表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

種田ミミコ。

 左足を一歩踏み出す。

 上体はそのままに、銀色の剣を握った両腕で大きく振りかぶる。

 全身に沸々と みなぎる力を感じる。


 早くこい!


「うぉぉぉぉー」

 

 怒声と共に長短二本剣で向かってきたヤンの懐に入り込み、ひと振りではね飛ばした。

 ふっ飛んだヤンは、ピクピクと痙攣している。

 

 あ。手加減忘れたわ。

 

 ヤンの殺気がダダ漏れだったから、つい力が入っちゃったよ。

 大丈夫かな~。


「お見事です。ミミコ様」


 白髪の老人、ハクワイ僧侶が頭を下げる。

 倒れていたヤンが、苦痛に顔を歪めながらも、起き上がろうともがいている。


 あ~。無理しないで。

 しばらく安静にしてた方がいいと思うよ。

 剣には木枠を被せて、傷つけないようにはしてるんだけど、結構な衝撃を受けたはず。

 骨が折れてないといいけどね。


「ハ、ハクワイ様。もう一度、もう一度チャンスをください!」

 

「何度やろうがお前はミミコ様には敵わぬ。お前の役目はミミコ様をサポートすること、それが出来ないのならば、お前に用はない」


 そうなんです。ハクワイさん。

 ヤンの闘争心は、私にはウザイだけなんです。

 根性があるのも面倒くさい。

 早くヤンを別の部署に移動させてあげて。

 お互いの為にも。

 何度挑まれても同じこと。

 

 私には、強武将の力が授けられているのだから。

 


 高三の受験生だった私は、ある日、異世界に召喚された。

 気がつけば、セントリアという国で、タイの僧侶のような身なりをした、きらびやかな坊さん方に囲まれていた。

 セントリア国は僧侶が主席魔力者を務め、お飾りの王族よりも実質権限を握っていた。

 勇者認定された私はこの国で生きる為に、ハクワイさん指示の元、剣や弓の腕をみがいている。

 

 剣?弓?

 ンなもん、さわったことも無かったわよ。

 こちとら受験生。

 経済的事情で国立一本に絞ってたんだ。

 単語帳と参考書浸けの毎日よ!


「ミミコ様には、強武将様の加護がついておりますから」


 僧侶たちにそんなことを言われても、ピンとこなかった。

 ところが、あら不思議。

 剣を構えれば力がみなぎり、体が自然と動く。

 弓を射れば、狙った的のど真ん中。


 強武将様。どなたかは、存じあげませんが素晴らしいお力です。


 勇者としての力を実感した私は、それまでナンバーワン兵士だったヤンからの小さな嫌がらせを受けながら、粛々と勇者修行をこなしていった。

 

 受験勉強と一緒よ。

 成果が出れば嬉しいし。

 もっと頑張ろうと思うもの。


 更にパワーアップした能力を身に付けた私に、御披露目の機会がやって来た。


 戦が始まるのだ。

 ドミニク国に20000人が、出兵する。

 私は偵察隊の次の部隊に加わった。

 


 ドミニク国に向かう道すがら、馬車の中で寛いでいる。

 戦闘が始まるまで、私に用はない。

 四人乗りの馬車に私一人、優雅にお茶を飲んでいた。


 ガタンと馬車が揺れて、気が付くと、茶髪で軽薄そうな顔つきの男が座っている。


 声をあげようとする私の口許を、手のひらで塞がれた。


「ちょっと静かにしてねん。女の子に乱暴したくないのヨ~ン。キミってセントリアの勇者ちゃんでしょ。もしかして、日本人?」

 

 黒目黒髮のワタクシは、日本人ですよ。

 もしや、茶髪のチャラ男さんも日本人?


