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家族

 鐘が鳴った。

 その響きを聴きながら屋上への扉をあける。

 自由度が高い明成学園において数少ない立ち入り禁止区域の一つが屋上である。

 本来なら入るには生徒会で面倒な手続きを踏む必要があるが駆は鍵を持っているので関係ない。

 いろいろあって数カ月前に手に入れてからは一人になりたいときに重宝している。

 昼休み。カンナと宋真は食堂に行った。

 駆はとある理由によって急遽昼休みを返上して屋上にいるのだ。

 とある理由それは。



「昼飯は食べたのか?」



「まだだ。だからとっとと要件言え」



 リーシャ・ルーンファミリアがそこにはいた。




・・・・・・




 四時間目の授業中。

 窓の外を眺めていたら、校門から普通にリーシャが入ってきた。

 かなり高度な認識阻害を掛けていたのか誰も気づくことなく、侵入し放課になってから魔力をたどって屋上にたどり着いた。

 授業が終わり次第宋真やカンナを食堂に先に行かせて、教室を飛び出したのだが。

 なにか、新しい情報が入ったのかと思い急いだのだが、



「……なんだって?」



「うむ。だから学校を見に来ただけなのだが」



思い切り脱力した。



「そんな理由で来たのか……?」



「うむ」




「……帰る」



 踵を返し、屋上を出ようとしたが、



「まぁ、待て」



「……なんだ?」



肩を掴まれたので振りかえる。



「せっかくここまで来たんだ、少しくらい話し相手になってくれてもいいだろう?」



 缶コーヒーが差し出された。



「……」



 それを受け取りながらも、



「物好きだなお前」








・・・・・・








「意外だったよ」



「……?何がだ」



 屋上で二人してカンコーヒーを傾けながらリーシャが口を開いた。



「お前もナガミツも普通の学生でいることがだ」



一口含み、



「こういう世界にかかわりながら普通の学校に通っている者はそういないだろう」



「日本には結構いるけどな……」



「私の国は全くいなかった」




「お前の国って、北欧らへんか?」




「ああ。北欧の片田舎にウチの拠点がある」



 その言葉に駆が首を傾げた。

 リーシャもあ、と口を開けた。



「……言ってもいいのか?」



「……いいのか?」



 二人で首をひねる。



「ま、いいだろう」



「いいのか」



 缶コーヒーを傾ける。

 一息。



「『ルーンの家族(ルーンファミリア)』なんていうくらいだから仲良かったのか?」



「そうでもなかったさ」



 自嘲するような笑みを浮かべるリーシャ。



「魔術師という人間は基本的に利己的な者が多い」



「……当然といえば当然だろう。何よりも自己を尊重するのが魔術師という存在だろ?」



「ああ」



だからこそ、と彼女は言う。



「家族と言っても所詮は魔術師の集まりで、ほとんどが孤児か『失われなかった魔術(アン

ロストマジック)』を得ろうとして送り込まれた輩だ」



「……」



 顎を上げ、視線を上に向ける。

 目を細めて、



「家族と呼べたのはホントに数人だけだったよ」



「……そうか」



「……お前の家族は?」



「俺は……」



 思い返してみる。自分の家族なんてのは。



「血の繋がって無い親父が一人いただけだよ」



 本当の両親のことはもう覚えていない。



「どんな親だった?」



「ダメ人間。その一言に尽きるな」



 炊事洗濯片付けは全くできず、常にたばこを吸い続け、服装はだらしなく、金の管理も

適当なうえに、酒癖も悪かった。

 ただ、



「バカみたいに強かった。結局一度も勝てずに死んじまったよ」



「……そうか」



 沈黙が下りる。

 ……やれやれ。

 家族の話はタブーだ。

 気まずさを紛らわすため缶コーヒーをすする。



「なぁ」



「ん」



「学校は楽しいのか?」



「さあな」



「……そうか」


「ただ――」



「ただ……?」



「悪くない」




・・・・・・




 昼過ぎ、学校を出たリーシャは『ルイーナ』にいた。



「……」



「どうしたんだい? リーシャちゃん」



 目の前にボロネーゼランチ(五〇〇)が置かれる。 

 だが、それを前にしてもリーシャの顔は晴れない。



「なぁ……」



 カウンターの向こうにいるライアスに問う。



「ん?」



「……クロサキたちはいつから学校に通っている?」



「んー、駆は五年前で、カンナちゃんは四年前かな。駆はそれまで世界中旅してて、カンナちゃんは入学した駆の追っかけだったね」



「……そうか。なら……」



再び問う。



「ん?」



「アイツはいつからだ?」



「あいつって?」



 決まっている。



「『特異点』」

 一息。




「『特異点』――雪村沙姫だ」




 その言葉に。

 その名前に。

 ライアスは笑みを濃くする。



「『特異点』。初めから至っている人外、だね」



「……生まれた時からとある一点にのみ特化し、その一点のみにおいてはあらゆるもの凌

駕する存在と聞いている」



「そうだね。その通りだよ」



「『神聖教会』からすれば文字通り神の子、『騎士団』からすれば生まれながらの王だ。

喉から手が出るほど欲しい存在であり……」



「『魔術学会』――つまり僕たち魔術師の天敵でもある」



「その雪村沙姫は。黒崎駆という守護者に守られているアレは、いつから『一般人』なん

だ?」



「初めからだよ」



 青年の笑みは止まらない。



「彼女は生まれた時からずっと『一般人』だよ」



「……!」



 リーシャの目が大きく開かれた。

ありえない、と。



「『特異点』というのは十代になるころには何かしら能力の発露があるはずだ! それをコントロールしなければ死ぬ。それを避けるためには『一般人』でいられるはずがないだろう!」



 時には物理法則すら捻じ曲げる力だ。コントロール出来なければ体が耐えられなくなる。

 故にある程度、力の使い方を学ぶ必要があるのだ。



「そうだね。でも、彼女は特別らしいよ」



「……どういう意味だ」



「僕にもよくわからない」



 ただ。



「彼女が『特異点』として確認されたのは五年と少し前。ちょうど(ながれ)さん……駆の養父さんが死んだ時期だったんだけど」



「……」



「それ以来、『特異点』の反応が出たり出なかったりしてるらしいよ」



「どう、いう意味だ……?」



「わからないよ。わからないからこそ、彼女は狙われていて、駆は彼女を守り続けている」



 初めて、ライアスの顔から笑みが消えた。

 目を伏せ、



「報われないかもしれない戦いを戦い続けているんだ」









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