狐ぼんじゅーる編37
さすがに本日二回目の拒絶だとダメージがあるね。
僕は一匹りっちゃんたちの家から数キロ離れた、田んぼに囲まれた中にある誰もいない寂れた小さな神社の軒下にいた。
軒下にいるのは遥香の家に行った後、雨が降ってきたからだ。
小雨だから濡れても妖力を使えばどうにかなるけど、こんな気分のときにわざわざ濡れたくないから僕は無人の神社で雨宿りをすることにした。
りっちゃんの家の桜もだったけど、数本あるこの神社の桜もすべて見頃を終えていて花が散りきってしまい葉っぱだけになっている。
それが僕に余計寂しさを増幅させた。
「…早くりっちゃんの家に帰りたい」
思わずポツリと声に出して呟く。
りっちゃんの家に帰ろうとは思うけど、タイミングを迷っていた。
たぶん雪門なら家に入れてくれるだろうから。早くても雪門が帰ってくる時間まで待たなければならない。
今の時間は家にいるはずなお母さんも頼んだら入れてくれるかもしれないけど。なんとなく今日みたいな場合は雪門を頼った方がいい気がする。
でも雪門は塾だから、まだまだ長い。長いと言ってもあと三時間くらいかな。時計がないからある程度は勘だけど。
空は雨が降っているせいで薄暗い。
りっちゃんの家から出てきた時間やそれからの道筋からしておおよそ今は逢魔が刻の夕暮れ時くらいだろうか。
そう考えて僕は逢魔が時の花祭りで出会った少女、沙羅を思い出した。
今は彼女に会った時間と同じくらいだろう。
彼女は何者だったのだろう。
自分の正体を言わない妖怪は少なくないけど、分からないとモヤモヤする。
考えてみても分からないことに変わりはないけど。
続いて、今日りっちゃんが倒せなかった悪霊を思い出した。
あの時は一生懸命だったから不思議に思わなかったけど。札を破ったにしてはあの悪霊自体は弱かった。だから僕も油断していたし。
札と悪霊の相性がたまたま悪かったのかもしれない。でも違和感がある。
それにあの微かに聞こえた鈴の音。
あの音に妖力の気配は無かったからあまり気にしていなかったけど、頭から離れない。
これも気にしすぎかな。
最近まである程度は平穏に過ごしていたから、人や妖怪を無駄に疑ってしまうのかもしれない。
昔ならともかく今の時代は平和だから気にしすぎても仕方ないか。
何かあったときはその時考えよう。
そんなことより、りっちゃんにどう謝ろうか。
今からスーパーに行ってお土産にデコポンでも持っていこうかな。
りっちゃんの好きなものがデコポンしか出てこない。甘くて美味しいよね。あとあのボコってなっているコブのところが可愛い。
「はあ」
ため息が出る。
暇だ。一生懸命考え事をしてみているのに。まだ全然時間が経っていない。暇過ぎる。
暇だからって何かしたい元気もないし、ぬらりひょんのように他の人の家にこっそり上がり込むのも気分じゃない。
考え事をしているうちに空は薄暗くなったけど、まだまだ時間がある。
退屈な時間は過ぎるのが遅い。
「ちゅーちゅー」
「ん?」
一人寂しく時間が過ぎるのを待っていると聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
でもまさかこんな場所にいるわけがない。
「ちゅーちゅー、…ぐすっ」
それでもやはりその嗚咽を含んだ鳴き声は間違いなくて、僕は声の元へ行った。
「ちゅーちゅー、ここは、どこですかあ」
「チー、君なんでここにいるの」
田んぼの草の刈られたばかりのあぜ道にやはり思ったとおり灰色の毛玉、チーがいた。
学校に住んでいるチーがなんでわざわざこんなところにいるのだろう。
僕が話しかけるとチーは泣くのを忘れたようにこちらに素早く振り返った。
「っ!?モフフ様。モフフ様がなぜここに」
「僕が聞いているんだけど。僕はまあ…いろいろあったんだよ」
「いろいろあったのですか。チーは迷子になっていました」
チーは僕と会って安心したのか、耳をピンと立ててはきはきと答えた。
けど…こんなところで迷子?
「迷子、チーはどこかに向かっていたの?」
「はいっ、僕たち鼠妖怪は召集されまして。これから向かうところでしたが、チーは道にまよってしまいました」
「そうなの。召集って。何かするの?」
僕たち妖怪は種族ごとに呼ばれて集まることもあるけど、鼠も集まることがあるんだ。
なんとなく鼠はチーズを食べたりして宴をするのかなと想像したけど。
違っていた。
「はい、鼠の妖怪がみんなで集まって神社の家を襲うから集まるようにということです。この辺りの鼠は呼ばれました。えっと、季名神社というところの神社です」
…季名神社。
りっちゃんの家の神社の名前だ。
僕は内心ひどく動揺したけど面に出さずに、チーへ尋ねる。
「へえ。神社を襲うんだ。けどどうして鼠は神社を襲うの?」
「さあ。チーは理由は知りません。よばれたので行くだけですから」
「そっか、いつ頃に呼ばれたの?」
「はい、一時間ほど前だと思います。チーはずっとまよっていましたから」
「そうか。うん分かった。ありがとう」
「どういたしまして?」
チーは僕がなんでお礼を言ったのか分からない様子で首を傾げたけど、そんなこと気にしていられない。
僕は大狐になってりっちゃんの家へ駆けた。




