事件簿ファイル3:お嬢様、彼氏を追って
今日も良い天気。小鳥たちのさえずりが楽しげで、零花の心をくすぐりました。
「お嬢様、病院のほうからお電話が……」
心に逆らうなんて、やはり無理があったみたいで、わたしはお手伝いさんから電話を受け取りました。
「………わかりました。」
えっ…陽榊が消えた?
今朝、ナースが部屋に行くと失踪していたと聞かされて……。
(……捜しに行こう。)
*
「……お腹が空いたわ。」
朝食抜きで家を飛び出して来てしまった。空腹が極限まで達すると、自分がお腹が空いているのかわからなくなるものらしいのです。零は22歳になって初めて『空腹』というものを経験しました。
「……食べてくれば良かった。」
(お金を初めて見たのは、 陽榊と付き合い始めた頃、17歳だったわ。)
それまで、クレジットカードをお金だと思っていて、お金がペラペラの紙や、丸い物だなんて知らなかった。
恐らく、零一人では食べ物を調達できないでしょう。
(買い物のお支払…したことがないのよね。)
「……あら、どうしたの?」
困り果てていると、屋敷で飼っているゴールデンレトリーバーがこんな所まで来ていました。
口にくわえているのは大きなバスケット。
中には食べ損ねた朝食と、白い紙切れが一つ。朝食が入っていることに安堵を覚えながら、白い紙切れの内容に零は首をかしげたのでした。
『謎は解けた。ルビーを貴女に。大事なものは月が咲く花畑にあり…?』
(月が咲く花畑…何かしら?)
どうやら、失踪した彼からの挑戦状のようです。けれど、そこだけ何故か引っ掛かりました。
(何かの花……かしら?)
「……食べましょう。ありがとう、ワンコさん♪」
(ルビーは伊勢海老ではないわよ?)
そう思いながら、何故か伊勢海老に埋め尽くされたお弁当を零は食べたのでした。