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You'd better suspect.

作者: 金釘亮

 え? 《鷹》の話をしろって?

 馬鹿な奴だな、俺にそういう話を振ってきた奴は大抵早死にするんだ。Curiosity killed the cat.(好奇心は猫をも殺す)ってよくいうだろ?

 ――ああ、違う違う、喋らないって言ってるわけじゃねえんだ。好奇心に殺されないためには、どうすりゃいいかって話だよ。

 神に祈る? ああ、それもまあ、いいんじゃねえか? でもよ、ほら、もうちょい良いことがあるだろ? 俺の口が滑らかに、よく回るようになる何かってのがよ。とぼけんな、わかってんだろ? おお、そうそう、それだよ。せっかくだし、一番いいやつをな。

 ……っかー! やっぱこいつがねえと話が始まらねえ! ――で、《鷹》の話な?

 まあ、言わずと知れた超一流のスパイのことだが、お前さんが聞きたいのはそんな常識じゃないんだろう?

 ああ、なるほどな、所在地が知りたいわけだ。仕事の依頼か? それとも復讐か?

 ――おっと、悪い悪い、詮索するつもりはねえさ。だからそんな物騒なもんは仕舞ってくれや。


 さて、じゃあ真面目に話してやるとするかね。

 《鷹》がどこに住んでるのかってのは、俺も知らねえ。けど、手がかりになる情報くらいならある。

 半月前の話だ。ここから南に二十キロほど行ったノクシャーって街で《鷹》のよく使う手に似た手口の通信痕跡が見つかったらしい。痕跡はわかっても、それが誰が行って、誰と通信したものかすらわからない、巧妙な手口だ。あえて餌を残すことで、敵国の連中がそれを嗅ぎまわってるうちに遠くにとんずらこくって寸法だな。

 それで、だ。もし仮に、それが《鷹》の行ったものだとすれば、今の時期なら八割方――この街にいるぜ。

 おおっと、待ちなよ兄ちゃん、急いては事を仕損じるぜ? 俺みたいな老いぼれの話に、もう少しばかり付き合ってくれてもいいじゃないか?

そもそもあんた、《鷹》の外見を知ってるのか? ――そうだろうよ、だから人がわざわざ丁寧に教えてやろうってんだ、もう一杯くらいくれてもいいんじゃねえか?

 がめつい? 馬鹿言え、商売上手ってんだ、こういうのは。抜け目ないってのもありだぜ。

 マスター、さっきのと同じのをもう一杯くれ、もちろんお代はこっちの兄ちゃん持ちだ。

 ……ふぅ、まずはさっきの話の根拠だが、簡単なことだ。《鷹》は必ず犯行現場に一度戻ってくるって噂がある。それも、かなり信憑性の高い所が情報源(ソース)らしい。だからいるとすればこの街か、あるいはもっと南の別の街なんだが……この街で《鷹》のものと思しき変装道具が見つかってる。

 そう、変装だ。

 つまり見た目の話になるわけだが、とかく特定するのは大変だ。

 何故って、《鷹》は随分ベタな野郎でよ、ご多分に漏れず『変装の達人』と来てやがるからだ。まあ、一つだけ挙げるとすりゃあ、変装するのは男に限るってことだけだ。――あと、これは俺の勝手な憶測なんだがな、そろそろいい年だからよ、あんまり若い男に化けるのは難しいんじゃねえか?

 ああ、それと、あれだな、これは見た目の話とはちょっと違うんだが、一度化けたことのある人間には二度と化けないんだよ。これは《鷹》が酔った勢いでぽろっと漏らした話だから、そうそう知ってる奴はいないぜ。


 さて、俺の知ってる話はざっとこんなもんだ。役に立ったか? そうかそうか、そいつはなによりだ、じゃあ成功報酬をくれ。

 ああ、そうとも、これで最後の一杯だ。――鉛球は喰らわせてくれるなよ? 老い先短い身だ、施しくらいくれてもいいだろう。

 おお、太っ腹だな。ありがてえ。


 …………。

 さて、行ったかな? 忘れ物もしてないな。

 ふぅ、疲れたぜ。ああ、マスター、ありがとよ、芝居に付き合ってくれて。

 しかし、あの若造も阿呆だよなあ。

 おおっとマスター、若いもんをからかうことに関して説教くれるなよ? 俺の数少ない楽しみなんだ。

 さて、俺のお遊びに付き合ってもらったついでと言っちゃなんだが、この付け髭とカツラ、処分しといてくれ。悪いな。


 ――俺は同じ人間に二度は変装しないんだよ。

 さっきも言っただろ?

 

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