諦念
幕舎でぐったりと寝台に臥せながら、私はぼうっとあの光景を思い起こしていた。
燃え上がる炎。全てを燃やしていく真っ赤な火炎。
あれはもう、戦ですら無かった。
「これが私の運命……?」
朱雀を宿す力が有ると占に出て。実際に傷ついた朱雀を体の中に取り込んだ。そこまでは別に良かった。傷ついた守護神をどうにかしたいと思うのは当然だし、この地に加護を与えられるならそれは良い事だとも思った。
しかし、朱雀は穏やかにこの地を守護するわけではなかった。
朱雀は破壊を望んだ。
そしてその朱雀を宿す事で、私はその破壊を引き受けなければならなくなった。
「冗談じゃない……」
仰向けになって、私は目元を覆うように腕を乗せた。
けれども朱雀を宿している以上逃げられない事も、心のどこかでわかっていたんだ。
紅軍はそのまま白の領地への侵攻を開始した。報告によればあの時の白軍の将は生き残ったし、見た目の凄惨さからすれば寧ろ驚くほど実際の被害は少なかったようだが、何しろ人ならぬ力だ。兵士達が怯えてしまい、白軍は軍としての体裁を保つ事が困難になった。
立ちはだかる者のいない道を、紅軍は進んでいく。あと数刻で、最初の邑が見えてくる。
私はまた、あの虐殺じみた大量破壊をしなければならないのか。
進むにつれて気が重くなる私とは対照的に、爾焔は上機嫌だった。朱雀の力を引き出せた事に満足しているのだろう。このまま、白を滅ぼせるかも知れない。
「元気が無いね」
私の横顔を覗き見て、爾焔が言う。私はふいと顔を背けた。
「別に」
投げやりに言って、その馴染んだ口調に自分ではっとする。思えば、ここに来る前の私は特に執着も無く、その分失望も無く生きてきた。ここのところすっかり感傷的になってしまっていたが、こうする他に無いなら仕方ないじゃないか。そもそもここは乱世なんだ。
諦めが胸に落ちた時、私は逃げてしまったのかも知れない。
城壁が見える。城外に展開している軍に、錫将軍が降伏を呼びかけた。
勿論、わざわざ陣を敷いて降伏に出る者などいない。
断りの報を受けた爾焔が私を見る。名前を呼ばれる前に、私は立ち上がった。
私だって、生き延びる為にしている事なんだ。
望むと望まざるとに関わらずやらなければならないなら、思い悩むだけ損だとも思えてくる。
重く渦巻くどす黒い霧を胸に抱えたまま、私は腕を左から右へ振り抜いた。