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狐ぼんじゅーる編2

 突然、横方向から僕の胴体どうたいへ何かを投げつけられる衝撃しょうげきを受け、僕は美しくない叫び声を上げてしまった。

 少しよろけながらも当てられた物を見るとそれは拳大こぶしだいの灰色の石だった。

 え、こんな大きな石を投げたの?めっちゃ痛かったけど。

 まあ叫び方は大げさだったけど。…うん。ちょっと恥ずかしい。


遥香はるかから離れろこの犬!」

「あ、あのね、りっちゃん、彼は狐だって」

遥香はるかから離れろこの狐野郎きつねやろう!」


 遥香が注意すると、現れたりっちゃんという人は丁寧に言い直してくれた。

 でも言い直してくれたのはいいけど、なんで狐だと野郎が付くのだろうか。せない。

 現れたのはりっちゃんという名前らしい頭一つ分くらい遥香より背が高いイケメン(スカート)だった。遥香はるかと同じ学校の制服 (スカート)で、ミルクティー色のふわふわな髪は耳より少し下くらいの長さ。目の色は琥珀色こはくいろでよく絵本の王子に使われそうな容姿だ。なんとなくりっちゃんは雰囲気的に遙香はるかと同級生っぽい。制服もまだ新しそうだし。

 そして男の子っぽいけど、たぶん、女の子だよね。スカートだから、たぶん、女の子だよね?


「君って女?」


 分からないから聞いてみたら「どうだろうな」とキラキラとした余裕そうで格好つけな笑顔で返された。

 僕も結構ウザい性格だと思うけど、彼もウザそうだ。

 僕は大きなふさふさの尻尾を警戒するようにフリフリしながら様子を見る。

 というか、何で僕が視えているんだろう。一応、遥香はるかにしか視えないようにしてるはずだけど。


「あのね、モフフ…さん?りっちゃんは男の子だよ」

「はあ、男ぉ?!男がなんでスカートなのさ」

「えっと、りっちゃんの趣味だから?」

「えっ。そうなの?」

「違う!!」


 りっちゃんは思い切り否定した。

 あっ、違うんだ。そっちの人かと思ったけど。って遥香はるか、適当に答えたのか。

 しかし遥香はるかはさっきから僕にいろいろ教えてくれるけど、いいのかな。

 一応僕はなんちゃってって言ったけど、敵っぽい立場なのに助けにきたりっちゃんのこと話して。まあ、男か女かなんて僕からしたら大した情報じゃないけど。


「えっ。りっちゃんは学校から帰った後はよく女装しているから、趣味なのかと。ごめんなさい」


 …りっちゃんよく女装しているんだ。僕は少し引き気味になる。

 いや、個人の自由だからどんな嗜好だろうといいと思うよ。顔が良いから似合っているしね。

 遙香はるかの言葉にりっちゃんはショックを受けたように固まる。


「よく…。前に見られたなと思ったことはあるけど。そんなに見られていたのか。それに、俺が女の制服を着てても何も言ってこなかったのはそれでか」

「聞いちゃいけないことなのかと思っていたから」


 少し気まずい空気が二人の間に流れる。

 これは、遥香はるかのほうが正しいよね。いきなり知り合いが女装を始めたら見なかったふりをするのが普通だよね。

 僕は聞きまくるけど。傷口をえぐる方が楽しそうだし。

 いや、やっぱり時と場合とテンションによるな。


「そうか。俺も何も言わずに悪かった。近所に住む幼なじみがいきなり女の格好をしはじめたら聞きづらかったよな。けど、それなのに今まで俺のことを避けないで普段通りに接してくれてありがとう」

「ううん。だってりっちゃんは女装も似合っていたし、大切な友達だから。女の格好をはじめたからって、それだけで友達じゃなくなるなんて。そんなの、悲しいよ。私はりっちゃんが女の格好でもなんでも、ずっとりっちゃんとは友達でいたい」

遥香はるかっ、ありがとう」


 優しく微笑みながら何気なにげに一生友達宣言をする遙香はるかに、りっちゃんは嬉しいような悲しいような苦いものを食べたような表情でお礼を言う。

 うん、良い話?


