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CODE;2 Sympathetic detonation

 翌日の夕方、ヴァルカはいつものように他の捜査官があらかた引き上げるのを待って地下へ降りた。

 昨日、人影を見た場所へ赴く為――正確には監視カメラが人影を映し出した場所へ足を運ぶ為だ。

 昨日も行ったが、やはりというべきか当然というべきか、その人物はヴァルカがそこへ到着するまで待ってはいなかった。

 今日、改めて確認に降りたからと言って、会える保証もない。けれど、何らかの手がかりは残っているだろう。

 ヴァルカは、地下二階から三階へ降りる階段へ足を向けた。

 下り階段のすぐ手前には、立ち入り禁止の札をぶら下げたロープが張ってある。捜査官ではなく、研究所のスタッフが下げたもので、爆破事故以前から張ってあった。二階から三階へ降りる階段は皆そうだ。他の捜査官達はそれを律儀に守っているのか、はたまたまだ地上での作業に追われてこちらへは手が回り兼ねるのか、どちらにせよここへ侵入した者はまだいないらしい。

 ヴァルカは勿論、ロープを張っただけの立ち入り禁止の指示をバカ正直に守る気は更々なかった。

 昨日と同じように軽々と地を蹴ると、階段を一気に飛び降りる。

 音もなく三階へ降り立つと、すぐ左手へ身体をターンさせ、地下四階へ続く階段に足を乗せた。そこから下には特にロープのような障害物もない為、ヴァルカは普通に階段を下る。

 ただし、気配と足音はきちんと殺した上でだ。

 地下四階へ降りる途中で、身体を屈めて見える範囲を見回す。昨日、人影が映ったのはこの辺りの筈だ。

 周囲は明かりもなく薄暗い。というよりも、地下階であるが故に、外から漏れ入って来る明かりもないので真っ暗闇に近い。

 だが、ヴァルカの夜目の利き具合は半端ではなく、暗がりでも明かりを必要としなかった。見えるのだから、探す相手を警戒させるような明かりは寧ろ持たない方がいい。

 無造作に泳がせた視線の端で、不意に何かが動いた。気配もなく現れたそれは、人の頭部だった。思わず息を呑んだ微かな息遣いで、相手も自分に気付いたらしい。

 地下四階より更に下、地下五階から階段を上って来たのだろう。足音も立てず、今の今まで自分に気配を感じさせなかったのだから、ただ者ではない。

 階段の手摺りを挟んで、ヴァルカと相手は瞬時見つめ合った。

 こちらを見上げて自分を視界に捉え、自分同様唖然とするその容貌は、ひどく整っていた。男か女かと問われれば、即座には答え兼ねる顔立ちだ。

 しなやかに伸びっ放しの髪は肩先で自由に踊っており、形の良いやや切れ長気味の目元がいっぱいに見開かれている。流石に暗がりでは、髪や瞳の色までは判別出来ない。

 しかし、相手が戸惑っていたのは、ヴァルカが相手の容姿を軽く値踏みするように眺めた、ほんの一瞬だった。

 我に返ったヴァルカが、手摺りに手を掛け、そこを飛び越す。そうして相手の背後へ着地する合間に、相手は入れ違うように素早く階段を駆け上がって行った。

 舌打ちと共に追おうとするが、それより一瞬早く爆音が轟く。

「!」

 音に遅れること一拍、爆風がヴァルカの行く手を遮った。

 反射的に腕を交差させて頭を庇い、しゃがみ込む。辺りが元通り静まり返ってからそろりと立ち上がるが、既に相手の姿は影も形も残っていなかった。


***


 辺りはすっかり夜の帳が降りて、群青色の闇が落ちている。

 街灯がポツポツと灯り始めた人気(ひとけ)のない住宅街を、くたくたになった白衣の上にコートを羽織った、三十代半ばを過ぎた男がやや急ぎ足で歩いていた。

 白衣と同様にくたびれた感のあるブロンドが、頭の上で男の歩に合わせて揺れている。

 あの爆発事故があってから、碌なことがない。

 一人思考の隅でごちながら、男――研究所の裏スタッフの一員でもあるアンブローズ=ウェルズは、やり場のない苛立ちを持て余していた。

 彼はたまたま、その時は爆心から遠いエリアにいて、第一の爆発を逃れた。すぐに避難出来たものの、裏のことを何も知らない『表』スタッフの通報に依り、すぐにCUIOが地元へ押し掛けて来て、裏プロジェクトの首謀者だったアドルフ=ゴンサレス所長は姿を消した。