 頷く私に、茶髪はガッツポーズする。


「良かったー。超正統派女子で。オレっちも勇者なの。アステリアの勇者シンジ。ヨロチクビ~」


「……、種田ミミコです」


「ミミコちゃん、合戦初めて?やめといた方がイイよん。オレっちホホロ国に行ったんだけどさぁ。戦争って悲惨よー。血もドバーって流れて、ヒーヒー言いながら逃げ惑ってるのを追っかけて、腕も首も剣でチョンパよ。弓矢で火を放つから、丸焼けよー。見たことある?人間が燃えるとこ?ハンパないよ~」

 

 茶髪シンジが、軽薄な声で地獄絵図を語ってくる。


「ミミコちゃんは、何の為に戦うの?大体おかしくない?魔王討伐のはずが、何で近辺国同士で戦うの?へんだよヘン!あ。お茶チョーダイ」

 

 勝手にミミコのカップを奪い取り、ティーポットからお茶を継ぎ足しゴクゴクと飲む。

 そして、ニヘラと軽薄に笑う。


「アステリアから仕掛けた戦だと聞きましたが」


「そう。ウチの髭のおっさんが悪いの。あいつを凝らしめてやらないと戦は終わらない」


「停戦を求めに来られたのですよね。私にその権限はありませんよ。それに、正直あなたのことは信用しかねます。どうやってここに来たのかも不気味だし。ホホロ国の勇者は殺されたと聞いています」


 茶髪シンジは、目を丸くして、それからまたまたニヘラと笑った。


「ミミコちゃんって、スゲー頭良さそう」


 そんなこたぁ。どうでもいいわ。

 私は、こいつをどうするべきか考えていた。


「良かった。お利口さんなら話は早いじゃん。ウチの王様髭のおっさんは、ホホロ国の織物や繊維技術に目をつけたのね。それをせしめて、観光大国ドミニクを狙ったけど、ドミニク国に先手を打たれて、攻め込まれちゃった。ドミニク国やるよね~。今やアステリア国は戦場よ。で、髭のおっさんはセントリア国を巻き込むことにした。アステリア国とセントリア国で、挟み撃ちしてドミニク国を落とすと。ソーユー筋書きさ」


 それのどこがいけないのだろう。

 戦とは、そういうものだろう。

 大義名分をつくって、勝てば官軍だ。


「どうしてセントリア国を攻撃しなかったかワカル?セントリア国にうまみがないからよん。魔王城に行くなら、ホホロ国経由よりセントリア国経由の方が近道じゃん。ホホロ国の勇者を殺したのは、オレじゃないよ。オレが行った時にはもう暗殺されてた。髭のおっさんはちゃーんと、保険もかけてんのよ……あんた、本当に人殺せるの?」


 茶髪シンジが、真顔で聞く。

 

「オレは魔力がハンパなく多いの。それで召喚された。天地を揺るがす力だってイグ何とかの爺さんが言ってた。なら、転移出来ないかなと思って、訓練したのよん。どうよ!」


 イヤ。自慢気に言われてもねぇ。


「出来る子のオレがさぁ、髭のおっさんは何とかするから。ミミコちゃんは参戦しないように努力してくりりん?」


「ね。お願ぃ~!」と、軽薄そうな顔で頼まれる。

 内容はとてつもなくシリアスなのだが。


「これからドミニク国の勇者っちのトコにも行って来るからね」


「ドミニク国の勇者はどんな人なの?」


「う~ん。何でもすごい妖気で周りの人の息の根を止めるって言ってたよ。オレッチびびりっちよ」


 妖気で息の根をとめる?

 ヒェ~。剣や弓より単純に恐い気がする。


「とにかく、会えたのが戦の前で良かったよ。ホホロ国の勇者には間に合わなかったから、ね」


 茶髪シンジはちょっと目を伏せて。

 それから、ニヘラと笑った。


「……担がれて勇者になったけど、私は別に戦がしたいわけじゃないから」


 ウンウンと、茶髪が頷く。


「どうなるかは、わからないけど、善処してみるから」


 いきなりギュッと、抱き締められた。

 伸びた茶髪が頬を掠める。


「ありがとーミミコちゃん!オレ今からドミニク国の勇者のトコ行って来るよ。アレ?ミミコちゃん真っ赤だよ。ダイジョウヴイ?」


「う、うるさーい!サワルナボケー!」


 私のあげた大声に、ガタガタと動いていた馬車は急停止し、サッと扉が開けられた。

 

「大丈夫ですか?勇者様?」

「何かございましたか?」


 兵士たちが剣を構えている。

 茶髪シンジは、消えていた。


 





 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