狐ぼんじゅーる編20
食事する気分が失せたから僕は予定より早くりっちゃんの家に戻った。
それでももう時間はお昼を過ぎていたから、僕が居間へ向かうとそこには塾から帰っていた雪門がいた。
「ただいま、雪門お兄さん」
「おかえり、モフフくん」
挨拶をすると雪門はお母さんが用意していたご飯を温めながら挨拶を返してくれた。
僕はテーブルの雪門がいつも座る席の反対の椅子に登って、テーブルに前足を置いて顔を出す。
テーブルの上にはすでにおかずが並んでいた。
今日はお母さん手作りのコロッケとワカメのお味噌汁、キュウリと大根のお漬け物だ。
「モフフくんは今日は出かけていたの?」
「うん。狩りに行ってた」
「狩り?」
持ってきたご飯をテーブルに置きながら、雪門は首を傾げた。
「うん。食料調達だよ。さっき妖怪と戦ってきたの」
「それは、怪我とかはしていない?」
雪門は心配そうに聞いてくれた。優しい。
「この辺りの妖怪はそんなに強いのいないから大丈夫だよ」
「でも何があるか分からないし、気をつけてね」
「うん。でも今日、一匹強い子がいたよ。僕に気が付いたら姿を見る前に逃げていったから誰だか分からなかったけど。雪門お兄さんはそういう異形に心当たりある?」
目の前のテーブル席についた雪門に彼も霊感があるから知っているかなと聞いてみると、雪門は首を横に振った。
「いや、僕もこの辺り住む妖怪でそこまで強い妖怪は視たことがないかな。けど、それが悪い妖怪だったら危ないね」
「どうだろう。けど、悪さをしているなら僕も気が付くだろうし。僕が近寄ったら逃げたくらいだもん。今のところは何もないよ」
異形と言ってもみんなが悪さをするわけではない。特に強い異形は妖怪の世界は制約も厳しいし。
妖怪にも警察みたいなのがいるから、悪さをしすぎたら怒られてしまうし。まあ、人間世界と違って強ければ関係なかったり緩かったりいろいろとあるけど。
それに人間の世界の法律と逆なことだってあるし。例えばそうだね…人間世界では責任能力がなければ無罪になるみたいだけど、妖怪世界では逆に悪気がなくて悪いことした方が罪が重いとかね。悪いことが分からないモノを野放しにしておくのは危険だかららしいけど。
まあ、きちんと妖怪のルールを話すと次の日になるくらい話が長くなるから今は説明する必要もないしここまでにしておく。
雪門は僕の報告に口元に手をやり考える素振りをする。
「なら、大丈夫かな。けど一応上には報告しておくよ」
「上?」
「ああ。父さんのことだよ。父さんは悪霊払いの中でも偉い立場からね」
あっさりと雪門は教えてくれた。
やっぱりお父さんは偉い人なんだ。
退治されないように気をつけよ。
雪門は食事を始めたので、僕は話を止めて雪門の様子をじっと見つめた。
「雪門お兄さんってコロッケ好きなの?」
「えっ?どうして」
「なんだかコロッケ食べる時、雪門お兄さん嬉しそう」
「そんなに、分かりやすかったかな」
雪門は恥ずかしそうに頬を染める。
コロッケが好きなのってそんなに恥ずかしがることじゃないと思うけど。
「そうだね。コロッケは好きだよ」
「お母さんのコロッケは美味しそうだよね。大きいし、衣のパン粉も粗くて」
「うん。だいたいのお店のものより美味しいと思うよ。良かったらモフフくんも食べてみる?」
雪門はそう言うと自分の皿のコロッケを器用に箸できれいに切り分けて、下に手を添えて持ち上げた。
食べさせてくれるみたいだ。
「良いの?雪門お兄さんの好きなものなのに」
僕としては『あーん』してくれるのは嬉しいからぜひいただきたいけど。
そういえば思い出したけど僕は女の子だったから、少し女の子らしく礼儀正しく躊躇ってみる。
「構わないよ。好きなものは一緒に食べた方が美味しいからね」
「そう?じゃあ、ありがとう」
雪門の許可も貰ったので、僕は雪門へ「あーん」と口を開いた。
すると雪門は「はい、あーん」と言って、僕の口にコロッケをそっと入れた。
結構これって恥ずかしいね。相手が雪門だからかな。
雪門から貰ったコロッケを咀嚼する。
衣はサクサクして、粗いジャガイモの中に細かなお肉が入っていてすごく美味しい。それになんだろう。しゃきしゃきとした歯ごたえも。
「これってタケノコ?」
「細かく刻んだ味のついたタケノコが入っているみたいだね。口に合うかな」
「うん。お母さんのコロッケ美味しい」
「でしょ?僕が作ったものではないけどそう言って貰えて嬉しいよ」
尻尾を振って褒めると、雪門も嬉しそうだ。目を細めて笑う。
タケノコってもしかしてりっちゃんと取ったやつかな。あの後、煮付けや刺身などいろいろな料理になっているのは見たけど。タケノコのコロッケっておいしいね。
「良かったらもっと食べる?」
「うーん、いや、やっぱりもういいや。雪門お兄さんがおたべ」
雪門の好物を食べちゃうのは悪いから僕は断ると、雪門は躊躇ったけど頷いた。
「そう?僕に遠慮はいらないから食べたくなったら言ってね」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして。ところでモフフくんは好きな食べ物はあるのかい?」
雪門が質問してきた。
好きな食べ物ってことは人間の食べ物の中でってことだよね。
好きな異形の獲物を雪門に言ってもわからないだろうし。それについて好き嫌い自体はないし。
人間の食べ物か…。
「僕が好きなのは、アイスに、ミカンに、リンゴに焼き芋。お好み焼きと鯖の味噌煮とカレーと天ぷら、ほうれん草のお浸し、たくあん、しゃぶしゃぶ、すき焼き、鍋、葡萄に桃に、さくらんぼにこんにゃく、うどんに…」
「ずいぶんとたくさんあるね」
「まだまだ言い足りないよ」
好きな食べ物なんて多すぎて困るし。
僕美味しいものの種類がいっぱいある国に生まれて長生き…ん、長死に?して良かった。
「モフフくんはあまり物を食べないから、そんなに好きな物があるとは思わなかった」
「僕、これでもいっぱい食べてるよ。フィールドワーク大好きだからね。あっ、あともちろんコロッケも好きだよ!」
「ふふっ、なら今度僕の好きなコロッケ屋さんでお土産を買ってこようか?」
「いいの?ありがとう、雪門お兄さん大好き!」
僕がキラキラ目を輝かせてお礼を言うと雪門は「どういたしまして」と微笑んだ。