 早く他大陸へ逃げなければと思った裏関係者は、ウェルズだけではないだろう。しかし、所長の逃亡が原因で、CUIOレムエ支部は早々に国境を封鎖した。以降、国境の警備は殊更厳しくなっている。

 今や、逃亡の道は絶たれたと言っても過言ではない裏関係者に出来ることと言えば、『表』スタッフに混じって事後処理をする振りでCUIOの調査が及ぶ前に証拠を消して行くことくらいだ。だが、爆心付近には、常にレムエ支部から来た捜査官がいる。その辺りにもしも何か残っていたらと思うと、気が気ではない。

 最近では、いっそあの爆発で死んでいれば良かったとさえ思う。

 しかし、人間という生き物はやはり勝手なものだ。折角命を拾ったのだから、刑務所行きは御免蒙りたいと、誰もが思っているに違いない。

 ウェルズもご多分に漏れず、仲間には隠れて逃亡を考え始めていた。相談したところで下手をすれば共倒れになるだけなのは分かり切っている。何か、偽造パスポートでも都合してくれるところがないか、彼はここ数日研究所のパソコンを使って探りをいれていた。

 自宅の方が安全と言えば安全だが、万一のことがあった場合、足が着いてしまう。その点、研究所のものなら使うのは自分だけではないから、いざという時言い訳が立ち易い。

 そうして、証拠を抹消する作業は仲間とせっせと勤しみつつ、逃亡を準備しつつする数日が過ぎた。

 事故から、一週間と五日。

 早くここを逃げなければ、と思う一方で、冷静な自分が、「焦るな」と逸る自分を宥める。

 そう、焦っては駄目だ。急いてはコトを仕損じるという言葉もある。

 軽く深呼吸すると、伏せていた目を上げた。自宅は目と鼻の先に見えている。考え事をする内に、足は馴染んだ通勤ルートを勝手に辿ってウェルズを自宅へと導いていたらしい。

 錆びた金属音を立てて門扉を押し開けると、玄関前の石畳へ足を踏み入れる。玄関までの数メートルが、やけに遠く感じられた。

 疲れているのだろう、と思いながら鍵を開け、扉の取っ手を握る。

 扉を引き開けた瞬間、異変は起きた。

 何が起きたのか、ウェルズには解らなかった。

 背中に衝撃が走り、玄関内部の景色がグルリと回る。気付いた時には、玄関をあがったところで仰向けに引っ操り返っていた。

 状況を把握し兼ねて、結果寝そべったままでいると、玄関の扉が閉じ鍵が掛かる音がした。

 家主が戻ったばかりで、まだ薄暗かった玄関に明かりが(とも)される。

 仰向けに引っ繰り返ったままだったウェルズは、一瞬の眩しさに目を眇めた。一拍遅れて明るさに慣れた目が、侵入者の姿を捉える。

 ウェルズは肘を付いて起き上がりながら、呆然と相手を見上げた。

 形の良い、切れ上がった目元と、綺麗に通った鼻筋。その下にある、薄く引き締まった唇が、品良く逆卵形の輪郭に収まっている。極上の黒真珠を思わせる黒髪の毛先が、無造作に肩先で遊んでいた。

 どこかで見た覚えがある容貌だ。こんな整った容姿の人間は、一度見たらそうそう忘れるものではない。やや長く伸びた前髪の隙間に覗く、青色の瞳を見た瞬間、ウェルズの記憶の中で一致するものがあった。

