母として
わたし、天木ルアは娘のお願いをどうしようかと悩んでいた。あの子が珍しくしてきたお願いを聞いてやりたいとは思うのだが学校の先生の手前どうするべきかを迷っていた。
ルミの通う学校には学校に認められたものであれば個人で教えてもいいという制度がある。
異能が特殊な場合はその異能を使える者が教えたほうが効率がいい。そのための制度である。ただ、ルミは別にそうする必要はない。
本人がやるなら徹底的に教えてほしいといっただけだ。この制度を今の状況で使うことは先生に対して「あなたの教育では満足できません。この子は私が教えます。」と言っているのと同じである。
「うーん、どうしたものか…。」
「ルアさんが悩み事なんてめずらしい。なにかあったんすか。」
「珍しく娘からお願いされて、それをかなえるべきかどうかで悩んでいる。」
「それは、難しい質問ですね。」と秘書である佐藤君は書類に決済のハンコを押しながら話を聞いてくれている。
「丸爺はどう思います。やっぱり、かなえてあげるべきですかね。」
「ほほほ、それは大事な悩みですな。私としては、ルミ嬢のお願いがどんなものかも気になります。ただ、もう成人になるとはいえまだ子供ですから最後のお願いだと思って聞いてあげればよろしいのでは。どうぞ、こちら入れたての紅茶でございます。」
「さあ佐藤様も」と慣れた手つきで紅茶を入れ配膳していく。丸爺は先代からの秘書で、執事としても一級でありながら戦闘でもいまだ現役であるとにかくすごい人だ。
「たしかに、それもそうですね。今まで全然頼ってくれてなかったわけだし、今回はかなえてあげますか。佐藤君、ここから数か月間の日程を私だけでなくみんなも併せて調整しておいて昼からでいいから。」
「へいへい」と言いながらさっそく取り掛かってくれている。仕事の早い部下は大好きだ。さあ、久々に熱くなれそうだ。わたしは、紅茶を飲みながら興奮していた。