表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/40

CODE;13 To the enemy's line

 その男のバイクは、三人乗りが可能かと思える程縦に長かった。実際、後ろに乗るよう指示された時には、乗れるかどうか危ぶんだものだが、ヴァルカがエマヌエルを身体の前に抱き抱えて、男の腰にしっかり掴まってもまだ多少の余裕があった程だ。

 フルスピードで走るバイクから放り出されないように、片手でエマヌエルの身体を抱え、空いた手で男の腰にしがみつくこと三十分程走ったところで、男はバイクを停止させた。

 既に、夕暮れ時で、周囲には夜の帳が降り始めている。

 そこは、オリエダ州の外れにある廃村だった。フィアスティック・リベルが起きる前から、人は住んでいなかったらしい。

 アズナヴール半島はオリエダ州の一部だが、事実上はゴンサレスの所有地だ。アズナヴール半島を除いた州内は、表面上は北の大陸<ユスティディア>内で唯一の中立州ということになっているものの、実際はフィアスティック・リベル以前から無法地帯だった。

 国を管理する筈の政府がなくなったのがいつだか定かではなく、ユスティディア全土に巣くうマフィアや武装組織、更にはそこに軍事国家が介入して戦場と化している場所も少なくない。

「今日はここに泊まる。目的地への出発は明日だ」

 そう簡潔に言った男は、意識のないエマヌエルを背負ったヴァルカを(いざな)って、その村の廃屋の一つに踏み込んだ。(あば)ら屋と言い換えてもよさそうなその家は、家としての形は保っているものの、残っているのは骨組みと、申し訳程度に貼り付けられている壁代わりの板だけだ。おまけに扉が既にない。住宅としての用は成さなくなっているのは明らかだった。

「そいつ、その辺に寝かせろ。応急手当くらいはしてやる」

「……できるの」

 訝るように問うヴァルカに、男はダーク・ブルー・グレイの瞳を蔑むように細めて言った。

「スィンセティックには異常な自己治癒能力があるだろ。本来は、フツーの人間で言うところの『応急処置』で充分なんだよ。その為の遺伝子改造手術じゃねぇの?」

(知りもしないクセに)

 脳内でそう返すが、ヴァルカはそれを口には出さなかった。

 確かに、理屈上は男の言う通りだった。しかし、適切な治療を受けた方が治りが早いのは、普通の人間と同じなのだ。例えば、今回のような深い切り傷をそのまま包帯で巻いたとしても、止血しないよりはマシ程度のものだ。それに、痛みを感じない訳でもない。

「その程度の『応急処置』なら、それこそあたしにだってできるわよ。どいて。何か救急道具は置いてあるんでしょうね」

 言いながら、ヴァルカは室内に視線を走らせる。

 人が住まなくなって久しいと推測されるその室内には、一応家具はある。しかし、置かれた机や椅子は、体重を掛けたが最後、呆気なく崩れ去りそうに見えた。

 結局、本当に男曰くの『その辺』の床に、申し訳程度に埃を払ってエマヌエルを横たえる間に、男は無言で一度外へ出ると、やや大きめの救急箱を手に戻って来た。バイクの座席の下にでも入れてあったのだろう。

「水があったら欲しいんだけど」

「ンなゼータク品、あると思うか? 飲む分だけで精一杯だよ。第一、スィンセティックなんて、感染症の心配しなくていい奴ばっかなんだろ?」

「羨ましかったら、あんたも改造手術受けたらどうなの。内輪でも実験体志願は歓迎されるって聞いたわ」

 ふん、と鼻を鳴らして言うと、男は小さな舌打ちと共に、火の入っていない暖炉の傍へ腰を下ろした。

 黙り込む男に構わず、ヴァルカはエマヌエルの身体を横向きにした。うっかりまた吐血でもして気管が塞がれてしまっては、いくら改造体でも窒息死してしまう。

 男の持ってきた救急箱を開けると、一般的な道具は揃っているようだった。

 切り傷に布状の絆創膏を貼り、包帯で固定した後、改めて胸部の傷を確認する。丸く抉られたように見える傷跡は、弾痕としか思えない。背中にも同じように弾痕があるところを見ると、貫通しているようだ。

「下手くそね」

 舌打ち混じりに思わず呟くと、それまで黙っていた男が口を開いた。

「何だって?」

「射撃に自信がないなら、下手に手出しすんなって言ったのよ。これじゃ、肺が傷ついてるかも知れないわ」

 『かも知れない』などという生易しいものではない。多分、確実に穴が開いているだろう。けれど、ヴァルカはそれを明確に頭の中で形にしたくなかった。

 ガーゼを傷口に当てて、今度は包帯でしっかりと縛り上げている前で、男は「はっ」と嘲るように息を吐いた。

「肺が片っぽダメになったからって、スィンセティックが簡単にくたばるかよ。現にそいつはまだ息をしてるだろ」

「うるさい。一体、何を使ったのよ。まさか、マグネタイン弾じゃないでしょうね」

 傷口を避けて包帯の先端を結んでしまえば、その場でヴァルカにできることはもうない。手当を終えた実感はないまま、ヴァルカはついさっきまでエマヌエルの身体に巻いていたジャケットを彼の身体に掛けると、彼の頭を自分の膝へ乗せた。