「っ、お、前は!」

「……へーえ。俺を覚えててくれたか。光栄だな」

 思わず上げた声に、少年とも少女とも付かない張りのある声が、嘲るように答える。

「ま、俺の方じゃ、あんたとは初対面なんだけど」

 無駄な肉が一切付いていないその体躯は、十代半ばに見える少年の持つものにしてはかなり小柄で肩幅も華奢だ。しかし、少女と言い切るには、その年頃の少女特有の身体の丸みが、些か物足りないようにも見える。何処から調達したのか、その身はモスグリーンのショートジャケットと白いアンダーシャツ、黒のボトムと運動靴で覆われていた。

 この真冬に北の大陸最北の地ではやや軽装で、普通の人間には寒過ぎるだろう。

 けれど、面白そうに笑い声を立てた美貌の少年――そう、ウェルズの記憶が確かなら、相手はこう見えても間違いなく『少年』だ――は特段寒がっているようには見えなかった。

 ズボンのポケットへ突っ込んであった手が、おもむろに外気に晒される。黒いハーフ・ミットから剥き出しになった細い指先から手の甲、腕に掛けて、微かに青白い筋が這った気がして、ウェルズは無意識に臀部で後退(あとじさ)った。

 先刻まで嘲るような笑みが浮かんでいた少年の口元からは、既に笑いは消えていた。その無表情が、整った容姿と相俟って、ウェルズに底冷えるような恐怖を与える。

「た、すけてくれ……」

「助けてくれ?」

 無意識に口走った言葉を、嘲笑混じりの声音が鸚鵡返しに、殊更ゆっくりとした口調でなぞる。

「助けてくれって言ったのか、今。笑わせんなよ。どの口が今更そういうコト言う訳?」

 嘲笑混じりでいながら、その声が既に苛立っているのはウェルズにも理解出来た。――したくはなかったが。

「なら、あんたらが俺の身体にしたコトは何なんだよ。俺があんたらに一度だって頼んだか? こんなめちゃくちゃな――歩く凶器にして欲しい、なんてよ」

「だ、だが、そうでなければ、お前は死んでたんだぞ!」

 ウェルズは、自らの命を一秒でも引き延ばそうと、必死で言い募る。

「そ、そうだ……お前は、確か……人身売買組織(グリムフォード)から転売されて来たんだ。あの組織は臓器売買が主な商売だから、主要な臓器を全部掻き出した後の身体は放っておけば死んじまう。だが、お前は研究所にその身体を転売されたことで命拾いしたんだ! 感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない!」

 全く以て身勝手としか聞こえない言い分に、少年の深い青色の瞳が急速に醒めた。けれど、とにかく正しいことをしたのだと主張することで、少年の持つ断罪の刃から逃れようと藻掻(もが)くウェルズには、それに気付く余裕はない。

「解ったら出て行け! 断っておくが、ここには今、CUIOの連中がワンサカいる! 通報すればお前は捕獲されるんだぞ!」

「……へぇ?」

 少年の口角が、再び面白そうに上がる。

「ほ、本気だぞ! 今出て行くなら見逃してやる!」

 ガクガクとみっともなく震える手で、携帯端末を取り出そうと懐へ突っ込んだ手は、それより早く伸びてきた少年の手に苦もなく捕らえられる。

 掴み損ねた端末が、硬質な音を立てながら玄関に軽くバウンドして転がった。

「そんなコトして、困るのはあんたじゃねぇの? 仮に、通報して俺を突き出したとする。そうしたら、連中は俺に訊くぜ? 何故、あんたを殺そうとしたのかってな。俺には別に隠す理由はねぇから、正直に言わせて貰う。研究所が俺に何をしたのかをな」

「れ、連中が信じるものか……!!」

「さぁな。この身体の中身、CTでも撮ってぶち撒けてやれば、半分くらいは信じるんじゃねぇの。まあ、最終的に信じるか信じないかは連中が決めるコトだし、俺は信じて貰えなくても構うこっちゃない」

