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狐ぼんじゅーる編14

 今日もりっちゃんの学校に付いて行った。

 そして、学校に着くなり僕が「遙香はるかのところに行ってくる」とりっちゃんに言えば、りっちゃんは思うところがありそうな表情だったけど「ああ」と許可してくれた。

 なのでさっそく遙香はるかの教室に行くと、その前に廊下にある掃除道具が入ったロッカーの影にタワシほど大きさのねずみを視つけた。鼠色で背中にある黒い三つの丸がまるで鼠のような模様の斑点がある。ただの鼠ではない。これは妖怪だ。

 鼠は振り返り僕にじっと視られていることに気がつくと、すぐに驚いた様子で一目散に逃げる。

 なので僕は後を追い、前足で手入れのされていないボサボサな鼠の背中を踏みつけてあっさりと捕まえた。


「ちゅー、ちゅー。命だけは助けてください」

「うーん。どうしようかなあ」

「ちゅう、お願いします。ぼくは食べても美味しくないです」

「別に味はどうでもいいけど」


 僕が捕まえると鼠はくりくりした丸く黒い瞳を向け哀れに命乞いをした。

 僕は今そこまでお腹は空いていないし。食べなくてもいいけど。ただ逃げたから追いかけたくなっただけだし。

 でも、せっかく捕まえたから。少し迷う。


「ちゅー、何だって、もし助けてくださったらしますから、お願いします」

「何でもするって言っても、君たちはあまり賢くないからすぐに忘れるでしょ」


 鼠は数が多いけど、そのほとんどが弱くて頭も悪い。だからあまり強くない異形の良い餌になる。

 弱いからあまりお腹の足しにならないけどね。


「ちゅう」

「まあ別にいいけど」


 食べるつもりで捕まえた訳でもないし、僕は鼠を押さえていた前足を上げた。

 鼠の“何でもする”と言う部分で、一昨日の僕が遙香はるかを襲うフリをしたことを思い出してやる気がそがれた。

 あのふざけたことは本当に反省してます。


「ヒェェェっ!」

「別にそんなに必死にならなくても食べないよ」


 鼠は僕の足が退かされると悲鳴を上げて素早く去っていった。

 逆にそんなに急いで逃げられると追いかけたくなっちゃうんだけど。堪えたけど。

 なんか、僕が食べなくてもすぐに誰かに食べられそう。

 ……というかさっそく何でもするって言ったこと忘れて逃げたな。


 それから僕は当初の予定通りに遙香はるかに会いに行った。

 鼠のせいで遙香はるかの教室はすでに朝のホームルームが始まっていた。

 僕は遙香はるかに視えるようにしてから黒板前にある教卓へ登り、教卓で話している先生の真ん前に座って遙香はるかに片手を上げて挨拶した。

 遙香はるかは僕に気がつくと、いきなり僕が現れたことに驚いてから、微笑んで小さく口だけ動かして声は出さずに『おはよう』と言ってくれた。それに僕も声を出さずに『おはよう』と返した。

 別に僕は声に出しても霊感ある人にしか聞こえないから声を出さないことに意味はない。これはただの遙香はるかの真似っこだ。

 僕は遙香はるかに挨拶をして満足したので教室を後にした。


 それから僕は広いこの学校を探検しながら過ごした。

 一日目は2人の勉強の邪魔をしたけど、やっぱり学生の本分ほんぶんである勉強の邪魔は駄目だよね。成績が下がったら僕のせいだってなっても困るし。

 それくらいで下がる方が悪いし、とは思っても罪悪感はあるもの。


 けど、この学校で不思議なことは悪い異形の気配がほとんどないということだ。

 普通ならそれなりに学校には強さや害の程度はさておき悪霊もいる。なのにここではあまり感じない。

 普通の浮遊霊ふゆうれいや先ほどの鼠のように弱く無害な妖怪はいるけど。それだけだ。

 学校ってそもそも集まりやすいのに。

 りっちゃんが退治しているのか、定期的に悪霊払いを雇っているのか。それとも…。

 まあ、考えても仕方がないから僕は考えることを止めて放課後までぶらぶらとして過ごした。


 放課後になってからホームルームも終わり、僕はちょうど帰るところのりっちゃんの元に戻ると。

 りっちゃんは「今日は何をしていたんだ」と怪しむように小声で聞いてきた。


「今日は2人の勉強の邪魔は駄目だと思って学校の中をフラフラしていただけだよ」

「フラフラ…、本当に?」


 りっちゃんは怪しむようにして尋ねてくる。

 これはちゃんと本当のことなのに。まあ、普段の行いが悪いせいで疑われているんだろうけど。


「本当だよ。ちゃんと大人しくしてたし。遙香はるか雪門ゆきかどの教室をこっそり見たり、りっちゃんの下駄箱にラブレターをこっそりいれてる女の子をこっそり見てたりしただけだし」

