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水鏡五国志 [第一部 星雲之巻]  作者: 子志
章之肆 白秋の国
36/76

生存者

 精霊達に出来る限りの事をさせた甲斐あって、若い兵士は一命を取り留めた。失血は酷かったが、迅速な応急処置のお陰で手遅れにならずに済んだのだ。

 宿の一室でまだ目を覚まさない顔を見下ろしながら、私はこっそり安堵の息を吐いた。知り合いでも何でもないが、目の前で人の死なんか見たくはない。

 忘れていた吐き気が蘇りそうになって、私は口元を押さえた。

「大丈夫か?」

 函朔が心配そうに私の顔を覗き込む。大丈夫、と笑おうとして、失敗した。

「無理しなくていい」

 眉を寄せた函朔が、そっと私の頭を撫でる。

「戦に慣れてる奴だって、あれはちょっと……きつい」

 私は俯いた。

 

 あれが、方士の力だ。まるで人間の仕業とは思えないような、一方的な虐殺の爪痕。

 

 私は叫びたくなった。

 あの光景が脳裏に焼き付いて離れない。結果は違った筈なのに、お前も同じ事をしたのだと責めるのだ。

 鋭利に兵士達を引き裂いた賊と、朱雀の炎で軍隊を焼き払ったお前と、何が違うのだと。

 違う、と叫びたい。私は殺してない。

 違わない、とどこかから聞こえる。本質は同じだと。

 

 葛藤が続く。

 考えるのをやめたいのに、目を背けられない。

 頭を抱えそうになった私の耳に、控えめな声が届いた。

「失礼します」

 遠慮がちに扉を開けたのは、もう一人の生存者だった。額と腕に包帯を巻いているが、大事無かったようだ。別の部屋で医者にかかっていたが、治療が終わって戻って来たらしい。

「宿の主人から、貴方方が助けて下さったと聞きました」

 そう言うと、彼はさっと床に正座して頭を下げた。すっきりした顔立ちの、やや線の細い青年だ。歳は函朔よりは上だろうが、三十は越えていない。

「そんな事……俺達は何もしてない。礼は医者に言えよ」

 函朔が苦笑混じりにそう言って、頭を上げさせる。青年は沃縁(よくえん)と名乗った。

「とんでもない。貴方方があの場で冷静に対処して下さったからこそ、僕の怪我もこの程度で済みましたし、その人も命を拾ったんです」

 沃縁はそう言うと、もう一度頭を下げた。

「よしてくれ。……結局、何人も助けられなかった」

「鴻宵!」

 自嘲気味に呟く私を、函朔が咎めるように呼ぶ。私は目を伏せた。

 精霊に呼びかけた時、まだ私はどこかで楽観していたんだ。これで何人かは助けられる筈だと。

 でも現実はそう甘くはなくて。

 些少すぎる私の力では命を救う事は出来なかった。

「鴻宵、たとえ俺達がもっと早く駆けつけたとしても、無理だったよ」

 場数の違いか、私よりも遙かに冷静に状況を分析した函朔が断言する。

「不可能な事を悔いるもんじゃない。それよりやるべきことはあるだろ?」

 俯いたままの私の背中を軽く叩いて、函朔は沃縁に向き直った。

「あんたは、あの部屋に泊まってたのか?」

「はい」

 函朔の問いに、沃縁は頷く。

「宿改めの声で目が覚めて、上着を羽織ったところであの騒ぎが……」

 惨状を思い出したのか、沃縁は言葉を切り、目を閉じて俯いた。いきなりあんな事に巻き込まれたんだ。戸惑いも恐怖も、未だ根強いに違いない。

「思い出したくないよな……でも、話してくれないか、起こった事を」

 函朔が気を遣いながらもそっと促す。これまで、あの盗賊に遭遇して生き残った者は居ない。沃縁の証言は貴重だ。

「それが……」

 沃縁は気まずげに目を伏せた。

「何分闇夜のことで……誰かが部屋に飛び込んで来たと思ったら何だか凄い物音がして……」

 続いて駆け込んだ兵士達を何かが襲い、沃縁も傷を負って崩れる壁に巻き込まれた。その後の事は、意識を失ってしまった為に全くわからないという。結局犯人の顔も、術の正体も、背格好すらはっきり見ていないのだ。