 そこで言葉を切った少年は、どこか自嘲めいた笑みを浮かべる。

 その笑みにどういう意味があるのかなど、ウェルズは知る由もない。知ろうとも思わなかった。

 ウェルズにとって重要なのは、今この場を生きて切り抜けられるかどうかだ。

「の、望みは何だ。金か? 謝罪か!?」

「謝罪?」

 少年が、また一つ嘲りを込めた笑いを漏らす。

「謝罪して貰ってこの身体がまともに戻るなら幾らでも謝罪して貰うけどな。無理だろ?」

 ウェルズは、唇を噛み締めて言葉を詰まらせる。

 確かに、少年を含めた実験体の身体を元通りにするのは、不可能に近い。出来てせいぜい、その身体の中身を『普通の人工臓器』に換えることくらいだろうか。

「それに、俺も今更望んじゃいない。第一、あんたらにもう一度身体を委ねるなんて冗談じゃねぇ」

 嘲笑混じりだった声音が、急激に冷えた。感情が一切()げ落ち、それでいて投げ出すような色の口調に、ウェルズはいよいよ身の危険を感じざるをえない。

 出来ることなら、少年を押し退()けて逃げ出したい。けれど、ウェルズのそれよりも(はる)かに細く見えるその腕の何処にそんな力があるのか、捕らえられた腕はビクともしなかった。

「俺の望みは、一つだけだ」

 遠い雷鳴のような乾いた音を立てて、少年の腕に青白い光が走る。

「てめぇらと決着を着けて自由になるコトだよ」

 この能力でな、と付け加えられた台詞が、聞こえたのかどうか。

 目の前が白く弾ける。

 轟いた爆音を最期に、ウェルズの意識は永久に途切れた。


***


 細く長い指先から、赤い筋が流れて落ちる。

 身体の約四分の三が吹き飛んで左足だけになったウェルズの遺体を、エマヌエルは冷然と見下ろした。

 罪悪感など、微塵も覚えない。当然の報いだ。

 他でもない彼らに与えられた能力で、彼らを殺す。かなり嫌味が利いていて、いい気味だと思う。そのことに、微かに胸の()く思いはするけれど、達成感もなかった。

 胸の内にあるのは、焦燥にも似た虚しさだけだ。

 それは、今自分の肉体の中に埋め込まれて存在している兵器の空虚さかも知れない。

 けれど、どんなに虚しくても、止まる気は毛頭なかった。

 全ての元凶を消し去る、その時までは。

 伏せていた視線を、ゆっくりと上げる。どことも知れない虚空を見据えた深い青色は、冷たく冴えた(くら)い光を宿していた。

(……必ず、ケリは着ける)

 エマヌエルは、誰にもなく決然と胸の内で呟く。


 頼みもしないのに、お前らに与えられたこの能力で、――全てに。


***


「……これじゃ、また身元を割り出すところから始めないとだな」

 現場に足を運んだウィルヘルムは、殆ど左足だけになった遺体を見下ろして溜息を吐いた。

「でも、ここはアンブローズ=ウェルズの自宅ですし、本人で間違いないでしょう」

 共に来た検死官が同じように左足だけとなった遺体を見下ろしながら言う。

 通報があったのは今朝のこと。

 ウェルズ邸の近所に住まう、研究所スタッフからだった。

 三日前の午後五時半頃、すぐ近くで何かが爆発するような音がした。そっと家の内から外を窺ったが、特に変わった様子はなかったように見えたので、通報者は、わざわざウェルズ宅まで確認に行くことはしなかったという。

