水鏡の先
どうすれば、逃げられる?
私は密かに思案しながら、そっと枷を填められた手を揺すった。
生きるためには、ここを逃げ出さなければならない。函猛の尽力だって、どこまで当てになるかわからないのだ。
枷は外せる。
鉄格子も壊せるだろう。
問題はその後だ。
自分の剣は投獄された時に没収されているから、兵士の武器を奪って戦うしかない。それがうまくいったとしても、ここは王城の中だ。兵士は幾らでもいるし、ひとかどの武将だっているだろう。精霊を使役したとしても、逃げきれるかどうか。それに土地勘も無い。
勝算が低すぎる。
眉を寄せた私は、ふと漂わせた視界の中に水盤を見つけた。
その水面が、ちかっと光る。
……何だ?
水を飲もうとするふりをして、私は水盤ににじり寄った。枷の擦れる音に一瞬振り返った番兵は、すぐに顔を戻す。
何とか側まで寄って水盤を覗いた私は、はっと息を飲んだ。
揺らぐ水面に映るのは、抜けるような青空。
牢の中では見える筈の無い、高い高い、空。
この現象を、私は見たことがある。
ぱしゃん、と小さな水音を聞いて再度振り返った番兵は、愕然として叫び声を上げた。
牢の中には、ただ抜け殻と化した枷だけが残されていた。
一気に全身を包んだ水をかき分け、光の射す水面を目指す。ばしゃっと顔を出して大きく息を吸った私の耳に、騒がしい蝉の声が響いた。
「……っは……」
乱れた呼吸を整えながら、張り付く前髪を払った私の手が止まる。
白く象られた水際。
コンクリートの建物。
フェンス。
「……プー、ル?」
紛れもなく、それはプールだった。
それも、学校の。
「あれ?」
頭上から降ってきた声に、私の肩が強ばる。
ゆっくりと顔を上げると、陽に透かされた茶髪が見えた。
「神凪?」
逆光の中で、その人物が首を傾げる。
「中、津……」
ああ。
帰って来たんだ。




