狐ぼんじゅーる編27
わいわいと三人で話をしていたら、テレビが地元ニュースに切り替わった。
今までの化粧がばっちりの綺麗なお姉さんからナチュラルメイクの綺麗なお姉さんに代わり、僕はテレビをの方へ視線を移した。
『地元のニュースです。日曜日に花園市の花園公園で花祭りが催されるにあたり、子供たちや地域の人たちが準備をしています』
「花祭り?」
僕の耳がピンと立ち上がり、面白そうなニュースを拾った。テレビでは子供たちが色とりどりの衣装を着て踊りの練習をしていた。男女関係なく頭に白い花の冠をしている。
僕の言葉にちょうどりっちゃんと話していた雪門がテレビへ視線をやる。
「ああ、そういえばそんな時期だね。花祭りは今週か。三門は行くの?」
「俺は友達と約束してる」
「約束してるの?りっちゃんは僕と行こうよ」
僕が責めるようにりっちゃんに言うと、りっちゃんは僕に琥珀色の瞳を向けて「人付き合いなんだから仕方ないだろ」と冷たく言った。
……人付き合い。なんだか突き放したような言い方だ。
「あれ?りっちゃんは本当は祭りに行きたくないの?あっ、でもりっちゃんはツンデレだから。内心では祭りだ、わっしょいわっしょいしているのかもし「んな訳ないだろ」」
全部言い切る前に鋭く否定された。まったくりっちゃんは素直じゃないな。
これ以上突っついたら本格的に怒られそうだから、それ以上は何も言わずに僕は雪門を見上げた。
「雪門お兄さんは、お祭り行かないの?」
「僕もその日は塾だね」
雪門も行けないらしい。
せっかくのお祭りなのに、二人とも一緒に行けないなんて。
…あれ、その前に二人とも用事があるってことは。
「僕、お祭りの日、家に一匹なの?」
これって普段より一人が寂しいパターンじゃん。クリスマスに一人ぼっちと同じパターンじゃん。
「別に祭りくらい一匹で行けばいいだろ」
「う゛っ」
りっちゃんはいけずな提案をする。
どちらにせよ、寂しい。りっちゃん冷たい。それに結局僕は一匹だ。
最悪りっちゃんの言うとおりでも良いけど。
けど、できれば誰かと行きたいな。
「学校のお友達とは行けないのかい?」
「あっ、雪門お兄さんそうだね」
なるほど。チーを誘ってみるって手があるね。雪門ベリーベリーナイスアイデアだよ。
あっ、でも、その前に。
「りっちゃん、遙香の連絡先知ってる?」
「却下」
僕が言わんとすることに気が付いたりっちゃんは、即座に却下した。りっちゃんさすが頭良いね。
こういう時は頭が鼠であって欲しいけど。
「いいじゃん。遙香とお出かけしても。祭りに和風少女と白狐とかすごく映えるじゃないか」
「なるべくお前を遙香と二人きりで近づけたくない」
「嫉妬?」
「前も言ったけど違うからな」
むう。
本当に、りっちゃんって遙香のナイト通り越してお父さんだよね。
過保護にし過ぎると嫌われるぞ。僕に。
「そもそも遙香だってもう友達と約束してるだろ。高校入学して初めての大きな祭りだし」
…まあ、それもそうか。はじめて友達になった子と出かけるチャンスだし。
確かに遙香は何人かの大人しい系の友達と仲良かったしね。
約束しちゃってるか。
僕の耳が下がる。
「じゃあ今回はいいや。友達誘ってみる」
明日学校でチーを誘ってみようと決めた。チーと出会えて良かったとしみじみ思った。
「そういえば。モフフくんは祭りには行ったことがあるの?」
話が一段落ついてから、雪門がふと僕に尋ねてきたので僕は頷いた。
「うん、いっぱいあるよ。山に住んでいたからあまり開催するって情報は入ってこないけど。夏に花火が打ち上がっている音とかが聞こえると飛び出して祭りを見に行ってた」
やっぱり祭りは何年生きていてもなんだかんだ楽しいしね。
出店も面白いものがいっぱいで、飽きない。まあ毎年行くわけでもなかったから飽きないのかな。
それに特に昔のあまり強くない時期は下手に山から出るのは危なかったから行きたくても行けなかった。
「花火か。なら良かったら今年の花火大会は僕と行かないかい?夏に大きな花火大会があるんだ」
雪門が提案して言った。
「えっ、雪門お兄さんは塾は大丈夫なの?」
「うん。その日は塾の休みと被っていたから大丈夫。今回は一緒に行けない代わりにね」
「本当に?雪門お兄さん、大好き!ありがとう!」
優しいよ。雪門、いい人。
誰かと一緒に花火大会の祭りに行くのは久しぶりだ。
僕がうきうきとしてお礼を言うと雪門は「どういたしまして」と微笑んだ。
そんな僕たちの様子を、りっちゃんは複雑そうな表情で口を挟む訳でもなく黙って見ていた。
「狐、お前はいつ山に帰るんだ」
寝る前、いつものように僕はりっちゃんのベッドにごろごろとしていると、明日の準備をするために机に座っていたりっちゃんが僕に背を向けながら聞いてきた。
背を向けているせいでりっちゃんの顔は見えない。
「いつ…うーん、決めてないよ。まだまだ帰るつもりはないけど」
「そうか」
りっちゃんはそうつぶやくと、机から立ち上がり僕がいるベッドへと腰を下ろした。
ベッドのスプリングがキシッと鳴る。
やっと見たりっちゃんの表情は複雑そうなものだった。
「りっちゃん、怒ってる?」
「…ああ」
だよね。りっちゃんからしたら早く僕には山に帰って欲しいのだろうし。
分かっているけどね。
それでも、僕はここにいたいから。まだ帰りたくないと思っている。
それだけ、ここの竜泉院家の生活に惹かれているのだろうか。僕がいることでりっちゃんを苦しめていても。本来なら遥香の家に行くつもりだったのに。
りっちゃんは部屋の明かりを消してから、ベッドへと僕を端にどかしながら入ってきた。
「ごめんなさい、りっちゃん」
暗闇の中、僕は謝った。謝ってもりっちゃんが本当に追い出そうとしない限り、出て行くつもりはないけれど。
「別にいい。俺がお前を追い出したくても、俺はお前には適わないから」
「りっちゃん」
そう悲しそうな声をしながらりっちゃんは僕の頭を撫でて、それ以上は何も話さずに同じベッドで眠った。




