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兄弟



息が白くなるほどの寒い夜空の下、黒崎駆はいた。



「……」



 『明成私立図書館』と銘打たれた建物の屋上に片膝立ちでたたずむ。

 地面に置かれた手のひらからは銀色の魔法陣が展開されている。

十二月半ばの深夜故にかなり気温は低いはずだがそんなそぶりは無い。

目を伏せ、動かぬままだ。

まさしく石像のごとく不動で時間が過ぎていく。

が。



「カケル」



 背後からの声に目を空けた。

振り向いた先にはリーシャ・ルーンファミリアがいて、



「ほら」



 手にした缶コーヒーを突きだす。



「……サンキュ」



 ……あったかいな。

 指先からしみ込む熱を感じながらプルタブを空ける。

 湯気が立ち上るソレを一気に煽る。

 体にも熱がしみ込み、長い息が漏れた。



「それで、首尾はどうだ?」



「ダメだな」



 駆はポケットから地図を取り出して広げる。

 明成市の地図だ。扇状の街のほとんどが赤く塗りつぶされている。



「二週間かけてしらみつぶしに探してるが全く引っかからない」



 駆もリーシャも肩をすくめ、溜息を吐く。

 が、リーシャはにやりと笑い、



「文字通り影も形も見えないな」



「うまいつもりか、それ」



 ……どいつもこいつも。

 自分の周りには面白くないギャグを言うヤツが多すぎると駆は思う。



「提案なのだが」



「ん?」



「ライアスたちにも手伝って貰ったらどうだ、あいつらだってタダの喫茶店のマスターなどでは無いんだろう?」



「無駄だ」



 駆が即答する。

 リーシャは驚き、訝しげに眉をひそめ、



「なぜ」



「そういう契約なんだよ。アイツらは情報提供と怪我の治療に後始末だけだ」



 目を伏せ、思い出す。

 五年前にこの街に戻って来た時、初めてあの二人に会った時のことを。 



「そう、五年前に契約した」



 だから、無理だ。



「……そうか」



 駆に様子に察したのかそれ以上は追及せず、



「なら、ナガミツは? アイツとはどういう関係だ?」



「アイツはいわゆる幼馴染だな、かれこれ六年目だ」



「ほう」



 リーシャは僅かに面白そうに口元を歪めるが、ふと、



「しかし、お前に協力者がいるのは知らなかったな。『奇跡求める悪魔(デウス・エクス・マキナ)』は単独の代名詞だろう?」



 ……そんな代名詞は知らない。



「アイツは本当は戦う者じゃないからな。魔獣の討伐以外では連れてかないんだよ」



「ならばなんなのだ?」



「本人に聞け」



 時計を見る。すでに深夜二時だ。



「今日はもう終わりにしよう」



「いいのか?」



「ああ」



 白い息を吐く。



「このままじゃ埒が明かないからな。とりあえず、結界の強化をしているカンナを呼び出

して今日は上がろう……さすがに寒いし」



「ふむ、まぁ依存はないな……確かに寒い」



 二人で、寒さに体を震わす。

 駆は寒空を見上げ、



「さて、どうするか……」







・・・・・・







「どうすればいいのだ、駆よ!」



 朝、登校してきた駆に宋真が教室の入り口で泣きついてきた。

 跪き、縋りつこうとする宋真を駆は、



「……」



 無言で避けて自分の席に着きカバンから筆記用具などを机に仕舞ってから、未だ教室の入り口に居る宋真に向け、



「どうしたー?」



「たまにお前との友情を疑うぞ……!?」



 膝立ちで走ってきた。 

 滝のような涙を流しながら。

 ……怖っ。

 思うがしかし、



「何を言っているんだ、兄弟。俺とお前の友情は不滅だ、さぁ何があったか言ってくれ」



「おお、兄弟! 実はな、恵真がクリスマスは俺と一緒に過ごしてくれないというん

だ!」



「知るか」



「兄弟――――!」



 涙の量が増した。



「恵真が!俺の妹が!アレが0歳の時から欠かさずアルバムを作っている俺の妹が、クリ

スマスを一緒に祝ってくれないなどありえんだろう!」



「お前のシスコン振りがありえない」



 というか宋真は三歳の時からシスコンなのか。



「筋金入りだな……」



「ふっ、そうほめるな」



「ほめてない」



「はよー」



 カンナが来た。

 フラフラだった。

 トレードマークのサムライポニーもしんなりしている。

おぼつかない足取りで駆の前の席に座り、



「うだー」



 突っ伏した。



「どうした?お疲れのようだな」



「いろいろあるんだよー」



 顔を上げずに答えるカンナ。

 かなり疲労が溜まっているようだった。



「どうしたんだ、こいつ」



「いろいろあるんだろうさ」



 彼女の疲労の理由には心当たりがあるも言うわけにはいかない。



「いろいろか……」



宋真が顎に手を当てて納得しかけたところで、



「にし、にししししし」



 カンナがいきなり笑いだした。それもすごいにやけ顔で。



「……」



「……」



 宋真と目が合う。



「……いろいろ大丈夫か?」



「……いろいろダメかもしれん」



 二人で冷や汗を流した。

 カンナは、



「にし、にししししししし」



 未だ笑っていた。







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