かくれんぼ
道栄高校に伝わる奇妙な言い伝え。
―――――――――道栄高校でかくれんぼはするな。
別に人を恐怖に陥れるような言い伝えではないため、時代とともに消えていった言い伝えだ。
今では知る人は、消えた…。
そして、消えた今、その言い伝えが復活することになるのだ。
「おっはよー♪」
原本心咲高校一年生です☆
この間から人が消えたり、殺されたりって言う事件が多くて学校が休みになりまくったんだけど、
今日からまた登校♪久しぶりにみんなに会えるのが嬉しくて仕方ない女子高生です♪
「ねー。今日のLHRで復活祭やろうってはなしだけど、どうかなッ?」
仲良しの星野葵と一緒に登校する。
葵は頭がよくて何でもできるスーパーミラクル少女☆
尊敬できる心友なのッ。
まぁ、ちょっとだけ妬けちゃうんだけどね…。
で、葵は学級委員長、しかも生徒会委員なんだ♪
「うん。いいんじゃないかなぁ!」
そう答えると葵はまぶしい笑顔をこっちに向けてきた。
「じゃあ、朝礼で言ってみよッ!」
「皆さん、今日のLHRで何か登校記念をしませんか?」
葵の隣にいるのは、私の何でもいえる仲の男子、阿部剣。
葵は登校時に見せた笑顔とは違い、とても真剣そうな顔をしている。
その点、剣は…。
本ッ当にやる気がありません!っていう態度をとってるよ。
私が冷たい目で剣のほうを見るとたまたま目が合う。
口パクで『バーカ』って言うと、あいつは思いっきり声を出していった。
「何だよ!俺だってやりたくないんだよ!学級委員なんて!!」
みんながいっせいに剣を見る。
その様子に、思わず私が隠れて噴出す。
本当、
―――――――――バーカ
葵の意見が通り、登校記念復活祭はLHRでやることになった。
意見が数々に出される。
バレー、ソフトボール…。
みんな、自分が有利になるように所属している部活をあげて言っている。
中には、
『演劇』
とかいうもろ部活だろっていうものまである。
そのとき男子が手をあげる。
「かくれんぼ!みんなで童心に返ったつもりでやろうぜ。」
そういうと、みんなも懐かしくなり、やろうということになった。
授業中に回ってきたメモにも『LHR楽しみだよね♪』って書いてある。
私も楽しみ…☆
もちろん、先生にも許可は取った。
外でやると隠れる場所がないから、校内でやろうということになった。
もちろん他のクラスに迷惑ならないように、という約束つきで。
「じゃあ、ジャーンケーンー…。」
先生とみんなでジャンケン。
それで負けた人2人を鬼にしようという方法。でも、今でも『鬼』っていうと『鬼ごっこ』を思い出して怖くなる。
だから誰も『鬼ごっこ』っていう意見を出さなかったのかな。
負けたのは、
剣と中川君。男二人って言うのもなんだか怖いな。
「ったく。仕方ねぇーな。おい、中川。はじめに見つけんの、心咲だからな!」
…このバカ男め…。絶対にせこい手を使ってでも逃げ切ってやる!
10分間の猶予を与えられた私たちはいっせいに校内の隠れられる場所を探して逃げる。
『更衣室』、『トイレ』は禁止。
―――――――――絶対隠れきってやる。
その思いを胸に、葵と一緒逃げる。
「ココどうかなッ?」
葵が指差す場所を見てみる。
でもそこは、二人は入れない。それにここがもし見つかったとしたら―――――――――剣は私を探すといっていたから…。
「葵はここに隠れてて!私は違うところ探すから!」
私はそっとその場を離れる。
「ちょ、心咲ー!」
小声で叫ぶ葵の声をBGMににやりと私は笑っていた。
◇
どのくらい時間がたったんだろう。
私はさっきから同じ状態で待っている。とっくにLHRの時間は過ぎていたがみんなは続行するってメールが返ってきてたからそのメールを信じている。
ちょっと…寒い。
おとといから理事長が学校を留守にしているから理事長室の中にある、机の下に隠れている。
ここなら多分…見つからない。
でも、理事長がいないからエアコンはもちろん、つけられていない。身にしみる寒さ、それは多分…さびしさだろうな。
『お姉ちゃん、誰?』
背後から声がする。
剣や中川君じゃなくて、でもクラスメートじゃない…幼女の声が背後でした。私が振り返ると幼女は、
『ねぇ、お姉ちゃんはここで何をしているの?』
もう一度同じ問いをしてきた。
その女の子は、黄ばんだ、不規則に赤い斑点の付いた―――――――――ワンピースを着ていた。
「隠れているんだよ。クラスでかくれんぼ、しているから。」
そういうと、女の子は頭を頷けた。
「どうしたの?何か私気に障ることいったかな?」
女の子の反応はない。
『みぃつけぇた』
女の子は不意に声を出す。
「―――――――――え?」
体が急に重くなって何かの中へ…底がないどこかへずっとずっと落ちていった。
◇
「なぁ。心咲見つかったか?」
心咲以外全員見つかったのに何であいつだけ見つからないんだよ―――――――――剣は心の中でずっとその言葉を繰り返していた。
みんなで心咲を探した。仕方ないから、更衣室もトイレも探した。くまなく探した…。
でも心咲は見つからなかったのだ。
「仕方ありません。職員棟も探してみましょう。」
先生が一つ一つマスターキーで教室を空ける。
校長室も、相談室も…全部あけた。
「では、皆さん探してください。」
みんなが散ってゆく。
もちろん、理事長室にも何人かが探しに入った。
「心咲ちゃんッッッ。」
心咲の姿はどこにも見当たらなかった。
誰かが私を呼ぶ。
誰?葵、日菜?南?百合?