「あんな状態になった奴に、マグネタイン弾なんかぶち込んでみろ。アナフィラキシー・ショック起こして、半径一キロ圏内にいる奴、全員お陀仏だぜ」

「アナフィラキシー・ショック?」

 意外にも返って来た答えに顔を上げると、男は元々ごつい顔を更に顰めるようにしてヴァルカを見ていた。

「アナフィラキシー・ショックも知らねぇのか」

 言いながら、男は煙草の箱を取り出し、火を付けようとしている。

「知ってるわよ! 重度のアレルギーで死ぬこともあるアレでしょ! それと怪我人がいるトコで煙草なんか吸わないでよ、無神経ね!」

 男は再度顔を顰めたが、不服そうにしながらもライターをしまった。火の付いていない煙草はくわえたまま、男は続ける。

「フツーの人間で言うところのアナフィラキシーは確かにそうだ。けど、そいつの場合はちょいと違う」

「どういう意味よ。大体、あんたが彼の何を知ってるって言うのよ」

「さてね。そいつがどういう奴かなんてのは確かに知らねぇさ。ただ、拒絶反応のコトなら少なくともお前よりは詳しい」

「拒絶……反応?」

 今度は、ヴァルカが眉根を寄せる番だった。鸚鵡返しに問うと、男は面白そうに唇の端を吊り上げて言葉を継ぐ。

「そいつはさっき、所定外の場所からフォトン・エネルギーを撒き散らして暴れ回ったろ。そのコトさ」

「何で、そんなコト……」

「知ってるのかって? 最初にそいつが暴走した時から、原因も知ってるぜ。コイツのおかげでな」

 コイツ、と男が示したのは、いつの間にか男の肩に乗っていたネズミだった。恐らく、フィアスティックだろう。

「一緒にいたカラスとライオンもフィアスティックよね……でも今回フィアスティックは、人間全てに対して反乱を起こした筈よ。何故、あんたは彼らを味方に付けていられるの」

「これさ」

 男が胸ポケットから取り出し、投げ寄越したものを反射で受け取って確認したヴァルカは、一瞬目を瞠った。

 ガラスの小瓶に入った、くすんだ緑色をした液体――それは、昨夜、エマヌエルから頼まれて、地下の研究室から持ち出した薬品と全く同じものに見えた。

「マグネタインから抽出した洗脳薬だ。但し、それも万能じゃない。あくまで脳内ICチップの改良が済むまでのツナギ程度の代物だな」

「でも、これは」

 エマヌエルも投与され、結果彼は能力を暴走させた。このままでは役には立つまい。

 ヴァルカの言いたいことを察したのか、男は肩を竦めた。

「完成前は、生体に投与するとかなり厄介な現象が起きてた。ま、主にそこの坊やがやらかした暴走……俺達は拒絶反応って呼んでる」

 ヴァルカは無言で先を促した。

「実験は、リッケンバッカーの軍事訓練施設で行われた。ゴーレムに投与するだけなら何も問題なかった筈の薬は、生体……つまり、フィアスティックやヒューマノティックに投与したら、激しい拒絶反応を起こしてな。暴走した連中を止めるのに、最初はマグネタイン弾をぶち込んでみた。そうしたら、そいつは更に能力を暴走させて破裂しやがったんだ」

 後に数体、実験を繰り返したが結果は同じだった、と男は続ける。

「アナフィラキシーの被害想定はあくまでも予想だ。外で実験したコトがなかったモンでな。更に改良を続けて、暴走を抑える為の薬と、暴走しないように加工した洗脳薬の開発は同時進行された。何とか完成を見たところで、この事態さ」

「じゃあ、さっきエマに向けて撃ったのは、完成した洗脳薬ってコト?」

 だとしたら、目を覚ましたら、やはり彼は彼でなくなっているかも知れない。

 彼が目を覚ました途端、早くも彼を撃ち殺さなければならないのか、という思いが脳裏をよぎる。

「おいおい、何か物騒なコト考えてねぇか? 言ったろ。あくまで洗脳薬(コイツ)はICチップ改良の前段階のツナギだってよ」

「どういう意味?」

「所詮、薬は薬ってコトさ。いつか効果が切れる。コイツらが俺にすり寄ってんのも今だけさ」

 そう言いながら、男は無表情に、自分の肩先に乗ったネズミの鼻先を撫でた。

「それに、その坊やに撃ち込んだのは、あくまで暴走を鎮める為の弾だよ。フツーの状態のマグネタインを揮発性液体に加工して、拒絶反応が起きないように特殊加工したマグネタイン弾をコーティングしたモンだ。そうするコトによって、フォトン・エネルギーを押し退けて、標的の身体に到達するけど、その頃には外側のマグネタインは蒸発してるから、アナフィラキシーが起きる心配もないってワケ」