 しかし、それから三日間、ウェルズが無断で欠勤した。

 携帯端末に掛けても応答がなく、近所だったこともあって様子を見に来たところ、玄関に足が転がっている状態だったらしい。

「詳しいことは検死を待ってからだが……死亡したのはその三日前の退社から後と思って間違いねぇな」

「はい」

 但し、これが今扱っている爆破事故と事故跡で起きていると思われる連続殺人と関連があるかどうかは別の話だ。

「でも、やり口が似過ぎてますよ」

「例のダイイング・メッセージは?」

「……それはありません」

 詰まるように事実を告げる検死官に、そうか、と呟いてウィルヘルムはウェルズ邸の玄関を出た。

 爆破事故に関する調べも、遅々として進んでいない。

 こちらは地元の警察に任せても良いのではないだろうか。関連があるのが判明してからでもCUIOが入るのは遅くはない。

 しかし、総指揮はそれこそウィルヘルムの管轄外だ。

 その辺の判断はアスラーに任せよう。そう思いながら、ウィルヘルムはここまで乗ってきた車へ足を向けた。


***


 その後数日間、ウェルズが住んでいた研究所所有の住宅街型の寮で、研究所のスタッフが殺害される事件が相次いだ。しかも驚くべきことに、被害者宅からは、裏のプロジェクトに関する証拠が腐るほど発見された。

 狙いは口封じかと思われたが、それにしては研究所にとっての物的証拠が残されているのが妙だった。

 そして、爆心付近での殺人も、数が減ったとは言え相変わらず続いていた。しかし、こちらの連続殺人と、寮で続く殺人の接点があるのかないのかまでははっきりしない。

 相違点は、例のダイイング・メッセージがあるかないかだ。住宅街で見つかる遺体の傍には、ついぞメッセージは発見されずじまいだったが、遺体の状態は酷似していた。

 結局、そちらも地元警察ではなくCUIO・レムエ支部の管轄下に置かれることになり、総指揮官であるアスラーは『白髪が増えそうだ』と嘆いていた。

 それを他人事のように横目で見ながら、ウィルヘルムはウィルヘルムで増え続ける遺体に頭を抱えていた。

 事態に動きが見られたのは、そんなある日のことだった。

 破壊された監視室のデータの復元に取り組んでいた科学捜査班が、ようやく朗報を持ってアスラーの下へ駆け付けた。

 その報せをアスラーに聞いたウィルヘルムも、息抜きを兼ねて復元データの再生に立ち会うことになった。


「しっかし、よくまあ復元出来たモンだな。あれだけめちゃくちゃになってたのに」

「データバンクに転送されたデータを偶然見付けただけだ。復元とは呼べんかも知れん」

「よく言うぜ。頼みの綱もないみたいな顔してたクセに」

 ウィルヘルムが揶揄混じりに言うと、アスラーは無言で鼻を鳴らした。

 地元警察署の映写室を借りて検証は行われた。スクリーンに映し出されたのは、事故当時の爆心付近の様子だった。

 捜査官が再生ボタンを押すと、荒い画像の中に現れたのは、廊下のようだった。一拍の後に、ドアが吹き飛んで画面が瞬く間に白くなる。もうもうと立ち込める煙が一瞬で自分達に迫って来るような錯覚の後には、衝撃でカメラが壊れたのか、ノイズしか映らなかった。

 他のカメラのデータもチェックしたが、皆似たような有様だった。

 辛うじて有効な手掛かりと呼べそうなのは、爆心となった手術室内の映像だった。

 手術台に乗せられた患者らしき人物に、医師が手錠のようなものを掛けようとした時、患者が逆にその手を握る。次の瞬間起こったことは、瞬時には理解出来なかった。

 患者の手元が青白く光った、と思ったら爆発が起き、他のカメラ同様ノイズだけが残されたのだ。

「……何だ、今の」

「おい、もう一度巻き戻して、スロー再生してくれ」

「はい」

 指示された捜査官が、巻き戻し、スロー再生の操作を行うが、やはり詳細に目にしても理解し難い光景だった。

 ウィルヘルムやアスラーだけでなく、その場にいた全員の感想だっただろう。

 患者の腕に青白い筋が走ったかと思うと、手元から白い閃光が溢れて爆発する。

「……何なんだ、あれは……」

「解らん。解らんが……」

 アスラーも呻くように呟いた。しかし、流石に捜査官をやって長いだけあって、自分を取り戻すのもその場にいた誰よりも早かった。

「……この映像が手掛かりであることに間違いはない。これが撮影された場所と、ここに関する情報を徹底的に洗うんだ」

 新たに飛ばされた指示に、その場にいた捜査官達は半ば衝撃から立ち直れないまま、反射的に了解の返事を斉唱した。


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