私の母です
「ぷっはあー。生き返ったー。ほんっとうに死ぬかと思ったよー。」
「いやあ、本に埋もれて手だけが出てた時はびっくりした。死んだんじゃないかって焦ったもの。逆に、音なしで埋もれるって才能あるわ。」
「いや、すごい音してましたよ。だって、寝ていた私が起きるぐらいですから。集中しやすいのはいいことですけど、周りの音が聞こえなくなるのは気をつけたほうがいいですよ。」
まさか、そんなすごい音がしていたとは…。さすがに、気をつけないと交通事故にあっても気がついたらあの世行きという可能性もある。
「そういえば、どうして高い位置の本をとるのに脚立を使わなかったの」
私はすぐに思った疑問を口にした。
「えーっとねえ……。ちょっと高い位置にほしい本があって背伸びしても届かなそうだったんだけどジャンプしたら届いたから。何度か繰り返して取れたーっておもったら本がドバーッと落ちてきたの。」
いくら読みたいからってそんな無茶をしなくても本は逃げないのに。それに、上の棚はあまり入れ替えられていないから本同士がくっついていたのだろう。だから、無理やり本を引っ張れば落ちてくるのは当然のことだ。
「上の棚は難しい本だったり古い本しかないはずだけど、そんなに読みたい本だったの。」
「うん、昔の戦技の教科書なんだけど。今じゃプレミアがつくほどのお宝品だから読んでみたくって。」
まさか、あんなかび臭いぼろぼろの本の中にプレミヤがつくものがあるとは思ってもみなかった。昔読んだことがあるはずだけど、印象に残ってないから大したものではないはずだ。
「これってそんなにすごいものなの。こんな、ぼろい本が。」
「ぼろい本とは、失礼だよ。すごいんだよ。なんでも、今の教科書は基本的な格闘術や異能の出し方とか小学生で習う内容を難しくしたものだけどこれは違うの。実戦でどう動くべきとか、だれでも使える異能が載っているの。それに、最強の世代と呼ばれた人たちの教科書が読みたくって。最強の世代のファンなんだよ。わたし。」
最強の世代か…。この国が始まって以来、天才と秀才が集まっった世代で、今では国を支えいたるところで成果をあげている人たちのことだ。
先代の防衛省のトップだった天木ルカの直接の指導を受けて育った世代で数々の外敵の脅威から国を救った英雄たちでもある。
そんな人たちが使っていた教科書は確かに魅力的だ。当時は、まったく無名だった人さえも天才と呼ばれるほど成長させたのだから。
そうこうしているうちに、また一人家に帰ってきたようだドアが開く音がした。
「ただいま、あれ誰か来てるの。言ってくれれば、何か買ってきたのに。あら、いらっしゃい」
「思ったよりも、会議が早く済んだみたいですね。ルア」
よりにもよってお母さんが帰ってきてしまった。案の定、最強の世代のファンと言っていたさやは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
それはそうだ、目の前にいるのはファンでなくても知っている有名人なのだから。ようやく、事態を飲み込んだのか顔が見る見るうちに真っ青になり動揺している。
「どどどどど、どういうこと。なんでルアさんが、えっえっえっ何がどうなって。わたし、ルミちゃんの家に遊びに来て、そしたらルアさんが来て……。」
これは、理由を説明しないと殺到しかねない。もうすでに、パニックを起こしている。
「えーっと、私の母です。」