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狐ぼんじゅーる編21

 それはりっちゃんが学校の日の午前最後の授業中。

 僕はまた、みんなが授業を受けているので静かな学校の中を一匹うろちょろしていた。


「キャーーー」


 すると絹を裂くような、中性的な、どこかというかここ学校で聞いたことのある叫び声を僕の優秀な耳は聞き取った。


 …行くべきか、行かざるべきか。


 ほんの少し迷って、僕は声の元に行ってみた。



「ああ。やっぱりあの時の鼠か」

「ちゅー、ちゅー」


 場所は今は授業中なので誰もいない校庭裏。

 建物の影にある黒に近い茶色の湿った土の地面が続く中にそれはいた。

 それは丁度、生きている三毛猫に死んでいる鼠が踏まれているところだった。


 僕はその様子を建物の影からこっそりと伺う。

 鼠は妖怪の、前に会った鼠なようで。灰色のボサボサの背中にネズミ模様の黒の斑点がある。

 …しかし、鼠が踏まれている。どこかで見た光景だ。はて、どこでだろう。すっとぼけ。

 うん。僕と初めて会ったときと同じ光景だね。あの時は僕が踏みつけていたけど。


 この猫はどうやら僕らが視えるらしい。

 動物は結構人と比べて僕たち妖怪が視えることが多い。だからこうやって弱い妖怪を捕らえたりすることはあるけど。動物側は妖怪を触れられても食べられないから、別に放っておいてもこの鼠は大丈夫だろう。


「た、助けて。食べられちゃう」


 鼠は涙声であわれに鳴く。

 だから、別に食べられたりしないというのに。おそらく鼠はそのことを忘れているのだろう。

 鼠って記憶力が悪いからね。長い年月が経てばまあまあ僕たち狐ほどではないけど賢くなるから彼だか彼女はまだ若いのかな。

 猫は瞳孔を開いてそんな鼠をじっと見下ろしている。本能的には食べたいけどどうしていいか困っているのだろう。



「仕方ないなあ。猫さんおどき」


 さすがに見捨てるのも可哀想だし。

 僕がそう言って猫の前に脅かすために、いつもの二メートル大の大狐になって現れる。

 僕の姿を視ると猫は驚いた。飛び上がって鼠から手を放して後退あとずさり、警戒しながらうなり声をあげる。でも尻尾は丸まっているから怯えているようだ。

 なので僕も軽く低い声で唸り返す。

 すると猫はピクリと震えてから一目散に簡単に逃げていった。僕に勝てっこないものね。


「君、何また捕まっているの。しかも生きた猫に」

「あっ、あなたは先日の」


 僕は子狐に戻って鼠の前に立ち呆れたように言えば。鼠は今回は僕から逃げる様子はなく小さな鼻とヒゲをピクピク動かした。


「へえ。まだ僕を覚えていたんだ。もう忘れているかと思ったよ」

「ぼくは助けてもらった人はすぐには忘れないです。それにあなたはお綺麗な人でしたから」

「…ん。まあ、そうだね。僕ほど綺麗な狐なら忘れられないか」

「はいっ、あなたはとてもお綺麗です」


 鼠は元気よく僕を褒めた。

 うん。

 容姿を褒められてついご機嫌になってしまった。口がにやけてしまう。まあ、実際僕は美しいから仕方がない。気分が上がる。

 ふふん、と僕は口の端を緩めながら鼠に尋ねた。


「ところでまた会ったけど、君ってこの学校に住んでいるの?」

「はいっ。住処はずっとここです」

「ずっとって。君、何歳?」

「覚えていませんが、ずっとです。ちゅう、忘れてごめんなさい」


 年齢は覚えていないらしい。

 別に鼠が歳を覚えているなんてまったく期待してなかったから良いけど。

 力や見た目だと僕より年下っぽそうだけどどうだろう。妖怪は年が分からないからなあ。

 ただ確実に僕より弱いみたいだけど。鼠もそれを察しているようで僕に対して敬語だし。


「謝らないでいいよ。じゃあ、性別も分からない?名前は?」

「はいっ、どちらも覚えていません」


 鼠ははっきりと言い切った。

 どっちもか。

 さすがにちょっと呆気にとられたよ。いままでまともに鼠と話をしたことがなかったけど。全部覚えていないのってこれが普通なのだろうか。

 まあだからこそ、鼠は妖怪になりやすくて数が多いのかもだけど。

 妖怪は結構自分の性別なり年齢、名前をどれかしら忘れているモノは少なくない。

 でも全部を忘れると妖怪は自然消滅しやすい。存在が保てなくなるからね。だから、すべてを忘れても結構な確率で存在していられる彼だか彼女みたいな鼠の妖怪は特殊だ。


「名前を忘れたなら、君を呼ぶときに困るよ。あっ、そうだ。自己紹介がまだだったね。僕の名前はモフフ、妖狐だよ」

「モフフ様!よい名前ですね。ぼくのことはなんと呼んでくださってもかまいません。そうだ、モフフ様さえよければぜひ、ぼくに名前を付けてください」


 名前を?

 思わぬ鼠からの提案に僕は青色の目を見張る。

 名前って妖怪にとっては大切なものだ。それを会ったばかりの僕に付けさせるなんて。


「えっ、僕が付けるって。君はそれで良いの?」

「はい、ぼくはこれからもモフフ様以外に呼ばれることはないでしょうから」


 鼠は端から見たらなんか可哀想なことを言っているけど、ハキハキと言う様子からは悲しみは一つも感じない。この鼠からしたら当然の考え方なのだろう。

 鼠は弱いけど、こういうところは強いね。そこは僕よりも強い。


「分かった。じゃあ、君の名前をつけるね」

「はい!よろしくお願いします」

「うん、任せろ」


 と、僕は名前を付けることを請け負ってみたけど。

 さて、名前を付けるとは言ったもののどうしようか。

 他人…他獣?の名前を付けるなんてこれで二度目だけど。この鼠、性別年齢すべて分からないし。これからもその名前で呼ばないといけない事を考えるとなるべく呼びやすい方がいいしな。

 見た目は灰色で、ボサボサで黒の鼠模様の斑点。そういえば色以外はコロッケに似ているかも。雪門ゆきかどからもらったコロッケは美味しかったな。

 …こほん。たとえばコロッケを少し変えてみて。コロ助はちょっとまずいし、コロ吉、コロ太。なんか違うな。男名だし。もうちょっと中性的なのないかな。

 違う揚げ物だからってメンチじゃちょっと肉肉しい。鼠のメンチを想像してしまう。想像したらお腹がきゅっとして拒絶反応を起こした。一応狐だから食べれなくはないけど、今の時代の僕はグルメだからちょっとね。

 うーん、前考えた時は一瞬でいい名前が閃いたけどこの子は。これだ!ってのが出てこない。


 じっと鼠を見ながら悩む僕を、鼠は耳を下げて心配そうに見上げてくる。


 よし。

 もう面倒臭…くはないけど考えすぎても仕方がないから、チーでいいや。ちゅうと鳴くから、簡約してチーで。

 よく考えたらどうせ凝った名前にしてもこの子忘れちゃうし。


「じゃあ、チー!これからは君をそう呼ぶね」

「わあっ!はいっ、光栄です。チーは死ぬまでこの名前を忘れないようにがんばります」

「そうだね。君、忘れて僕を平気で無視しそうだもの」

「ちゅ、ちゅう」


 せっかく名前を付けたのに次会った時に無視されたらイラっとしそうだ。

 根気よく呼んでいかないといけないのかもしれない。


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