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狐ぼんじゅーる編29

 さあ、やってきました花祭りの日。

 最近はなんか暗い雰囲気だったけど、僕は変わらず元気です。だって祭りだもの。わくわくする!


 色とりどりのチューリップやサクラソウ、金魚草、ポピーなどなどの春の花が咲き誇り、満開の桜の花びらがヒラヒラと舞い上がるここ花園公園が祭りの中心地だ。

 そして公園に続く桜並木にはたくさんの華やかな屋台が軒を連ねている。からあげ、お好み焼き、射的、たこ焼き、りんごあめ、金魚すくい。うん、屋台の名前を上げきれない。今が祭りが始まったばかりなこともあり屋台はとても混雑している。

 花園公園の中の敷地は広い。それに運動場や、プール、球技場、薔薇園なども併設されていた。

 いつもこの時期桜の咲き誇る公園は花見に利用されているみたいだけど、今日は近隣各地から人が集まるお祭りのためシートを敷いての花見は禁止されている。

 その代わりに広く空いたスペースにはイベントステージが設けられていて、そこで音楽やらダンスやらのイベントが催されている。

 それほど大きな祭りなのでこの祭りにはたくさんの人々が集まる。こんなに人が多いと知り合いに会うのさえ大変そうだ。


「…ちゅう。こんなに人間が多いと、人間に踏まれてしまいそうです」

「大丈夫だよ。僕らは今は人の姿だしね。踏まれそうになっても僕が守ってあげるし」

「モフフ様…!ありがとうございます!」


 まず人の姿だと踏まれるとしても足くらいだからね。そこまで大げさに感謝の言葉を言うほどではない。


 僕とチーは人間の姿になり人からは視えない状態で、その賑やかな祭りの光景をベンチに座りながら見ていた。

 これは予想していなかったけど、チーは人型になれたし、人に姿を見せることもできた。

 ただ、人に認識されるのは長時間は無理らしく、一度に五分が限界らしい。

 それでも妖怪としては人に認識できるようになるのは難しいことだ。そこまでできる妖怪はめったにいないから。僕だって今でこそ長い時間この世に存在を示せるようになったけどだいぶ時間がかかった。

 本当にチーと付き合っているとチーに驚かされることが多い。


 今、僕たちはお互いにりっちゃんと同じ学校の制服姿だ。学校の制服なのは僕は浴衣もいいなあと思っていたけど、見慣れないものに化けるのが難しいチーへの配慮である。

 チーは性別はないけど今は僕の希望で男の子になってもらっているから男の制服で学ラン姿だ。

 背は女の子である僕より少し高くて高校生の平均よりは低い。髪は鼠の時と同じで、ボサボサ、良く言えば無造作の首の下まである灰色の髪に一部黒髪が交ざっている。

 チーは顔も立ちも悪くない。かっこいいより可愛い見た目で、もし今チーが女の制服を着ていても男に変化しているのに男だとバレなさそう。


 僕たちは一緒に公園の片隅にあったベンチにまずは一緒に座った。チーの人型の姿が安定するまで時間がかかるので安定するまで待つためだ。

 ちなみに僕たちは今は誰からも視えていないけれど、誰かがこの席に座ろうとしても大丈夫だ。

 詳しい原理は分からないけど、なぜか人間は僕たちを無意識のうちに霊感がなく視えていなくても避けるからここに座ろうとする人はほとんどいない。

 混んでいるのにふと見たら席がなぜかそこだけ空いているのは、僕たち妖怪が直前まで座っていたせいかもしれないね。


「チーは人型になるのは久しぶりです。モフフ様、おかしな点はありませんか」

「ううん、おかしいところはないし。学ラン似合っているよ。チーは人型になれてすごいね」

「えへへ、ありがとうございます。チーはモフフ様から褒められるのがとても嬉しいです!」


 普段なら毛が生えているので分からないけど、チーは照れるとうっすらと顔が赤くなる。

 笑顔が可愛い。

 チーは思わず守ってあげないとと思わせる保護欲を刺激させる可愛さだ。


「けど、チーは本当に人型になっても性別が分からないよね。男にも女にも見える」

「チーもモフフ様が女性なのにはじめはびっくりしました。僕と言っていたので男性かと思っていました」


 …うん、りっちゃんにも間違われたしね。

 そもそもこの一人称を使い始めた理由は雌だってことを隠すためだったし、間違われても仕方がない。


「女だって自分のことを僕って言う僕っ子ってものが存在するんだよ」

「そうなんですか。さすがモフフ様です。お詳しいですね」


 チーは感心したように頷く。

 感心するほどの情報でもないから。褒められてむず痒い。


「チーだって性別分からないのに最初は“ぼく”だったじゃないか」

「はい。チーは“ぼく”でしたね」

「なんで?」

「分かりません。チーは覚えていません。気が付いたら自分のことをぼくと呼んでいました」


 気が付いたらか。


「チーって本当に謎に包まれているよね」

「えへへ」


 なぜかチーは照れくさそうに笑った。

 僕の言葉のどこが照れくさく感じたのだろう。奥が深い。


「モフフ様。チーはもう大丈夫です。お待ち下さりありがとうございました」

「え?もう大丈夫?」

「はい。存在も安定してきましたし」


 確かにもう揺らぎなく、存在を保てている。もう少し待つつもりだったけど、チーは優秀だ。


「そうか。ならチー、僕の手に手を合わせて」

「手、こうですか」


 僕がハイタッチをするようにチーへと両手をかざすと、チーは首を傾げながらも疑うことなく僕の手に両手を合わせた。

 そのままチーの手に指を絡めて、僕はチーに僕の妖力を送る。


「ちゅうっ、び、びっくりしました」

「大丈夫だよ。僕の力をあげてるだけだから」


 おそらく今チーに獣の毛があったなら毛を逆立てていただろう。今もちょっとだけ髪の毛が逆立ったように見えた。

 何も言わずにやったからチーは目を見開き驚いている。

 それでも手を振り払わないのは単純というか。純粋というか。


「だってせっかく来たなら一緒にたくさん人間らしく遊びたいじゃん。だから長く人でいられるようにチーに少し力をあげるよ」

「はい、僕もモフフ様と遊べるのは嬉しいです。ですが、モフフ様は他の妖怪に力を分け与えることもできたのですね」

「当たり前じゃん。僕は優秀な妖狐だからね」


 強い妖怪は対象に力を一時的にあげることができる。

 妖怪で他に力を分け与えられるのは人に見えるようにする以上に高度な技だ。

 もし間違えたら相手を殺してしまうくらい危険な能力だし。

 …うん、間違って死んだらごめん。内緒だけど僕これ練習以外で使ったのはじめてだし。


 結果、間違うことなく僕はチーに力を分け与えることができました。

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