狐ぼんじゅーる編39
“狐火”で残った小さな黒鼠。
彼らは旧鼠の核だったものだろう。
チーや他の鼠を召集していたということは、こいつらが中心となって鼠妖怪を集めていたのだろう。
いくら鼠の妖怪はたくさんいるとはいえ本物の旧鼠は珍しいものね。
「さて、せっかくだからいくつか君たちに聞きたいことがあるんだけど。いいよね?」
「ひっ!?」
僕がかなり上から檻の中の黒鼠を見下ろして尋ねると鼠たちはぶるぶると震えた。
怖がるくらいならやらなければ良かったのに。
質問したけど、拒否権はもちろんない。
僕は鼠の返事を聞く前に話を続けた。
「まずは、そうだね。どうして君たちはこの家を襲おうと思ったの?」
「ちゅー」
口をモゴモゴと動かすけど、怖がっているわりに鼠は話そうとしない。
「ねえ。どうして」
なかなか答えない鼠に僕は大きな牙を見せて脅し再び尋ねる。
すると、鼠はビクビクとしながらやっと口を開いた。
「そっ、それは主様が」
話はすぐに終わった。
鼠のいる檻の真下の地面の中から大蛇が現れたのだ。
現れたのは桃色の鱗が美しい巨木のような大蛇。それは鼠を一瞬のうちに下から僕の作った檻ごと大きな口を開けて一口で呑み込んだのだ。
僕はそれに巻き込まれないようにとっさに後ろに下がったけど、さっきまで目の前にいた鼠たちは跡形もなく消えていた。
「モフフ!」
僕のすぐ目の前の出来事だったので、こちらの様子を視ていたりっちゃんが慌て僕に寄ってくる。
「りっちゃん。僕は大丈夫。それよりりっちゃん僕から離れないで」
僕は大蛇を警戒しながらも、庭の満開の桜の木の上へ視線を向け睨み付けた。
「モフフ、なんでそんなに怒るの?餌の横取りなんて妖怪の世界ではよくあることよ」
「沙羅…」
美しく花が咲き誇る桜の木の枝に、祭りで会った桃色のツインテールの少女が座っていた。
彼女がこの大蛇を操っているのだろう。
「君は蛇の妖怪だったんだね」
「ええ。私はオロチよ。まだ未熟だけど」
沙羅は無表情に僕をじっと見て認めた。
オロチとは妖狐と同じく有名な蛇の上位の妖怪だ。
以前は人と変わりない目をしていたけど、今は妖力を使っているからか桃色の瞳は猫のように瞳孔が縦長になっている。
鼠を食べた桃色の大蛇は舌をチロチロと出しながらニョロニョロと桜の木の上にいる沙羅へと近づいた。そして沙羅はやってきた大蛇の大きな頭を優しく撫でる。
「鼠とはいえ紛い物の旧鼠。まあ少しは腹の足しにはなったわ。でも足りない。…貴方も美味しそうね」
沙羅は蛇から再び視線を移し僕らを見る。
僕はりっちゃんより前に出た。
「なに?やるつもりなの」
「そう警戒しないで。今は見逃してあげる。貴方に借りを作っておくのもいいものね」
沙羅は余裕そうに妖しく笑った。
その言葉に眉をひそめたけど正直、見逃してくれるのはありがたかった。
今戦ったら負ける可能性の方が圧倒的に高い。
一匹なら逃げられるけど、それはできそうにない。
でもたぶんそれを知っていて沙羅は牽制として言ったのだろう。
本当なら沙羅に聞きたいことがたくさんあるけど。下手に刺激するのは好ましくないからこれで僕は何も言えない。
沙羅は大蛇の頭の上に重さを感じさせない所作で乗ると、僕たちを無表情に戻った表情で一瞥して大蛇と共に地中へと消えて行った。
確かに沙羅の気配が消えたのを確認して、僕は腰を落とした。
本当に危なかった。
「りっちゃん、怪我は大丈夫?」
「ああ、お前は?」
「僕も大丈夫」
お互い嘘を吐く。
りっちゃんの怪我は明らかに軽いものではないし、僕もあちこち怪我をした上妖力を使いすぎた。
「狐、あの」
「三門!!」
なにかを言いかけたりっちゃんの言葉を遮りりっちゃんの名前を呼ぶ声に振り返ると、お母さんが家から駆け寄ってきていた。
僕はそれを見てりっちゃんの背中を大きな前足で押す。
「りっちゃん、短い間だったけどお世話になりました」
「え?」
「さようなら。お母さんと雪門お兄さんにもありがとうって伝えておいて」
目を見開いて振り返り、僕を視上げるりっちゃんに僕は笑って。
その場から消えた。