「……あんたの目的は、結局何なの」

 ヴァルカは、睨め上げるようにして男を見据える。

「もし、あたし達を殺すのが目的なら、こんなまどろっこしい真似はしないで、心臓をぶち抜いて終わりにしてる筈よね。けど、あんたは……無事とは言い難いけど、エマに止めを刺すコトはしなかった。あたしにしたってそうよ。彼を連れ去るのが目的なら……あの時なら、あたしはあんたに気付いてなかったから、あたしを殺すのも簡単だったでしょ」

「まあ、上の命令だから、とだけ言っとくよ」

「上?」

「これ以上は言わない。これでも情報与えすぎてるくらいだからな」

「よくまあ、ベラベラ喋ってくれちゃったわよね。疑問がある程度解けて、こっちは助かったけど」

「知ったところで、今のお前には何もできないからさ。違うか?」

 ヴァルカは暫し沈黙を返すと、「それもそうね」と呟きながら、さっき男から投げ寄越されたマグネタイン抽出液のアンプルを明後日の方向へ叩き付けるように投げた。ガシャン、とアンプルの割れる音と、男の悲鳴が交錯する。

「お前っ、何ちゅーコトしてくれるワケっっ!?」

「うっかりそんな大事なモノ、あたしに渡す方が悪いのよ。あんな怪しげなクスリ、一時的なモノでもあんたに返したらまた悪用されるんでしょうし、一個でも減らすに越したコトないわ」

 男が悔しげに歯軋りするのを見て、ヴァルカは少しだけ溜飲を下げた。

 だが、大方は男の言う通りだった。手品の種が分かったからと言って、今の自分にできることはない。エマヌエルの、傷の手当てに関してもだ。だからこそ、諾々とこの男の言うなりになっている。

 エマヌエルの身体の心配さえなければ、誰がスィンセティック研究関係者の言いなりになどなるものか。いや、そもそも、おめおめと相手を生かしておきはしないだろう。さっさと相手の心臓に弾丸を叩き込んで終わりにしている。

 しかし、そうするにはエマヌエルが意識不明でいることと、周囲のフィアスティックが枷になっていた。もう一つの問題として、足もない。言い方は悪いが、ディルクがいなくなって、移動方法がなくなってしまったのだ。

 エマヌエルさえ万全の状態なら、取り敢えずレムエまでの道のりを踏破することはやぶさかではないが。

 エマヌエルさえ、普段通りなら。結局、そこに尽きるのだ、と思うと何だかおかしかった。

 視線を自分の膝の上に落として、そっと溜息を吐く。

 そこを枕代わりに横になっているエマヌエルは、相変わらず浅い呼吸を繰り返しながら、ぐったりと目を閉じたままだ。先刻、男の言った通り、これが普通の人間なら、とっくにあの世とこの世の境辺りに踏み込んでいる頃合いだが、遺伝子レベルから改造されまくった身体はダテではない。

 けれども、元々整った顔立ちの所為か、血液を多量に失って青白くなった横顔は、今にもその浅い息さえ止めてしまうのではないかと思える程儚く見えた。

「……なあ。興味本位で、俺も一つ訊いてもいいか?」

 不意に声が掛かって目を上げると、アンプル破壊の衝撃から若干立ち直ったのか、男が気怠げな顔でこちらを見ている。どうやら彼には、その気怠げな顔がデフォルトらしい。

「どうぞ。あんたが色々喋ったからって、こっちも答えなきゃいけない義務なんかないけど」

 投げ出すように言うと、男は苦笑して肩を竦める。

「答えたくなきゃ無理にとは言わない。けど、ちょっと気になったんでな。お前は何で俺から逃げない?」

「どういう意味?」

「推測の根拠は省くけど、お前も多分ヒューマノティックだろ? なら、俺から逃げるくらいはできる筈だ。お前一人だけならな」

 ヴァルカは、覚えず言葉に詰まった。

「多分お前は研究所をよく思ってない。あわよくば復讐の一つや二つ、企んでそうな感じだしな。だったら、この状況は最悪な筈だ。何が何でも俺らから逃げたいと思ってるだろ。その坊やを放り出せば簡単な筈なのに、切り捨てないのは何でだ?」

 どうしてそう、図星をズバズバと突いて来るのか、この男は。そう思うと、男を見つめ返す視線には自然殺気がこもる。

「そう刺し殺せそうな目で見るなよ。分かった。もう訊かない」

 男は、もう一つ肩を竦めると、降参を示すように両手を上げて視線を反らせた。

 だが、ヴァルカは答える必要のなくなった男の問い――その中で投げ掛けられた言葉を、脳内で反芻していた。

『その坊やを放り出せば簡単に逃げられるのに、そうしないのは何でだ?』

(何で……?)

