガラと引き戸の玄関扉を開けて、立ったまま靴を脱ぎ古びた木の廊下を進んで行ったので、僕もりっちゃんの足元を素直に付いて行った。やっぱり廊下はギシギシと鳴った。

 りっちゃんの進む先からお出汁だしのいい匂いがしてくる。今夜は野菜鍋的なものですね。


「あら、三門みかどおかえりなさい」

「ただいま、母さん」


 奥の部屋の引き戸をりっちゃんが開くとそこは居間で。良い匂いのする対面キッチンの方から若葉色のエプロン姿の綺麗なお母さんが現れた。

 りっちゃんと同じ薄い色のふわふわの髪に琥珀こはくの瞳だ。でもその髪は背中まで長く、下の方で髪を藍色あいいろひもで結っている。りっちゃんの顔は母親譲りらしい。よく似てる。

 お母さんはりっちゃんに声をかけてからすぐに僕に気がついたようで視線を僕へと下ろす。お母さんも僕が視えるらしい。


「あら、この子はどなたかしら?」

「はじめまして。僕は妖狐のモフフといいます」

「まあ、妖狐なの」

「はい」


 僕ほ狐だけど猫を被ってきちんとりっちゃんの足元でお座りして、耳をピンと立てながら挨拶をすると、お母さんは両手を口にやって驚いた。驚き方もおしとやかだ。


「お母さん、こいつ今日だけうちに泊めたいんだけどいいかな。うちに泊めないと同級生の子の家に行くって言って」

「えっ、今日だけなの?僕、しばらくりっちゃんの家にお世話になりたいんだけど」

「明日山に帰れ」

「やだし。居座いすわるし。お母さん僕ちゃんといい子にするから、食事も自分で調達するからここにいたらダメですか?」


 僕は僕の可愛さを全力で使って、目を潤ませて耳をぺたりと下げてお母さんにお願いした。秘技ひぎ、雨の中に捨てられた子犬だ。この技はフランスパンヘアーの不良にさえ効果があるという可愛い僕ら小動物にのみ許された技である。

 そんな僕にお母さんは「あら」と頬を薄く染めて呟いた。皆まで言うな。可愛いだろ?

 りっちゃんはそんなお母さんに首を傾げると不振そうに自分の足下にいる僕を見てぎょっとした。


「母さん、こいつ猫被ってるだけだから。騙されないで」

「まあまあ。あなた猫を被っているの?」

「にゃあ」


 僕が猫の鳴き声の真似をすると、お母さんは再び両手を口に当てた。僕の可愛さに身もだえている。

 ふっ、どいつもこいつも僕の可愛さにいちころ


「きゃんっっ!?」


 体の横側をりっちゃんに蹴られた。

 僕は思わず体制を崩し可愛い鳴き声を上げてしまった。

 …けれど、石投げられたときのような変な声が出なくて安心した。

 子狐モードだからあの声は出にくいしね。


「何するのさ。りっちゃんのいじめっ子、暴力反対!動物愛護法違反!」

「やっぱり今すぐ山に帰れ」


 僕が賢そうな感じでりっちゃんに文句を言うとりっちゃんは玄関を指差して言った。

 僕はふるふると首を横に振り拒否する。


「やだよ。だいたいりっちゃんが『俺の家に来いよ。こたつもあるぜ』って言ったんじゃん。じゃなきゃ僕は遥香はるかの家に行きたかったし」

「うるさい。それに俺が言ったのと微妙に違う。お前、俺の家にいたかったら静かに大人しくしてろ」

「充分してるじゃん。こんなに大人しくて理想の狐な僕でそんなこと言っているんじゃ、りっちゃんは一生ペットなんて飼えないし、恋人にだって『あっ、この人…』って逃げられちゃうよ」

「お前はおれのペットでも恋人でもない」

「俺の、心の友だ」

「うるさい、違う!って話が進まない。お母さんこいつとりあえず今日だけ泊めたいんだけどいい?」

「お母さん、僕はいっぱい泊まりたいです。お願いします!」


 僕とりっちゃんは競うようにお母さんへと顔を向けた。


「いいじゃない。しばらくいて貰って。三門みかど、きちんと面倒を見るのよ」


 お母さんは僕たちへ満面の笑顔で答えた。

 フハハハハっこの勝負、僕の勝ちだ。


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