1話
人生において才能は重要だと私は考えている。努力をしなければ、話にならない。
それでも、どんなに努力してもたどり着けない領域がある。
完璧な隔たりがある。
それは、おそらく何百年と重ねられてきたであろう議論で答えも出ないだろうけど私は「努力ではどうにもならない領域がある説」を推している。さすがにそう思っている私でも努力をしないわけにはいかない。そうやって、ああだこうだと考えているうちに向こうから一人ショートヘアの女の子が急ぎ足で歩いてきた。
「もう、ルミちゃん何してるの。早くいかないと授業遅れるよ。次は新生物学なんだから。ほら、いくよ。」
「あっ、そうか。ありがとう、さや。」
私はさやにお礼を言って準備をし、教室へ一緒にむかった。
なぜ「新」とついているのかといわれると、ここ300年で人類や生物が大きく変化したからだ。教科書の「よくわかる新生物学 三訂」から引用すると以下のとおりである。
「人間は、当時創作物でしかありえないとされた魔法や異能が当たり前のように使え、牛や馬などの動物は知性をもち、火を吐くものから全長6mもあるものまでさまざまな進化を遂げ、伝説とされていた竜など空想上の生物までも現れたのだ。」
とこういったものである。つまり、この授業はその進化の過程で私たち人類や生物がどのように変わってきたのかを知る授業である。
「ああ、疲れた。いくら重要な科目だからってあんなに知識ばっかり詰め込まなくてもいいしもう少し、雑談とか雑学みたいなの混ぜてくれてもいいのに・・・」
「雑学って・・・。それでも医療系に進むなら必要だからあきらめて覚えるしかないよ。」
そういって、うなだれているさやを慰めた。
「天木さん少しいいかね。」
声のするほうを振り返ると新生物学を教えていた湯川先生が立っていた。
私はさやに「ごめん」と声を出さずに伝えて先生とさっきまで授業していた教室に入った。
「すまないね。友だちと帰るところだったんだろうけど、どうしても今日中に伝えておきたくて。」
いったい、なんだというのだろうか。新学期が始まってまだ二か月しかたっていない状況で差し迫って決めなければいけないことなんてないはずだけど。
「話したいことというのは、来年のコースのことについてなんだ。」
「来年のコースですか・・・。三浦さんとは別れることになりますが防衛コースでいくつもりですが・・・・。」
なんとなくではあるが、今の一言で話の意図が見えた気がする。先生は技術・学問系のコースに進んでほしいのだろう。
この学校は三年次から3コースに分かれる。1つ目が技術・学問系コース、2つ目が医療系コース(卒業は4年後)、3つ目が防衛省入省コース(略して防衛コース)である。
防衛省の防衛隊は、現代の異能社会において花形であり都市機能を維持するためには必要な軍事力である。そこに、求められるものは1にも2にも戦闘技能で、その人がいかに異能力を使いこなせているか、どれほどの威力がでるかによってランクがきめられている。
「はあ、防衛か・・・・・。君ならほかの学生と違ってしっかりと自分の立場をわきまえていると思ったのだがね。落ち着いて考えてみたまえ、そのコースはAクラスだけでなく、さらに上のSクラスまで受けるんだぞ。今君がいるCクラスで受かると本当に思っているのかね。」
「そんなのやってみないとわからないじゃないですか。少なくとも、ゼロではないと思っていますが。」
「やってみないとって・・・・。なにを言っているんだ、ならばなぜ今そのクラスにいる。まだBクラスにいるならわかるが、君はCクラスだ。君が言っていることは、落ちこぼれが明日には天才になるということと同じぐらい滑稽だ。」
なんと嫌味な言い方だろう。これにはさすがに腹が立つ。立場をわきまえろ、落ちこぼれが明日には天才になるとおなじぐらい滑稽だ。こいつ生徒のことを思っていたら何を言ってもいいと思ってんの。うざい、うざい、うざい。ただ、それを表に出すわけにいかないのでひきつった笑顔で「あの、えーっと、はいそうですね。少し考えておきます。」としか答えられなかった。
「ああ、ぜひそうしてくれ。」
その言葉をきいてからすぐに教室をあとにした。
廊下を歩きながら、さっき言われたことを頭の中でリピートした。
思い返すだけでも腹が立つが言い方に問題があるだけで正論ではある。だからこそ、なおのこと腹が立つ。
なぜ、Cにいるのか、それは昇級試験の前日に夢でも何度も見た事故があったからだ。だから、試験を受けられなかった。
たしかに、試験を受けていてもBクラスに入れたかどうか怪しいかった。それでも、受けていれば変わったかもしれないし、そうであってほしい。そんな、願望しか今の私には思うことしかできない。
もやもやした気持ちを何とか抑えて教室のある建物を出て中庭にむかった。中庭は急用ができた時のさやとの集合場所で待つ側に用事があれば帰る、なければそこで待つ。アナログなやりかたではあるがこれが確実で分かりやすい。今日は何もなかったようだ。
「おまたせ。」と中庭のベンチに腰かけていたさやに声をかけた。
「うん、ふぁあ。思ったよりも早かったね、ぽかぽかしてついついねちゃってたよ。」
さやはのびをしながら立ち上がり、歩き始めた。ちょうど向こうから走ってくる子が見えた。
「二人ともいいところにいた。年度末にあるクラス対抗戦に出てくれない」
この一言が私の今後を決めたのだった。