「入っているのか」

「うん。りっちゃんモテモテだね。さすが僕のりっちゃん」

「俺はお前のじゃない」


 モテモテは否定しないのか。

 まあ、りっちゃんは黙っていれば顔良いし格好いいもんね。話すと雰囲気が一気に変わるけど。

 僕限定で。

 きっと僕が特別だからだとポジティブシンキングしておく。


「りっちゃんは」

「ねえ、竜泉院りゅうせんいんくん。もしこのあと暇なら一緒に遊びに行かない?」


 僕の話を遮って元気そうなおしゃれ雑誌を愛読していそうな同じクラスの巻き毛の女子がりっちゃんに話しかけてきた。可愛いし自分に自信がありそうな子だ。

 まあ、僕は彼女には見えないから仕方ない。

 りっちゃんの視線が女の子に移る。


「いや、ごめん。俺は家の手伝いがあるから行けないな」

「えっ、家の手伝い?家は何してるの?」

「家は神社」

「神社!すごいね」


 女の子はきゃあきゃあと黄色い声を上げて話している。神社だと何がすごいんだろう。破ぁ!!っと悪霊を倒すところかな。あれは寺か。

 それにしても明らかに彼女はりっちゃんに好意を持っている。

 りっちゃん、さっそくモテてる。


「誘ってくれてありがとう。じゃあまた明日な」

「うん、またね。竜泉院りゅうせんいんくん」


 女の子と少し雑談をしてからりっちゃんは笑顔で彼女に挨拶をして話を切り上げた。そういうことに手慣れている。

 りっちゃんは教室から出て行くので、僕も一緒に足元に付いていった。


「りっちゃん、モテモテだね」

「うるさい」


 放課後は部活に所属している人が多いせいか、すぐに家路についたからか帰り道はあまり人がいないので僕はりっちゃんに話しかけるときちんと小声で返事が返ってきた。小声だけど耳の良い僕にはしっかりと聞こえる。

 りっちゃんは息を吐いた。


「りっちゃんは彼女つくらないの?」

「別に」

「好きな人いるの?」

「いない」

「もしかして遙香はるか?」

「違う」

「まあ、はじめて会った時に一生友達宣言されてたし。もし遙香はるかのことが好きだったら、きっついもんね」

「…」


 りっちゃんの返事がない。まるで鹿とバネのようだ。


 …あれ?もしかして本当にりっちゃんは遙香はるかのことが好きなのか?

 確かにりっちゃん、遙香はるかのこと僕から必死に守ろうとしてたけど。りっちゃん、なんか元気が無くなったけど。本当に?

 僕はりっちゃんの様子に不安になった。だってりっちゃんのこんな思い詰めたような様子はじめて見たし。


「えっと、りっちゃんごめんなさい。僕何も考えずに聞いちゃって」


 僕は耳を下げてりっちゃんに謝るけど、りっちゃんはこちらを見ようともしない。


「ねえ。僕もりっちゃんの応援するから。りっちゃん元気出してよ。りっちゃんは顔も良いし、真面目だから、きっと遙香はるかもりっちゃんを好きになってくれるよ」


 僕はりっちゃんを必死に励ます。

 すると、りっちゃんはやっと僕の方を見て、うれい顔から表情を戻す。


「別に遙香はるかのことは俺もただの幼なじみで友達だよ。冗談だ。お前ってよく冗談言うくせに騙されやすいな」


 りっちゃんは冗談だったらしい。まんまと騙された僕を真顔で見下ろす。

 僕の顔は羞恥しゅうちで熱くなった。

 子狐の姿だから他目よそめには赤くなった顔はバレないけど。


「りっちゃん、いじわる!」

「お前に言われたくない。俺はお前よりは確実に意地は悪くないからな」


 まあ、その通りですけど!

 でも、やっぱり人から騙されるのは悔しい。


「そういうお前は好きな奴とかいるのか?」

「りっちゃんだよ」


 りっちゃんは僕に尋ねてきたので、僕はすぐに頬を膨らませて答え反撃する。

 するとりっちゃんは嘘くさいきれいな笑顔で「ありがとう」とだけ答えた。


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