狐ぼんじゅーる編28
次の日の朝。さっそく僕は学校でチーを視つけて日曜日の花祭りに誘うと、チーは「チーでよろしければ!」と嬉しそうにすぐ頷いた。まさかの即答だった。
急な誘いなのにチーは迷う素振りなど少しもなく頷いてくれて僕も嬉しくなる。
「いいの?やった。嬉しいよ」
「モフフ様が喜んでくださるならチーも嬉しいです!」
二匹で尻尾を振って喜び合う。
持つべきものは友達だね。
「じゃあお祭りは学校で待ち合わせして一緒に行こうか。その日のえっと花祭りが10時からだからにそのくらいに僕はチーを学校に迎えに来た方がいい?」
「お迎えですか?いいえ大丈夫です。チーはがんばって公園まで行きますから」
「えっ、チー大丈夫なの?」
「はい。もしチーがこなかったら迷ったか他の妖怪に食べられたと思ってください!」
「いや、全然それ大丈夫じゃないよね」
チーは何も気にしていない様子でおひげをピクピクしながら笑顔で答えたけど僕は首を横に振った。
僕が祭りに誘ったせいでチーが道中食べられたなんてことがあったら微妙にトラウマになりそうだからやめてほしい。そんなことがあったら祭りどころじゃないし。
「猫に襲われていた件もあるし。心配だから僕がチーを迎えに来るから。チーは大人しく待っていてね」
「…ちゅう。モフフ様にご迷惑をおかけするのは、申し訳ありません」
「いや、僕が誘ったからね。それくらい良いよ。学校までなんて家から走ったらすぐだから大丈夫」
「ですが。…あの、モフフ様はどこか元気がなさそうですので、チーはお身体を壊されないか心配です」
チーは言い辛そうに言って耳を下げた。
…元気がない、か。
いつも通りにしているつもりだったんだけどな。チーが鋭いのか、僕が分かりやすいのか。前者の可能性は低そうだ。後者は認めたくないけどね。
チーが分かっちゃうくらいやっぱり元気がないように見えるのか。僕は隠すの上手だと思っているのに。
「そんなに元気ないように見える?」
「はい」
「うーん」
まあ、チーになら言ってもいいし。前みたいに相談してみようかな。こんなこと他に相談できる妖怪もいないから。
「あのね。前に話した一緒に住んでいる人に昨日の夜、出て行って欲しいって感じのことを言われて少し落ち込んでいたんだ。体調が悪いってわけじゃないから問題ないよ」
「人間のことでですか」
チーは眉間に皺を寄せた。あまり快く思っていなさそうだ。
「モフフ様は人間のことを大切にしていますね」
「そこまでではないと思うけど。一般的な妖怪と比べるとそうなのかもね」
もちろん人間が大好きな妖怪もいるけど。嫌っていたり、関わりたくないと思っている妖怪は多いから割合でみれば僕みたいなのは変人、…変妖?なのだろう。
僕だって人間に殺されたのになんでここまで、人間のことが好きなのかは分からない。普通なら他の子みたいに大嫌いであってもおかしくないよね。
…うん、深く考えたらごちゃごちゃしそうだから深くそれを考えるのはやめよう。
「チーは人間は大嫌いとまでは言いません。人間が教える勉強は好きですし、人間が作るチーズは大好きです。でも、人間は好きではありません。だから、モフフ様がそこまで人間を気にするのがチーにはわかりません」
「うん。チーの考え方が普通だと思うよ」
「チーは、モフフ様のことが好きなので言いますが。モフフ様は早く人間からはなれるべきです」
「…」
…人間から離れる。そうだね。
もし、僕が普通の妖怪の感覚で助言をする立場なら同じ事を言うだろう。
僕たち異形が人に関わり過ぎるのは良くない。種族も住む世も違うのだ。
好きになったって生きる時間も違うのだし。
チーは僕のことを心配して言ってくれている。だから僕の不興を買うかもしれないのに、言ってくれる。
それはすごくありがたい。
「そうだね。チーの言うとおりだ」
ずっと迷っていた。
最初はここまで好きになるとは思わなかった。
できることならずっと見てみぬふりをしていたかった。
でも、わがままばかり言っていてはだめだよね。鼠でも分かることなのに。
帰って欲しいと望まれているのなら帰らないといけない。あたりまえのことだ。
「あと少しだけ、人間のところにいて。それから帰るよ」
すぐに帰ると言えない自分の弱さを心の内で責めながら僕はチーへと宣言した。
チーはそんな僕を心配そうに見上げる。
せめて、雪門と約束した花火まではいたいなと思ったけど。…約束を違えなければならないのかな。嫌だけど、嫌だな。行きたい。
わがままを言ってはだめだという思いと悲しいという思いが交錯した。




