狐ぼんじゅーる編36
そうして、僕はりっちゃんの家から出て一匹山に帰ったのだった。
この物語は完結しました。次の作品をご期待ください。
…な訳ない。
もし雪門との話の前だったら落ち込んで帰っていたかもしれないけど、僕は家の人である雪門から許可を貰っているのだ。
僕は義理堅い狐だから約束があるからそう簡単には帰らないし。今更山に一匹帰るのがさ、寂しい訳じゃないんだからね!まあ、それもある。
りっちゃんだって死にそうな怖い目にあったばかりなんだから、混乱していただろうし。帰るかどうかはすぐ結論を出さなくてもいいだろう。
りっちゃんが嫌がっても限界までスッポンのようにしがみついてみるよ。僕はスッポンじゃなくて狐だけど。
そんな訳で僕は今、子狐の姿になってりっちゃんの家の近所の住宅街にいる。
住宅街は広いけど、家一軒一軒の敷地が広く、また間に畑などもあるから家そのものは多くはない。畑にはまだ春なので何も植わっていない耕された土の部分が多く、少ない面積にネギや菜の花が植わっている。
片隅にところどころ咲かせるタンポポもきれいだ。
一応、今僕はりっちゃんから姿を隠すために妖力を隠している。
隠しているのはさすがに今りっちゃんに帰っていないことがバレて、『帰らないのかなら倒す!』って戦いのゴングがカーンと鳴っても困るからね。無駄な争いはしない僕は平和主義な狐だから。
僕がりっちゃんの家の近くの住宅街をうろうろしているのは皆様がお気づきの通り。…気がついているかな?
遥香の家に行くためだよ。
せっかくだし。暇だし。時間潰しに。
遥香の住所はあらかじめ聞いていたし知っている。りっちゃんの家からは徒歩10分だ。それなりに距離があるけど家の大きな田舎だと遥香の家は近所に含まれる。
遥香の家は田園に囲まれた田舎の住宅地には似つかわしくない洋風な建物だった。
誰もが憧れる白くて大きな家。これで大きな白い犬がいたら完璧だけど、どうやらペットはいないみたい。犬は縄張りを主張するから僕にはいたらすぐに分かる。
犬の代わりに僕なんてどうだろう。毛色は白いし大きくもなれるよ(二メートル)
僕は玄関のタイルの上まで行ってお座りをする。
そして息を大きく吸って、大きな声で「はるかーー!!」と遥香を呼んだ。
インターフォンは使わない。
大きな声で叫んでも僕は妖怪だから霊感のない人には聞こえないよ。だから近所迷惑ではない。
遠くから呼応して犬の遠吠えが聞こえたけど、それくらいの迷惑だ。
ん?
…あっ、そうだ。
これだと遥香には聞こえないね。遥香は視えない子だった。
ドジしたよ。
最近は竜泉院家にいたから普通は僕は人から視えないってことを忘れていた。
駄目だこれと思って、僕は遥香には視えるようにして再び大声を出そうか悩んでいると。
なぜかすぐに扉の閉まった玄関の向こう側から人が駆けてくる音がして、カチャリと軽い音を立てて扉が開いた。
現れたのはお人形のような前髪パッツンで後ろは背中までの黒髪。後ろの毛も切りそろえられている。
白い肌に黒い瞳で淡いオレンジのワンピースを着た女の子だった。
きっと、彼女が遥香の言っていた小学生の妹なのだろう。和風な感じとか遥香にとても似ている。
小さいので小学校低学年かな。遥香と年が離れているね。
妹は扉を開けてから周りをきょろきょろと見て。
下を見下ろして、僕を視て。
黒い瞳に僕を写し目を見開くと。
一気に目をウルウルとさせた。
「おばけーーー!!」
妹の泣き声がキーンと響いた。
号泣である。
大きな目から涙が次から次へと溢れ出す。
「ちょっ、待って。僕はお化けじゃなくて妖怪だよ。しかも比較的可愛い妖狐だよ」
「しゃべったーーー!?」
妹はぎゃーんと声を上げる。
大きな声に僕の耳はおかしくなりそうだけど、我慢する。
…うぅ、この子。
こんな可愛い僕をお化け扱いして泣くなんて。えっ、僕今子狐姿だし怖くないよね。
お化けだけど、普通僕みたいな可愛い妖狐だったら『か、可愛い!』って僕を抱きしめてすりすりするものでしょ。それをまるで化け物でも視たように。
化け物って言えば化け物だけど。
「どうしたの、光。あれ?モフフさん?」
「お゛ねえぢゃああん!!」
上は白いシャツ、下は水色の長いスカートの私服姿の遥香が廊下の奥から現れると、妹の光はまるで天の助けとでも言うように遥香に抱きついた。
「おね、ちゃっ。お化け、お化け」
「遥香、僕すごく怖がられているよ」
「しゃべったーーー!?」
ぎゃーんっとまた光は叫び声を上げる。
…うん。
今僕は遥香にだけ視えるようにしているのに、光は僕のことが視えていることとかどうでも良くなる泣きっぷりだ。
「だ、大丈夫だよ、光。モフフは悪い子じゃないから」
「やだ、こわい」
「怖くないよ。ほら、可愛いきつねさんだから」
狐と紹介するよりさん付けする紹介の方が馴染みやすいと遥香は考えたのだろう。
僕のことをきつねさんと紹介すると、光は泣いているせいで目を真っ赤にしながら僕をチラリと視た。
「……ごわいーーー!!」
光は再び叫び号泣した。
遥香は光にしがみつかれて困った表情をしている。
…これもう無理か。
僕はお座りから立ち上がり、遥香を見上げる。
「遥香、僕帰るよ」
「え?」
「これ以上この子泣かせるのは心苦しいし」
「あの、モフフごめんなさい。せっかく来てもらったのに」
「ううん。僕もいきなり押しかけてごめんなさい」
僕は二人に背を向けてから、後ろを振り返る。
「じゃあ遥香。また学校でね。光も怖がらせちゃってごめん」
遥香は申し訳なさそうな顔をして、光は遥香のスカートに顔を埋めたまま僕のことを視ることなくしゃくりあげて泣いた。
僕はその場を立ち去った。




