狐ぼんじゅーる編32
祭りの後、チーを学校に送ってから家に帰るとまだりっちゃんと雪門は帰宅していなかった。
雪門は塾の後は同級生と勉強をしに行くと言っていたし。まだ帰ってこないりっちゃんは友達と祭りを満喫しているのだろう。
なので僕は家にいたお母さんのお手伝いをした。
最近ではだいぶ手伝いも板についてきたと思う。一家に僕一匹、可愛い狐はいかがですか。ただし、たくさん甘やかしてあげてくださいね。そうしないと拗ねます。
お手伝いのテーブルの上を拭くのが終わって、次は何かお手伝いできることはあるかなと思っていると。ちょうど玄関から扉が開く音がした。
この、古い家だからって遠慮なく扉を開ける音はりっちゃんだ。
僕は玄関まで走ってりっちゃんを出迎えた。
「りっちゃん、りっちゃん、おかえり」
帰って来たのはやっぱりりっちゃんだった。
りっちゃんからはソースの芳ばしい香りがする。うむ、たこ焼きかお好み焼きを食べたに違いない。って匂いから推理してみる。
「ただいま」
りっちゃんは疲れた様子で僕に返事をした。
そんなに疲れるほどお祭りをエンジョイして来たのか。
僕もだよっ。お揃いだね。
「りっちゃんお疲れ様。僕もね、今日お友達とお祭り行ってきたよ。花祭り楽しかったね!」
「ああ。お前がいるの視かけたよ」
「本当に?なら話しかけてくれたら良かったのに」
僕が首を傾げて聞くとりっちゃんはなんとも言えない表情で僕を視る。
「お前に話しかけたら面倒くさいだろ。それに仲良さそうだったしな」
「うん、チーと僕は仲良しだよ。りっちゃんと僕のようにね」
「なんだ、仲が悪いのか」
「違うよっ!りっちゃん、ひどい。こんなにりっちゃんと僕はとてもとても仲良しなのに」
居間に向かうりっちゃんの足元を付いて行きながら一緒に話をする。
りっちゃんが僕に気が付いていたなんて、僕はまったく気が付かなかった。祭りに浮かれていたせいかな。
どうせなら声をかけてもらってりっちゃんとも廻ってみたかったけど。
この様子、りっちゃんは嫌がるか。だから僕に声をかけてこなかったんだろうし。
…まあそれに。前のあの様子だとチーも良い顔はしなかっただろうから無理か。
居間に一緒に入るとお母さんがにこやかにりっちゃんを迎えた。
「おかえりなさい、三門。お祭りは楽しかった?」
「ただいま母さん。祭りはいつもと変わらなかったかな。相変わらず賑わっていたよ。これ、祭りで漬け物が売っていたからお土産」
「あら、まあ。ありがとう。嬉しいわ」
りっちゃんはお母さんに漬け物の入った袋を手渡した。それをお母さんは笑顔で受けとる。
確かに漬け物とか地域の団体の手作りのものが公園内の白いタープテントで売られていた。お土産まで買ってくるなんてりっちゃんいい子。
僕?思いっきり忘れてたよ。むしろ僕自身がお土産みたいな?
お、お母さんの手伝いもその代わりにしていたし。
…うん、自分は買ってないのってなんとなく心苦しいね。
りっちゃんはお母さんにお礼を言われると、照れくさそうに笑う。
「今日は先にお風呂に入っていい?」
「ええ、もちろん。三門は今夜夕食は食べられそう?」
「うん。俺は昼の分しか食べてないから食べたいな」
「分かったわ。用意しておくわね」
「ありがとう」
そうお礼を言うとりっちゃんはお風呂場へ向かって居間から出ていった。
僕は大人しくりっちゃんが居間から出て行くのを見送る。
散々ふざけておいてなんだけど、りっちゃん本当に疲れている様子だ。
「大丈夫かな、りっちゃん」
「そうね。モフフさん。三門の心配をしてくれてありがとう」
雪門に似た優しい笑顔でお母さんは微笑んで、僕と同じようにりっちゃんが出て行った扉を見つめた。




