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狐ぼんじゅーる編30

 チーに力をあげたおかげで、チーも難なく人に姿を認識させることができている。


 僕らは祭りでまずは屋台見物をした。屋台の前の道は人が多く混み合っている。

 それでも、辺りからはソースや砂糖の焼ける匂いがして、楽しげな声があちらこちらからこだましているから混んでいることも苦にならない。

 僕は可愛いからたまにチラチラと僕を見る人が男女問わずにいる。ふっ、可愛さは罪だね。

 でも声はかけられない。隣にチーがいるから。このためにチーには男になってもらったわけだし。

 …まあ視線の中には、隣で僕と手を繋ぎながら物珍しそうにきょろきょろしているチーを見る視線も少なからずあるけど。


 チーと手を繋いでいるのは単純に迷子防止のためだ。人ごみでチーが迷子になる光景が僕には簡単に想像できるもの。

 傍目から見ると仲の良いカップルに見えるだろうけど、実際は子供とそれを気遣う親である。いや、やっぱり姉弟きょうだいで。外見年齢的に。


「すごいです、変なものがいっぱいあります」

「ねっ。祭りってやっぱり来るとドキドキして楽しいね」

「はいっ、チーもドキドキします。すごく人間がいっぱいでいっぱい踏まれそうです」


 …まあ、チーはいつも授業以外は人から逃げていたから進んでこういった人ごみの中に入ることもあまりなかっただろうし。でも、ちょっと期待していた感想と違う。


「だから踏まれかけても僕が守ってあげるから、心配ないよ」

「モフフ様、はい。チーはかっこいいモフフ様のことが大好きです!」


 チーは嬉しそうに顔を赤くして尊敬の眼差しで僕を見る。

 僕を見る黒い瞳がキラキラと輝いている。


「ふっふっふ、僕はかっこいいでしょ」


 褒められると調子に乗ってしまう。

 いつもは撫でてもらうことが好きだけど、僕は自分より高い位置にあるチーの頭を思わず撫でた。

 チーの髪は思っていたより柔らかだった。僕が撫でるとチーはまたもや嬉しそうに自分から頭を差し出してくる。これ傍目から見たらバカップルだよね。




「屋台、せっかくだしチーは何か食べる?」


 少し歩いてからチーに尋ねた。するとチーは困った表情をする。


「えっと。チーズはありますか」

「…チーズ」


 祭りにチーズはないと思うけど。一応近くの屋台を見てみた。

 やっぱり無かった。


「チーズはないみたいだね」

「そうですね。残念です」

「あっ、ちょっと待って。クレープのメニューにチーズケーキがあるみたいだよ」


 少し歩いたところにあったクレープ屋台にチーズケーキを挟んだクレープが売っていた。

 惣菜クレープもあり、祭りなのにメニューが豊富だ。たぶん、メニューが豊富なのは近くにもクレープの屋台があるから競っているのだろう。


「チー、クレープ食べてみよう」

「はいっ!」


 僕とチーは手を取り合ってクレープ屋台へと向かった。



 チーは蜂蜜とチーズケーキのクレープを、僕は王道な苺生クリームのクレープを買った。ちなみに割り勘だ。

 チーは小銭を拾って持っていたし、僕は妖怪のバイトで少しくらいお金がある。


 クレープを買った後は公園内の舞い散る桜の花びらが届くフカフカの芝生まで行って腰を降ろした。

 周りには同じように男女で来ている人や、親子連れが仲良さそうにくつろいでいる。


「ちゅう。クレープ、甘くて美味しいです」

「うん。美味しいね」


 人の食べ物の買い食いなんて久しぶり。

 僕が頼んだ苺生クリームは生クリームがいっぱいで苺と苺ジャムの酸味とクリームの程よい甘さがマッチしている。

 クレープ生地も端っこはカリカリで下の方はモチモチだ。屋台だからって馬鹿にはできないね。なかなかやりおる。

 お互いに尻尾が今あったらふりふりしているくらい味わって食べていると、チーがこちらを向いたのが分かったから僕は不思議に思って隣を向く。

 すると思っていたよりチーの顔が近くにあった。


「チー?」

「モフフ様」


 僕がチーの名前を呼ぶと、チーは僕に顔を近づけて。

 僕の頬にキスをした。


「ほっぺに生クリームがついていました!」


 チーは僕から顔を離すと悪意のない笑顔で言った。僕の頬についていたクリームを口で取ったのだろう。

 うん、まったくチーはこれっぽっちも悪気はないのだろうね。


「チー。取ってくれてありがとう。…でもね」

「ちゅうっ!?」


 僕はチーの両側の頬を摘み、引っ張った。チーの頬は柔らかくてよく伸びる。

 

「人の姿の時にそういうことしちゃ駄目だよ。僕も狐だから気持ちは分かるけど。こういう時は、人間になっている時は手で取るの。分かった?」

「は、はいっ!分かりました」

「よしっ」


 チーが理解したようなので僕はチーの頬から手を離してあげた。

 チーは「頬袋ができてしまうかと思いました」と頬を押さえているけど、知らない。

 まあ、獣の時は当たり前に口で取るからチーがそういうマナーを知らないのは仕方ないのは分かっている。

 でもこれからのために教えておいた方がいいだろう。本当に、まるで親子…姉弟のようだ。


「モフフ様の食べている苺生クリームも美味しそうですね」

「そう?なら僕の方のクレープ食べてみる?」

「いいのですか!ありがとうございます。モフフ様もチーのクレープ良かったらいりますか?」

「うん。ありがとう、チー」


 僕らは仲良く交換こしてクレープを食べた。



 その後はまた屋台を見て回ったり、芝生で獣姿で追いかけっこをしたり、イベントステージで催されている音楽を聴いたりと楽しんでいたらいつの間にか空が茜色になっていた。

 もうすぐ逢魔が刻だ。

 逢魔が刻は妖怪が現れるという時間だけど、僕らはそろそろ帰らないと。


「もうこんな時間。帰ろうか」

「はい、モフフ様。今日はお誘いいただきありがとうございました。チーは楽しかったです」

「うん、僕も楽しかったよ。じゃあ、僕、チーを学校に送ってい、っ!?」

「モフフ様?」


 思わず僕は言葉を切り、西の方角へと顔を向けた。

 チーも少し遅れて気がついたらしく、身体が固まり同じ方向を見た。


 …いる。強い奴が。気配がする。


 ゾワリと感じた気配に僕は一瞬考える。これって前に山で感じたのと同じ異形だろうか。

 確実に相手は僕がいることを知っているのに妖力を察知させている。僕を呼んでいるのか。


「ごめん、チー。待ってて。僕行ってくる」


 動けないチーをそのままに、僕は大狐に姿を変えて、その気配の元へ走った。

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