「お役に立てずすみません」

 うなだれる沃縁に、私と函朔は首を振る。

「無理もないさ。話してくれてありがとう」

 何も新しい情報は得られなかったが、それで沃縁を責めるつもりなど毛頭無い。寧ろ、生きていてくれただけで感謝したい。

 私はまだ目を覚まさない兵士に視線を落とした。彼にも早く目覚めて欲しい。ただの逃げだとわかっていても、生存者がいるだけで少しは救われる。

「あの、鴻宵さん?少し休まれては……」

 沃縁が私に、伺うように声を掛ける。

「ずっと付きっきりだと聞きました。少しはお休みにならないと……この方は僕が見ていますから」

「……いや」

 確かに、あれから丸一日半近い時間、私はずっとこうしてこの兵士の様子を見ている。それは傍目には、容態を心配して目が離せないように見えるのかもしれない。事実それもあるけれど。

「沃縁、あんたも身辺に気をつけてくれ」

「え?」

 沃縁が目を瞬く。彼にしてみれば唐突に話題をぶったぎられたように感じただろう。しかし私の中で話は繋がっている。

「この人も、あんたも…あの場に居合わせていて生き残ったと知れたら、賊に狙われるかも知れない」

 さっと、沃縁の顔が強ばった。函朔が緩やかに頷く。

「顔を見られたって思えば消しに来る可能性は高いな」

「そんな……でも、僕は……」

 動揺に瞳を揺らす沃縁に、私は真剣な目を向けた。

「たとえ実際は見ていなくても、禍根は摘むのがこの賊の手口だ」

 函朔の言うように政争が関わっているのなら尚更そうだろうと思う。下手人が割れれば、どんな僅かな繋がりから黒幕が露見しないとも限らない。

 黙ってしまった沃縁に、函朔が提案の声を上げる。

「暫くこの宿にいたらどうだ。俺と鴻宵は交替でこの人の番をするつもりだ。あんたも一緒に居るといい」

 私は少し目を瞠って函朔を見た。

 私はこれまで一度も、函朔にこの話はしていない。当然、交替の話も初耳だ。

 私の反応を予想していたのか、函朔は軽く笑って言った。

「不眠不休じゃ倒れるだろ、さすがに」

 函朔の提案を受けて沃縁は宿に留まる事を了承し、私と函朔は昼は二経毎に、夜は三経毎に交替する事に決めた。沃縁も見張り要員に入ると言ったが、函朔にやんわりと断られていた。実際、沃縁は万一の時に対処できるほどの力があるようには見えないし、第一相手は方士なのだ。精霊と接触出来る私や函朔が常にいる方が対策として有効だ。

「失礼します。あの、旦那方……」

 そうして三人で今後暫くの計画を練っていると、扉が開いて宿の主人が会釈をした。

「お役人がお見えです」

「役人?」

 現場に居合わせた者への事情聴取だろうか。考えてみれば未だ目覚めないこの兵士も、役所の兵だ。様子を見に来たのかも知れない。

 

 宿の主人の案内によって部屋に入って来たのは、数人の兵士を連れた四十絡みの男だった。函朔と沃縁が立ち上がり、両手を組んで礼をしたので、私もそれに倣う。

「そのほう達か、現場にいたというのは」

 尊大に顎を上げ、男は言った。その態度に内心眉を顰めつつ、肯定を返す。

「犯人の顔は見たか」

「残念ながら……」

 答えたのは沃縁だった。無念そうに眉を下げる彼を一瞥して、男は鼻を鳴らした。

「役に立たんな」

 ……殴っていいですか。

 偉そうに勝手なことを抜かす男に苛立ちが募る。そんな私の心情など知る筈もなく、男は寝かされている兵士を見下ろした。

「その兵は」

 顎で示しながら問う男に、函朔が感情を消した表情で答える。

「逃げ込んだ賊を追っていた兵のうち、ただ一人生き残った者です。まだ目は覚めませんが……」

「一人だけ生き残っただと。ふん、臆病風に吹かれて隠れてでもおったか。生きているなら生きているでさっさと目覚めて賊の容貌を話せばいいものを。とことん役に立たん奴だ」