 言われてみれば、何故だろうと思う。

 前にも、エマヌエルのことで、こんな風に自問したことがあった。そう、最初に出会った時、重傷を負った彼が不当に拘束されそうになって姿を眩ました、あの時だ。

 あの時も、何故こんなに必死になって彼を捜し回っているのかと自問したが、明確な答えは出なかった。

 ただ、これだけは言える。

 エマヌエルを今ここで放り出したら、自分はきっと一生後悔するだろう。けれども、それだけだろうか。

(……分からない)

 後悔以上の『何か』がある気がするのに、胸に落ちるのは、結局この言葉しかない。

 彼から離れ難いと思うのも、正直な気持ちだ。仮に、彼がこういう状態に陥らなかったとしても、今別れよう、ということになったらひどく寂しいだろう。けれど、この状態の彼を放置して一人逃げ出すことは、寂しいなどという言葉では済まされない。考えただけで胃が捩れそうだ。

 視線は、いつしか再び彼の横顔に落ちていた。

 整いすぎた顔に掛かった黒髪を、そっと掻き上げてやる。彼は微かに呻いたが、すぐに苦しげな呼吸と共に安らかとは言えない夢の中へ戻ったようだった。

 無心にその横顔を眺めていると、不意に鼻の奥がキュッと締まるように痛んだ。涙が出る前触れだと自覚する間もなく、溢れた透明の滴は、パタリと乾いた音を立てて彼の頬に落ちる。

 男が気付いたかどうかは知らない。気にする余裕もなかった。

(やだ……何で)

 堪えようと思えば思うほど、涙は後から後から溢れ出て頬を濡らす。

 既に陽が落ちて、室内は薄暗くなっているのが、不幸中の幸いだ。派手に声を上げなければ、男に泣いていることは気付かれないだろうが、止まらない涙には戸惑うしかない。

(あたしは、ただ)

 エマヌエルがこのまま死んでしまったら、と思うと胸の奥が痛かった。もしくは、ここで別れて、もう二度と逢えないとしたら。そう考えるだけで切なくて、胸が灼けるように息苦しくて――

(あたし、は)

 この感情が、何なのかは知らない。

 ただ、彼を切り捨てられない。自分だけ助かることなど、とても考えられない。

 この判断で、たとえ自分の命を落とすことになろうとも、後悔しながら生きるよりは遙かにマシだ。

 そう思いながら、涙の伝った頬を擦り上げるようにして拭うと、改めて男の方を盗み見る。男は、もうヴァルカの方へは目もくれず、いつの間にか室内へ入って来ていたライオンの背に凭れてうたた寝をしていた。

(呑気なモンね)

 すすり上げるように鼻を鳴らすと、ヴァルカは再びエマヌエルの方へ視線を落とす。

 あんな男、エマヌエルの命を救う為の可能性がなければ、生かしておかないのに。そう思いながら、そっと彼の首の下へ腕を差し入れて、上半身を抱え込むようにして抱き締める。

 そうしても、エマヌエルが目を覚ます気配はなかった。

(……あたしが、守るから)

 それだけを胸の内で呟いて、彼の額に頬をすり寄せる。

 サイラスのことも、報復も、今はどこか遠い出来事のような気がした。


***


 翌朝、男は自分だけ申し訳程度の朝食を口にして、身支度を整えると、早々に仮宿を発つべく、ヴァルカを促した。

 未だ意識が戻る様子のないエマヌエルを昨日と同じように身体の前に抱え、男の背に掴まり、バイクに揺られること半日と少し。グレアム州を横断し、レムエとの州境まで来ると、男は手にしていたライフルで、州境を警戒していた巨大鳥型フィアスティック二体を撃ち落とした。

 周辺にいたフィアスティック達は、男に従っていたカラスとライオンが牽制、あるいは始末したようだった。

 撃ち落としたと言っても、例によって洗脳の為の改造マグネタイン弾を使ったので、撃ち落とされた巨大鳥は程なく息を吹き返し、男に頭を垂れた。

 二体の内、一体にはネズミとカラスを従えた男とヴァルカとエマヌエルが乗り、もう一体は、足の先に男のバイクを括り付けて重たげに飛ぶ羽目になった。

 巨大鳥の背に乗り、陽の落ちる大分前の時間帯にレムエ州の南端まで来て、男は巨大鳥に降下を命じた。その日は、ユスティディア内で野宿するのだという。

 ヴァルカとしては、〇・一秒でも早くエマヌエルをまともに手当してやりたかった。せめてウィルヘルムの行方の手懸かりでも分かれば、と(勿論それは口には出さずに)一度レムエ支部に立ち寄ることを提案したが、案の定却下された。男の立場としては、当然の反応だったろう。