何だよ…。葵以外全員死んじゃってるじゃん…。
バカみたい…。
『ちゃん。お姉ちゃん……お姉ちゃん。」
「あ……。」
あの女の子がいた。
『お姉ちゃんの体って入りやすかったな。』
――――――――――――――――――え?何?私の体のっとられたの?
『お姉ちゃんってお姉ちゃんなのにバカだよね。せっかく私言い伝えとして残してあげたのに。バカね。道栄小学校でかくれんぼは禁止になったはずじゃないの?』
「待って!ここは、確かに道栄だけど、小学校じゃないわ!小学校は10年前に消えて、その場所に高校が建ったのよ!」
そういうと、女の子は口をにやりと笑わせた後…恐ろしい声で言う。
「そんなの関係ないわ。小学校だろうと、高校だろうと関係ない。この土地でかくれんぼは禁止されたはずよ。―――――――――私の遺書によって…ね。」
い、遺書!?
この女の子、幽霊…。それに、遺書書いて死んだ…―――――――――って変だよ。私はじめて聞いたよ?
私だけしか知らなかったの。
『まぁ、いいわ。この生き地獄からの呪縛がとかれたから嬉しいの。』
言ってることが意味分からない。
『お姉ちゃんが私の身代わりだよ。』
―――――――――意味不明。何言ってるの?
『私、ずっと待ってたんだ。ココに隠れる人。かくれんぼでココに隠れたら…次にココに隠れる人がいるまで死ねないよ。』
…………理解不能。思考停止。
『だから、お姉ちゃんがいないとみんな困っちゃうじゃない。だから、だからだよ?仕方なく私がお姉ちゃんの身代わりなの。』
意味分からない。
別にいいじゃない。だったら理事長は何でこんな呪いにかからなかったのよ。バカみたいじゃない。
「あなたみたいなるんだったら、私は死んだほうがましよ!!!!殺して、早く殺してよ…。」
私の頬に涙が伝う。死んだほうがましだ。こんなところで……。生き地獄を味わうならまだましだ…。殺せ…早く殺せ。
『そっかぁ♪じゃあ、お望みどおり殺してあげるね、お・ね・え・ちゃ・ん。』
その地の底から響く声に私は背筋がビクッとする。
軽い気持ちで言った『殺して』という言葉が脳内で響きまくる。
イヤだ。イヤよ。殺されたくなんてない。でも生き地獄もイヤだ。
「あっれぇ〜♪この子、南の友達じゃーん♪死にたいんだっけ?魂ちょーーっだぁい♪」
イキナリ私の視界に出てきた小さな小さな妖精さん。
「た、助けて!」
私は小さなその妖精を手で握る。
妖精は私の手を振り解いて宙へ舞う。
「タスケル?何言ってるの?あなたは私に…―――――――――魂を売ったんじゃない。」
…―――――――――はぁ!?
私は気が付いたら、首に大鎌を当てられて身動きができない状態にいた。
誰が私をこうやって呪縛しているの。あの、小さな女の子?
こわごわ目を開けると、目の前に妖精はいなかった。
「バカねー。あなた、アトランティスに来て死んじゃった南のほうがまだ楽な死に方じゃなかったかしら。」
―――――――――え?
南はアトランティス…大西洋に沈んだっていう幻の文明王国に旅行に行っていたの?
「アトランティスはね、その人が望む世界にいける世界。理論上にない幻王国。」
抑揚なくしゃべるその妖精もどきに私はぞくりとする。
「あなたの名前は―――――――――?」
「ルクよ。」
…ルク………っか。
「心残りはない?」
そういうと私はふと脳裏に浮かんだのは葵のこと。
「葵。」
私はいつの間にか呟いていた。ルク葉ちゃんとその言葉も聞き取っていたのだ。
「……………アオイちゃん?」
そういうと一瞬だけルクは大鎌をはずした。私はその隙を狙ってルクから距離をとる。
自慢じゃないけど…ちょっとだけ柔道やってたから…倒せるかもしれないけど、あの大鎌に対抗できるほどのものじゃない。
あれで首を一突きされたら完全に死ぬ。
私は構えの姿勢を自然にとっている。どうしよう。一か八か。
ルクも鎌を胸の前に持ってきて構えの姿勢をとっている。もう、後には戻れない。
走ってルクに立ち向かった瞬間…。
ちょうど、背中あたりに痛みを感じる。ものすごく―――――――――――――――痛い。
私の意識はなくなった―――――――――――――――。
「ねぇ、ルク?お姉ちゃんどうだった?」
「んーっと美味しかったよ。あの子の魂…なんだか未練があったらしくてすごく苦かったけど適度な苦さだったからよかったな♪南と同じくらい美味しかったよ。」
そういうとさっきの余韻に浸るルク。
「もう!私が聞きたいのは違うのよ!!分かるでしょ?」
そういうと、にやりと冷たい笑いをシュリに向けるルク。
「―――――――――――――――大丈夫。あの人のことだから。」
その後ルクから開放されたシュリは、下界に降りてきて道栄高校の屋上のフェンスにそっと腰掛けて、
そっと名もない歌を口ずさんでいた。
心咲の運命は読者にお任せいたします