 悪口雑言だけは流暢に紡ぐ男が言葉を吐き終わった時、私は思わず手を挙げかけた。あの時兵を差し向けたのは役人の筈だ。その部下達があんな事になったのに悼む言葉も無いどころか、辛うじて生き残った兵士に向かってなんて言い種だ。

 しかし私の手は目立った動きをする前に、素早く函朔に押し留められた。向けられた目が、堪えろと言っている。

「そやつが目覚めたら連れてこい」

 最後まで横柄に言って、男はすたすたと歩き去って行った。

 

 男がいなくなると、函朔が私の手を離す。私は拳を握り締めて叫んだ。

「何だあれは!」

 何なんだ。人を人とも思っていない。命がけで賊を追いかけた兵士を、役立たずの一言で済ませるなんて、犠牲になった兵士は犬死にじゃないか。惨状が脳裏に蘇る。

 あの光景と凄惨な空気を、あの男の目の前に突きつけてやりたかった。

「落ち着け、鴻宵」

 函朔がそう言って、宥めるように私の背中を叩く。

「……っ、だって、あんな……!」

 私は強く唇を噛んだ。信じられない。どうしてあんな言い方が出来るんだ。

「偉い役人なんてあんなものですよ」

 沃縁が冷めた口調で言った。

「ああいう輩は自分の富と出世の事しか考えていないんです。彼らにとって、兵士は捨て駒でしかないのでしょうね」

 そう言った沃縁は、伏せた視線を重態の兵士に向ける。私はぐっと歯を噛みしめてから、深呼吸をして何とか気を落ち着けた。

「……役人って、そういうものなのか」

 私が低く言うと、沃縁は悲しげに首を振った。

「僕の知る限り、大半はそうです」

 それが街の為政を担う者達の実態。腐敗も行くところまで行っていると言うべきか。私がじっと憤りとやるせなさに耐えていると、それまで黙っていた函朔が口を開いた。

「皆が皆そうじゃないさ。だが、中央の目が届かないのをいいことに腐敗が蔓延ってきてるのは事実だろうな」

 中央では骨肉の争いをし、街では役人が好き勝手に振る舞っている。この国は、このままでは遠からず駄目になるだろう。それは一個人である私でも、いや、地位も何もない私だからこそ、よくわかった。

「失望したか?」

 函朔が問いを挙げる。

「見捨てるか、この国を」

 それは、挑むような声だった。

 函朔にもわかっているんだ。この国が病んでいる事は。でも、彼には見捨てられない。私が見捨てると言えば、函朔とは別の道を歩む事になるだろう。

 私はこれまで行った国を思い出した。

 紅では、朱雀の力を使う為に利用された。主に宮中にいたから街を見る機会は多くなかったが、あまり良い印象は無い。たぶん、白と似たような状態になっている事が容易に想像出来る。

 橙では、街の人々と多くを語った。行政に不満を述べるというよりは、自分達が己の力で生き抜くのに必死だという雰囲気だった。でもそれは政治がうまくいっているということではなく、寧ろ政府の手が行き届かないから影響も小さいといった状態なのではないかと思う。そして、鴻耀を連れに来た軍隊。その強引さには、驕りが見えた。