「じゃあ、せめていい加減目的地がどこなのか教えてよ。場所によっては、今ユスティディアを出ても陽が落ちる前に着けるんじゃないの?」

 巨大鳥から、エマヌエルを背負って降りると、ヴァルカは薪の準備をしている男に問い掛けた。

 男は、一瞬眉根を寄せた。適当に誤魔化すことを考えているようだったが、どうやらこの男は、その場逃れであっても嘘を考えることが苦手らしい。たっぷり一分間沈黙した後、不承不承といった様子で口を開いた。

「……着けば分かるコトだから言うけどな」

 結局、こんな前置きをして男が告げた最終目的地は、リーフ・アイランドと呼ばれている孤島群だった。今いるサルダーリという地域からは、直線距離にして約二千百五十五・三キロ離れた海上にある。

 南島国<サトヴァン>の北東に位置する場所で、男の『上司』なる男は、フィアスティックの乱を避けて、そこにいるという。

「ただ、そこに行くにはちょいと準備が要るから、一旦ヒルトラウト島のアルヤを経由する。最終的にリーフ・アイランドの中心島の、ナンナ=リーフまでは後二日掛かる計算だ」

「そんなに待てない」

 言うや、ヴァルカは銃を抜いて男に向けた。

「何悠長なコト言ってるの? エマがこうなって、もう一日経とうとしてるのよ。あんた、正気? あんたが助けの宛があるって偉そうに大見栄切ったから、大人しくついて来てやったのよ」

「おいおい、落ち着けよ。ナンナ=リーフに着けば、確実に坊やは助かるんだからさ」

 男は、半ばホールドアップの姿勢を取りながら後退りするが、ヴァルカは容赦しなかった。

「あんた、専門は?」

「は?」

「研究所の人間なんでしょ? だったら、専門の研究分野は何なの。それとも、単なる護衛?」

「う……」

 男は、ダーク・ブルー・グレイの瞳を落ち着きなくウロウロと泳がせる。即答しない男に苛立ったヴァルカは、男の足下に向けて引き金を絞った。

 瞬間、男の周囲にいたフィアスティック――巨大鳥が二羽と、ライオン、カラス、ネズミが色めき立って男を庇うように立ちはだかり、ヴァルカを威嚇するように睨み据えた。

 しかし、ヴァルカはこの程度で動じるような可愛らしい少女ではない。ここまで大人しくしていたのは、意識のないエマヌエルを抱えてこのフィアスティック達を突破できる自信がなかったからだ。だが、これ以上時間が掛かれば、本当に彼の命に関わる。

 スィンセティックがいくら失血死しないようにできていると言っても、下手な所で血が固まれば、血栓だってできるのだ。

(もう、なりふり構ってられない)

 最悪、自分がどこか負傷してでもウィルヘルムの行方を突き止め、エマヌエルを診て貰わなければ。

 半ば腹を括ると、エマヌエルを片手でしっかりと背負い直しながら、前触れなくライオンの頭部へ向けて発砲した。不意打ちだったからか、まともに食らったライオンは、呻き声一つ立てずに倒れ伏し、息絶えた。

 残ったフィアスティック達はますますいきり立ち、一斉にヴァルカに向かって襲い掛かろうとした。

「待て!」

 だが、男の声がそれを止める。フィアスティック達は、男に向かって頭を垂れ、束の間の主を振り返った。

「しかし、マスター」

 この場にいるフィアスティックを代表するように言ったのは、カラスだ。今しも「抹殺の許可を!」と言い出しそうな顔をしたカラスに向かって、男は目線でそれを押し留める。

「俺達の目的はコイツらの命を奪うコトじゃない」

 下がれと言うように手を振ると、フィアスティック達は渋々後ろへ下がった。それを確認すると、男はヴァルカに視線を向けて、言葉を継いだ。

「そして、お前の目的も俺を殺すコトじゃない。だろ?」

「少なくとも、今のところはよ。役に立たないのが分かればすぐに殺すわ」

「そう(とんが)るなよ。分かった。正直言えば、俺は医療に関しちゃ全くのシロートだ。お前がやった程度の応急処置は、職業柄覚えざるを得なかったんでできるけどな」

「研究所の人間じゃないの?」

 それにしては、拒絶反応についてはやたら詳しく解説していた。ヴァルカがそう考えたのを察したように、男は続ける。

「この目で見たことの説明くらいはできるさ。ただ、俺の本業は傭兵だ。今の上司とは元々幼なじみでな。オリエダのど真ん中でサバイバルしてから、奴のトコで雇われて施設警護の仕事してた。フィアスティックが蜂起する前は、ずっと奴の後くっついてたんで、スィンセティックの研究状況にも詳しくなっただけだ。今はこんな状態で手が足りねぇんで、俺がその坊やの回収を言いつかったって訳さ」

