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狐ぼんじゅーる編25

 午後の春の温かな日差しによってぽかぽかした教室はどうしてこうも眠くなるのだろうか。春眠暁を覚えず。

 勉強を始めて早々、はじめからこの感想である。


 チーと一緒にまずは一年の教室へ!とりっちゃんや遙香はるかのいるクラスとは別の教室に行き、一番後ろの、ちょうど教卓と同じ高さの棚の上を二匹で陣取り話を聞いていたけど。

 つまらない。ついていけない。

 午後一番の授業は物理なので、数学をほとんど基礎しか知らない僕には何を言っているのか分からない。

 そんな僕の横でチーは妖術で取り出した鼠サイズのノートに一生懸命黒板に書かれた文字や数字を書き取っている。

 この鼠、なかなかやるな。手慣れている。


「チー、邪魔してごめん。あのさ、僕話にぜんぜんついていけないんだけど」

「大丈夫です!チーもですから」


 僕の言葉にチーは潔くも元気に返事をした。

 ノート書いてバリバリ勉強ができそうな雰囲気だったけど、ついていけていなかったんだ。


「え、ついていけてないのにノート取ってたの?」

「はい。ある先生が『まずはノートを取れ、話はそれからだ』とおっしゃっていたので、チーは分からなくてもノートを取っています」

「へえ、なるほど。じゃあ僕もノートを書いてみようかな」


 僕も妖術でノートと鉛筆を出した。そしてチーと一緒にノートに鉛筆を走らせる。


 カリカリカリカリカリカリ…


 うん、意味は分からないけど頑張っている感じがする。

 眠気も少しはなくなったし。


「あと、慣れましたらノートは自分にあった見やすいようにした方がいいらしいです。テストはノートから出るものが多いそうなのできちんと見返すためです」

「なるほど、面白いね」


 そうか、テストか。テストがあるんだよね。

 僕も受けてみたいな。


 そこからは黙ってカリカリカリと二匹でひたすら真面目に書いていた。

 真面目に聞いていたら少しずつだけど意味が分かるようになってきた。分からなくてもコツコツが大切なのかもしれない。



 しばらくして、キーンコーンカーンコーンと終了を知らせるチャイムが鳴った。


「……きゅう、死んだ。僕、死んだ」


 授業が終わった途端に僕はロッカーの上で腕の中に頭を埋めて唸った。使い切った頭が痛い。

 すると、横にいたチーがびっくりして飛び上がる。


「ちゅっ、大丈夫です!モフフ様はもともと死んでいるので、もう死ぬことはありません!あっ、でも消えてしまいますね」

「…うん、そうだね」


 チーが必死にフォローしてくれて、僕が消えることを想像したのか耳を下げて悲しそうに落ち込んだけど。

 的から大幅にズレている。


「死んだっていうのは比喩表現でね。疲れたってことなんだよ」

「比喩ですか、はい、チーは知っています!例えって意味ですよね」

「うん。…そうだね。チー賢い賢い」

「えへへ、ありがとうございます」


 適当に褒めると単純なチーは嬉しそうに顔を緩ませた。少しだけ癒される。

 けど学生さんたちはすごいね。これをずっとやっているなんて。

 僕は頭がパンクしてしまうよ。

 まだ新学期が始まったばかりの一年の内容なのに。


「チーはすごいね。授業を聞き終わっても元気そう」

「はい。たぶん、チーは授業の内容がモフフ様ほど頭にはいっていないからだと思います」


 …ああ、なるほど。

 失礼だけど納得してしまった。


 授業はあと一限、古文の授業を受けて学校の授業は終わった。

 古文は一応昔を生きていた僕にとってはまだ簡単だったけど。

 勉強として受けてみるとまた違った。そこまできっちりとなんて読んでなかったし意味なんて固定せずになんとなくで読んでいたところもあったからちゃんと解釈するのは少し難しい。



 チーとは授業が終わった段階で別れた。

 それから僕はホームルームが終わるまでりっちゃんを待って、いつものようにりっちゃんと一緒に帰路についた。


「今日はね、僕お勉強をしていたんだよ」

「へえ」

「物理ってすごいね。僕、今まで数学は少しカジっていたけど。なんだかハイカラな感じがするよ。さすが機械化の時代」


 りっちゃんは今日は帰路に人がいたので僕の話に短い相槌だけうつ。

 今日は部活が休みのところが多いのだろうか。


「あと古文の先生も面白かった。黒板をチョークで指すときチョークが砕けるんだもん」

「ああ。伊藤先生?」

「そうそう。伊藤先生。女の先生なのにすごい力強い」


 初めてチョークを砕くところを見た僕はびっくりだったけど、クラスの人たちは少しだけクスクス笑いしている人がいただけで反応が薄かったからもう慣れているのだろう。

 りっちゃんもすぐにどの先生か気がついたし。


「お勉強って頭がすごく痛くなるけど楽しいね。僕、もっとがんばってりっちゃんより賢くなるよ」

「ああ。がんばれ」


 僕の言葉にりっちゃんは鼻で笑いながら言った。

 あっ、これ絶対に僕が勝てるわけないだろって思っているな。

 ふふん、油断大敵なんだよ。

 けど、ここまで余裕ってことはりっちゃんは頭がやっぱり良いのか。これで下からうん番目とかだったら僕は鼻で笑い返すけど。


 …もし僕が人間でりっちゃんとクラスメートだったら楽しかっただろうな。

 チーも一緒に学生で、一緒に授業受けて、一緒にお昼ご飯を食べて、一緒に部活とかして。


 そう考えて、妖怪と人間は仲良くなれないというチーの言葉が蘇って。

 僕は鼠のように思い出したことを忘れることにした。


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