 碧は春覇のいた軍隊しか見ていないし、昏も少し軍と接触しただけだから、どんな国かはわからない。

「別に」

 私は短く言うと、函朔に向き直った。

「他の国も同じだ……だからそんな怖い顔をするな」

 失望を押し隠して苦笑を浮かべてみせ、私は兵士の傍らに腰を下ろした。

「……悪い」

 少しばつが悪そうな顔をして頬を掻いた函朔が、床に座り込む。

「他の国も旅されたんですね」

 沃縁の言葉で、話の流れが少し逸れた。それにひっそりと安堵しながら、私は頷く。

「紅と橙に行った」

「紅に……」

 沃縁は私の側に正座しながら、興味深そうに言った。

「紅の朱宿は、この邑のすぐ郊外で朱雀を投げ出して逃げたと聞きました。どうなったのでしょうね」

 やはり、朱宿の事となるとそれなりに情報は流れるらしい。私は視線を中空に据えたまま答えを投げた。

「まだ捕まってはいないみたいだ」

 当然の話ではある。朱宿は今、ここにいるのだから。

「そうですか……でも、もう朱雀を宿してはいないんですよね?」

 私は頷いた。朱雀が引き剥がされたのは、人夫の話からもわかるように周知の事実だ。

「ということは……」

 声を低くして、沃縁は呟いた。

「朱宿だと見分ける術は、今は無いわけですか……」

「え?」

 聞き取れなかった私が首を傾げた時、函朔が声を上げた。

「どうした?」

「気がついたみたいだ」

 函朔の言葉に、はっと兵士を見る。微かな呻き声と共に、瞼が震えて目が薄く開いた。

「大丈夫か?」

 兵士の顔を覗き込んで問う。兵士は数回瞬きをすると、緩慢に焦点を合わせて私を見た。

「あなたは……」

 ぼんやりと呟いてから、はっと目をみはる。

「そうだ、賊……っ!」

「馬鹿、安静にしてろ」

 起き上がろうとして痛みに呻く兵士を、函朔と二人で慌てて寝床に押し戻す。目が覚めて急に起き上がれる程軽い傷じゃない。

「ひとまず落ち着いて聞け。あんたは……」

 兵士を宥めるように柔らかい口調で、函朔が怪我の程度を説明し始めた。それをおとなしく聞いている兵士を見ていた私の視界に、ふと違和感がよぎる。疑問に思って注意を凝らした私は、ふらふらと兵士に近づいていく金精霊に気づいた。

 どこか様子がおかしいように思うが、何がおかしいのか明確にはわからない。わからないながらも、とっさにその精霊を掴んだのは半ば無意識だった。

「……ッ!」

 掴んだ瞬間、手に鋭い痛みが走る。思わず手を開くと、ぼたりと鮮血が床に落ちた。

「鴻宵!」

「鴻宵さん!?」

 函朔と沃縁が、血相を変えて私の肩を掴む。

 私は呆然と、切り裂かれて真っ赤に染まる掌と、そこで震えている精霊を見た。何が起こったのか、真っ白だった頭にようやく状況が染みてくる。

 この精霊に、掌を切られたのだ。

 何故。

 きっと精霊の意志じゃない。だとしたら、誰かこいつに指示をした方士がいる。

 私が掴まなければ、この精霊はどこにいた……?