「じゃあ、金銭次第では寝返るってコト?」

「残念ながらそーいう訳にはいかない。言ったろ? 奴とは幼なじみだって」

 口調は相変わらずおどけた様子ながら、そのダーク・ブルー・グレイの瞳は真剣そのものだった。

「分かった。じゃあ、今日中にナンナ=リーフまで行って。それくらいの譲歩はできるでしょ」

「それは無理だ。さっきも言ったケド、ナンナ=リーフに行く前にどうしても必要な作業がある」

「納得できなきゃここにいる全員を殺すわ。早く出発して。必要な作業とやらは、道々伺うわ」

 ヴァルカは、男に向けたままの銃口を僅かにしゃくって、巨大鳥達の方を示す。

 男が尚も躊躇ったのは数瞬の間だった。諦めたように肩を竦めると、無言のまま踵を返し、フィアスティック達を促した。

 サルダーリから男の言う中継地・ヒルトラウト島のアルヤまでは、約二千四百九十九・九キロ。飛行機を使えば、二時間前後のフライトで済む距離だ。

 しかし、スィンセティックならともかく、壁も天井もない場所で、ジェット機並の速度で飛ばれたら、恐らくただの人間である男は持たないだろう。かと言って、今まで通りの乗用車並の速度で行ったら、確実に二日は掛かる。

「真っ直ぐナンナ=リーフへ行けない理由は何?」

 舞い上がった空中で早速尋問する。男も、もう答えを誤魔化そうとはしなかった。

「あそこは、島群を形成している土地全部が、天然のマグネタインでできてる」

「何ですって?」

 ヴァルカは、形の良い眉を顰める。

「お前なら意味は分かるだろ。マグネタインは、スィンセティックの体内にあるフォトン・エネルギー製造装置を狂わせる特殊な磁場を発する。だから、普通ならスィンセティックは近付けない。こんな事態は想定してなかったけど、あそこは世界中で一番安全な隠れ場所って訳さ」

「じゃあ、『必要な作業』って言うのは、具体的には何をするワケ?」

「一時的に、マグネタインの磁場を遮断する特殊装備の為の薬品がある。主にヘリコプターとかジェット機の機体に吹き付けて使うんだが、その在庫の一部が、今は俺らのお得意さんのマフィアの本拠地に置いてある」

「それが、ヒルトラウト島のアルヤって訳ね」

「そういうこった。納得して貰えたか?」

「納得はしたけど、チンタラするのに同意はできない。もうこの子の容態は一刻を争うわ。この辺はどこかと通話が可能なのかしら?」

 ヴァルカ達の現在地は、ユスティディアから十キロ程離れた海上だ。

「どうだ?」

 男が誰にともなく訊ねると、カラスが口を開いた。

「只今、反乱軍の勢力は、北の大陸<ユスティディア>、西の大陸<ギゼレ・エレ・マグリブ>とその間にあるオッティールド諸島、ラークリンデ島、ジークリンデ島、ギルモア島を支配下に納めました。また、東の大陸<トスオリア>のロスヴィータ公国と、ロベルティーネ公国の半分も制圧完了しております。その地域では既に通話は不可能です。ここからだと、後千キロ程進んだ場所なら、今のところ通話できる筈です」

「……だそうだ」

 もうそんなにフィアスティックの浸食が進んでいたのか、と、ヴァルカは鋭く舌打ちした。これでは、既にCUIO本部も放棄されているだろう。アスラーやウィルヘルムがどこへ避難したかの見当も付かない。

 しかし、ここで癇癪を起こしてもどうにもならない。

「なら、もっとスピード上げて。十分以内に通話可能地域にまで到達するの。そしたらそのマフィア組織に連絡取って、ジェット機で迎えに来て貰って」

「十分以内って……それこそ無茶だな。時速五百キロだぜ?」

「普通の人間のあんたにはキツいかしら? でも、あたし達は大丈夫だから、知ったこっちゃないわ」

「お前、自分の立場、分かってんのか?」

 若干苛立ったのか、男が威嚇するように言う。だが、ヴァルカは構わなかった。

「分かってないのは、あんたの方よ。このままだと、この子が死ぬ。あたしはそれを見たくない。だから急ぐの。あんた達はこの子が死んでも、ゴーレムとして蘇生させればいいくらいに考えてるんでしょ。でも、そんなの許さない。彼が彼でなくなるくらいなら、この場で彼を撃ち殺して、死体は海に沈めるわ。彼もそれを望んでる筈だから」