「ううん、それにどんなりっちゃんでも友達でいたいと思っているのは私だけじゃないよ」

「え?」

「同じ中学校の子達もりっちゃんがいきなり女装を始めてびっくりしててたけど、みんなりっちゃんのことは大切な友達だって」

「そうか。…それは、みんな俺がこの格好してること知っているのか。見られないようにしているつもりだったのに」

「あっ、うん。田中君が。こっそり撮ったりっちゃんの女装写真をSNSでシェアしてたから」

「…田中ぁ!!」


 りっちゃんは怒りに身を震わせ、ドスの効いた男らしい声を上げた。りっちゃんの雄姿ゆうしは田中君のおかげでみんなの知るところになっているらしい。

 そして僕はなんか無視されている。

 え、僕って結構貴重な珍キャラだと思うのに。だって狐だよ?妖怪で妖狐だよ。ちょっと無視しないでよ、と存在を主張するために試しに大きな尻尾をバサバサ振ってみた。


「でも、ならどうしてりっちゃんは女装してるの?」

「家の手伝いでだ。俺は…家業でこいつみたいな悪霊あくりょうを払う見習いをしているんだけど。悪霊払あくりょうばらいは見習いのうちは女の格好をしていた方がやりやすいから、あと一年はこの格好をしなくちゃならない」

「どうして女の格好の方がいいの?」


 一瞬僕の話題になりそうだったのに話がまた戻ってしまいそうだったから、僕は内心慌てながらも落ち着いたていを装い二人の話に割り込んだ。


「それはね。女の方が美味しそうだからだよ」

「えっ」


 遥香は僕の言葉にビクリと身を震わせた。二人の視線がやっと僕に向く。

 …本当にやっとだし。


「僕は生きた人間を食べたことはないけど。女の子の方が妖怪からしたら美味しそうな魂をしているんだ。だから年の浅い理性のないモノは本能的に女の子を狙うから、未熟みじゅくな人間は悪霊に人気な女の格好でいたほうが方が自分を囮にして引き寄せられる。男だと隠れちゃうからね」


 そうでしょ? とりっちゃんに聞くと彼は何も言わずに僕を見つめた。否定がないからある程度は合っているんだろう。

 それに理由はそれだけでもないしね。知ってはいても別に多くを語るつもりもないから言わないけど。

 僕も昔、死にたての時はめすの方の魂をよく食べたくなったからそういうものなのだろうね。僕は最初は弱かったし、生物の魂を食べられるように強くなった時も生き物のを食べるのはこらえていたから。


「けど納得。君は悪霊払いだから僕が視えている訳だね。へえ、実際に僕らと対峙たいじできる人なんて珍しい。霊能力者れいのうりょくしゃとか言っているのも僕の住んでいる山にたまに来てたりしたけどほとんどはただの痛い人たちばかりだし。君は人間にしては強いね。でも、僕より弱い」


 僕が臨戦態勢りんせんたいせいをとるように毛をブワッと逆立てて、ニヤリと悪い笑みを作ってりっちゃんを見れば、りっちゃんは遥香はるかを守るように僕の前に立った。

 まさにお姫様を守る王子様だね。あれ?ってことは僕は…。うん、気にしない。


「悪霊払いの癖に妖怪である僕を石で攻撃してきたんだ。あの時は油断してたけど、僕くらいの力の妖怪に石なんか効くわけないのにそうするなんて。悪霊払いといっても君って大したことないでしょ。わざわざ女の子の格好をしているしね。まさか何も用意が無いわけないから何かしら対策を持っているんだろうけど。ああ、僕を無視してわざと話を長引かせたのってもしかして時間稼ぎ。僕の隙とか狙ってたの?本当に無駄な抵抗」

「…それでも俺は遥香はるかを守る」

「りっちゃん」


 りっちゃんはふところから数枚すうまいお札を取り出した。やっぱり対抗する手段はあったらしい。

 君は確かに人間にしては強いけど。

 ぶっちゃけ君に守れるわけないじゃん。僕の相手にもならない。

 よかったね。僕が悪い狐じゃなくて。


「あのさ、確かに昔僕は遙香の先祖に殺されたからここに来たけど。そもそも僕、だからって遥香はるかをどうこうしようって気ないし」

「はあ?」


 僕の言葉にりっちゃんは驚いたって顔をしたけど、僕はさっき君が石を投げる前になーんちゃって、って言ったじゃん。

 りっちゃんは離れたところにいたから聞こえなかっただろうけど。

 それにそのすぐ後に石を投げられてなんか話が流れちゃったし。

 別に僕は人間を食べに来た訳じゃないし。まったく勘違いするなんて失礼しちゃう。

 はい、もともとは僕のせいですよね。知ってますう。

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