「おい、一体何が……」

「函朔」

 震えている精霊を、お前は悪くないと撫でてやりながら、私は低く言った。

「賊が仕掛けてきた」

 私の視線の先にあるのは、兵士の首筋だった。

 私が精霊を捕まえなければ、こいつは兵士の頸動脈を切り裂いていただろう。

「賊って……ではこれは方士が!?」

 私の手を取って傷の治療を始めていた沃縁が目を見開く。私は頷いて、兵士に視線を転じた。

「あんた、賊の顔を見たか?」

 覚醒してすぐに起きた変事に顔を青くしていた兵士は、少し思い出すような間を開けてから首を振った。

「私が踏み込んだのはもう半ば事が終わった後で……それも踏み込んだ途端に攻撃を受けたものですから」

 彼も、賊の姿を見てはいないらしい。

「でも、狙われるのは恐らく変わらないだろう」

 私が言うと、函朔も頷いた。

「やっぱり二人とも俺達から離れない方がいい」

 そう言う函朔に、私は少し目を細めた。

 沃縁もこの兵士も、私達にとっては殆ど赤の他人に等しい。大して関わりも無い人間をわざわざ付きっきりで守るほど、私も函朔もボランティア精神に富んではいない筈だ。

「暫くは動かさないでください」

「ああ、ありがとう」

 傷に包帯を巻いてくれた沃縁に礼を言いながら、私は視線を落とした。函朔の意図するところはわかる。

 要は、この二人と一緒にいれば、わざわざ賊を探さなくてもあちらから接触してくる公算が高いというわけだ。

「賊自身が出向いてくれればいいけど……」

 使役されていた精霊を思い出して眉を寄せ、私は傷を負った手にゆっくりと力を込めた。じり、と鈍い痛みが走る。

 こうなれば、賊が仕掛けてくる攻撃を徹底的に邪魔してやるしかない。そうすれば、その内本人が出て来るだろう。

「でも私は……役所に戻らないと……」

 兵士が無理に身を起こそうとするのを、函朔が押し留める。その様子を見ながら、私は嘆息した。

「やめておけ。少なくともこの件が片づくまでは戻らない方がいい」

「な……」

 傷の療養を理由に休職願でも出しとけ、と言う私に、兵士は納得できない顔をする。どうやら真面目な質らしい。報われないな、と若干哀れに思いながら、私は続けた。

「今戻ったら殺されかねない」

「え……?」

 職場を信じている兵士には気の毒だが、生き残った彼に下されるのは賞より罰の可能性が高い。せめてほとぼりが冷めるまで待つべきだ。それに、現状のまま彼が帰れば、犯人の顔を見ていないという主張は受け入れられず、功を焦る役人に不当な尋問を受けかねない。

 そうした事を私が懇々と言い含めると、兵士は青ざめた顔で口を噤んだ。

「まぁどっちみちまだ動けない。おとなしくしとくんだな」

 函朔がそう言って、ふと気づいたように兵士の顔を覗き込んだ。

「そういやあんた、名前は?俺は函朔。こっちが鴻宵。そっちにいんのはあの部屋に居合わせた沃縁だ」

 気さくな調子で紹介する函朔を見上げて目を瞬いた兵士は、私達の顔を見回して確認するように頷いてから名乗った。

晨葎(しんりつ)、です」

「晨葎か。わかった」

 そう言って、函朔は立ち上がる。見上げる私達に、戸口を指して見せた。

「俺、ちょっと買い物に行ってくる。後よろしく」

 ひらひらと手を振って出ていく背を見送った私は、壁に背を預けて晨葎と沃縁を見た。また精霊を送り込んでくる可能性もあるから、あまり目は離せない。

「でも、そういえば鴻宵さん……」

 躊躇いがちに口を開いた沃縁が、少し晨葎を気にするようにしながら言う。

「あの役人、晨葎さんが目覚めたら連れてくるように言っていましたけど……」

「従うわけにはいかないな」

 私はにべもなく言った。役所になど預けたら、晨葎は十中九まで命を落とす。

 それに、言い方は悪いが、犯人を突き止めるには願ってもない餌なのだ。こちらとしても手放すつもりは無い。

「……役所にも追われる事になりますよ」

 晨葎が心なしか青ざめた顔で言った。私は冷めた顔を向ける。そんな事は、とうに承知しているんだ。

「あんたはいずれにせよ無事には済まない。覚悟を決める事だ」

 晨葎にそう言ってから、顔を強ばらせている沃縁に目を向けた。

「まああんたの方は役所まで敵に回す必要性は無いからな。賊から逃げきる自信があるなら無理に俺達といる事はない」

 選択を突きつけられた形の沃縁は、真剣な顔で暫くじっと俯いてから目を上げた。

「僕もご一緒させてください」

 その表情に宿る覚悟を見極めて、私は二人に頷きを返した。

「決まりだ」

 期間は賊を見つけ出し、捕らえるまで。

 私と函朔は、晨葎と沃縁を護衛することに決まったのだった。


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