「……完全にイカレてるな」

 舌打ち混じりに呟く男に、ヴァルカは不敵に笑って見せる。

「どう致しまして。あんた達のイカレた研究の産物だもの、ちょっとくらいタガが外れてて当然でしょ? それより早く結論出して。あたしの言う通りにするの? しないの?」

 男は歯軋りせんばかりの形相で、暫しヴァルカを睨み据えていた。しかし、ヴァルカの方も無表情でそれを受け流し、銃口を男の眉間にポイントする。

「十秒以内に決めて」

「貴様っ、マスターに何を……!」

「うるさい、あんたは黙るのよ、お喋りカラス。別にコイツを殺したからってあんたらを味方に付けられるとか、甘い希望は持っちゃいないから安心して。その時は、もう皆で仲良くあの世に行きましょ?」

「女っ……」

 カラスが、威嚇代わりに嘴を開く。恐らく、フォトン・シェルを発生させるつもりだったのだろうが、ヴァルカの方が早かった。

 何の前触れもなく銃口をずらし、引き金を絞ったのだ。避け損ねたカラスは、デカデカと開けた口腔に銃弾を飲み込み、後頭部から血を吹きながら、真っ逆様に海へ落ちていった。

「ごめん。お仲間がまた減っちゃったわね。後五秒」

「分かった、こうしよう。お前だけ、あっちの鳥に乗って、先に通話ができる地点まで行け。ドネル・ファミリーの本拠の番号は、コイツに入ってる」

 言いながら、男は自分の端末を差し出した。

「あら、随分親切ね。そのままあたしが逃げたらどうする気?」

「勘違いするなよ。誰がお前とその坊やを一緒に行かせるって言った? その坊やは俺が預かる。それに、もしお前が逃げたとしても、その時は当初予定通りこの坊やだけが手に入る訳だから、俺に損はない。まあ、仮にお嬢さんと坊やを一緒に行かせたとしても、あの巨大鳥は俺の言うコトにしか従わないから、抜かりはねぇけどな」

 ヴァルカは内心で、もう一度舌を打った。

(流石にそこまで上手くはいかないか)

 けれども、今はエマヌエルの命が最優先だ。ここまで譲歩を勝ち取れただけで、満足すべきだろう。

「……分かった。もし、彼を海にうっかり取り落としたり、留め刺したりしたら、タダじゃ置かないから」

「へいへい」

 かなり不本意だったが、おざなりにも思える返事をする男にエマヌエルを預けると、ヴァルカはバイクを括り付けて飛ぶ巨大鳥に飛び移った。

「随分重たそうだけど、スピードは出るかしら」

「甘く見るな。お望みの速度で飛ぶくらいはできる」

 言うや、巨大鳥は速度を上げた。


***


「ハワード? 随分急だったね。事前に連絡くれたら、外でお出迎えくらいしたのに」

 こんなのんびりとした口調で一人の男に出迎えられたのは、実に半日経ってからのことだった。

 言いながら、ナンナ=リーフにジェット機で降り立ったヴァルカ達を迎えたのは、年齢の掴めない男だ。

 ブリリアント・グリーンの瞳、プラチナブロンドの髪。顎のラインはすっきりと鋭角だが、目元は丸くそれが幼い印象を与える。

 身長は、成人男性の平均である百八十前後のようだが、ヴァルカ達を強制連行した(と言っても、途中からはどちらが連行されているのか判断不能な様相を呈してはいたが)、ハワードと呼ばれた男が一緒に立っていると、随分小柄に見えた。

「いやー、色々あって、連絡入れる隙もなかったんだけど……取り敢えず、この坊や、チャッチャッと治療してやって?」

 ハワードが、ダーク・グレイの癖っ毛をガシガシと掻きながら、ヴァルカの背負っているエマヌエルを示す。

 プラチナブロンドの男は、こちらへ視線を向けると、ヴァルカに目を留め、次いでエマヌエルに視線を移し、最後にもう一度ハワードを見た。

「お疲れ様。当分、仕事もないと思うから、シャワーでも浴びてゆっくりして? 無茶を聞いてくれて感謝してる」

 にっこりと笑った男に、ハワードは「全くだぜ」と言って肩を竦めた。

「ま、ボスの無茶振りは今に始まったこっちゃねぇけど」

 じゃ俺はお言葉に甘えるぜー、と言いながら、ハワードはノタノタとした歩調で廊下を歩み去った。

「じゃ、僕の患者さんの様子を診ようか?」

「……思い出した。その顔……あんた、ユーリ=ハロンズね?」

 近付いて来た男――ユーリ=ハロンズを睨め上げて、ヴァルカは低い声で確認する。

 どこかで見た覚えがあるとは思ったのだ。もう四ヶ月以上も前、ゴンサレス研究所に潜り込んだ際、裏の資料を当たっていて見付けたデータの中に、彼の名前と顔写真があったのを遅まきながら思い出す。ただ、基礎的な身体特徴以外のプロフィール欄は白紙だった。

 一方、ズバリ自分の名前を言い当てられたハロンズは、一瞬そのブリリアント・グリーンの瞳をキョトンと瞠ると苦笑した。

「もしかして、僕、結構有名人だったりする?」

「もしかしなくても有名よ。ノワールの大ボスさん。本来ならあんたなんかに任せたくないけど」

「……けどここに来たのは、彼の容態が一刻を争うから、でしょ? だったら無駄口叩いてる暇ないんじゃないかなぁ。ねぇ、(エス)9910?」

 今度はヴァルカが瞠目する番だった。

「被験体の数が多すぎて、研究者の側からは把握できてないと思ってた?」

 クス、と笑うと、ハロンズは一緒に来ていた女性に、「至急ストレッチャーと手術室準備して」と指示を出してヴァルカに向き直る。

「確かに被験体の数は多いけど、ダブル=ハーフのナンバーが付いた被験体はあんまり多くなくてね。おまけに君ら美形だし?」

 ヴァルカとエマヌエルを応分に見ながらおどけるハロンズを、睨み上げるようにしてヴァルカは口を開く。

「おだてたって何も出ないわよ。それより、一つ約束して」

「言える立場だと思ってるトコが笑えるけどねぇ。まあ、言うだけ言ってみて?」

 そのタイミングで運ばれて来たストレッチャーにエマヌエルを横たえながら、ヴァルカはずっと握りっ放しにしていた銃口をエマヌエルに向けた。

「彼の脳だけは一切いじらないで。ICチップもよ。彼の意識が戻った時、彼が彼自身でなくなってるのが分かったら、彼を殺すわ」


***


「よう」

 横合いから掛かった声に、ハロンズは返事をする代わりに顔を振り向けた。

「どうだい、坊やの容態は」

 半円を描くようにカーブした廊下を、数メートル先から歩いてくるハワード=グウィンが軽く挙げた指先には、白い煙の立ち上る煙草が挟まれている。

「悪くないよ。今さっき、手術終わったトコ」

 肩を竦めて言うと、ハロンズは見えない壁の向こうを見ようとするかのように、そちらへ視線を投げた。

 奥まった場所に扉のあるその部屋は、急拵えの集中治療室だ。但し、正式な病院ではないので、壁はガラス張りではない。

「……ところでさぁ、ハワード」

 あからさまに煙草に目を向けたことに気付いたのか、次のセリフを口に乗せる前に、ハワードが言った。

「『怪我人のいるトコで煙草なんか吸わないでよ、無神経ね!』か?」

「……うん、まあ、言おうとした内容はその通りだし、分かってるなら止めて欲しいんだけどさ。何その言葉遣い」

 いつの間に僕は君の中ではお姉になった訳? と訊ねると、別にお前の言葉遣い真似した訳じゃねぇよ、と返って来た。

「あの紅い髪のお嬢さんに一喝されたんだよ、ここに着く前に」

「ああ……」

 あの子か、とハロンズはクスリと小さく笑いを零す。

「何だ?」

「いやぁ、中々面白い啖呵切ってくれちゃうよねぇ、あの子」

 クスクスと笑い続けながら言うと、ハワードも呆れたように肩を竦めた。

「あー、聞いた。治療受ける側だってのに何か注文付けたらしいな」

「うん。AA(ダブル・エー)8164の脳みそとICチップいじったら、殺すって言われた」

「お前をか? 全く、治療する医者脅してどうするんだろな」

「ううん、AA8164自身を」

 途端、ハワードは煙草の煙を妙な場所へ吸い込んだと言わんばかりにゴホゴホと咳き込んだ。

「アイツ、ホンットにイカレてるな!」

「え、何、前科持ち?」

「ああ。さっきここに来る直前も一悶着あってよ。『アイツを死なせでもしたら許さない』し『ゴーレム化しても許さない。そんなコトするくらいならこの場で殺す!』とか言われてよー、参ったぜ」

 助けて欲しい本人の命盾にするとか、有り得なくねぇ? と言いながら、ハワードは携帯灰皿に煙草の先を押し付けた。

「でも、ある意味有効だよねぇ。こっちが向こうを生け捕りにしたがってる気配をちょっとでも見せちゃ、こっちの負けだよ」

「……早い話、お前も脅迫に屈した訳だ」

「まあね。だってそう簡単に殺されちゃ詰まんないもん」

 ニヤリと唇の端を吊り上げて見せると、ハワードも苦笑に近い微笑を浮かべる。

「何が出たんだ」

「結構面白い素材だ。こんな状況でなきゃ、ゆっくり調べたいくらいにはね」

「ふーん。研究の詳しいトコは俺にはさっぱりだけどな」

「君の定時報告と、今日の手術を総合して分かったコトだけでも興味深いね。彼は特別な逸材だよ」

 間を持たせるように一度言葉を切ると、ハロンズは心底楽しそうに、虚空へ視線を泳がせた。

「取り敢えず、役に立ちそうだ。『作戦』の実行にはね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