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夜天

町はずれの住宅街。

人の気配を微塵も感じさせない夜明け前。

 まだ暗く、わずかな街灯の光と暗い闇のみの世界。

その中を疾走する影が二つ。

追われる影と追う影だ。

追う影は少年。

銀のラインが入った黒いジャケット。黒のインナー、ズボンに身を包み、左手に暗闇でもわかる白銀に輝く銃身とそれに付けられた刃がある。 

少年が住宅の屋根を蹴るたびに、脚部がわずかに光る。

追われる影は、体長二メートルはあり背筋は曲がり、体を包むのは衣服ではなく体毛だ。

手足には鋭い爪が伸び、口には牙がある。

そして、その金色の目には意志があった。

 獣。

そう呼ぶにふさわしい外見だった。

 獣と少年は走る。

 獣が速度をわずかでも緩めれば、少年が発砲する。

 故に、獣は自らが持てる最高速で駆ける。

その速度は乗用車の類のそれを完全に超え、一歩で十数メートルは移動している。

 もはや、疾走ではなく跳躍となっていた。

しかし、

それほどまでの速度を出す獣は思う。

 何故、少年は己に付いていける?

 己が生み出す速度は人外。

何故、この暗闇の中で正確に己の足元を狙撃できる?

 この場は足元すら危うい闇の中。

 何故、と。

 解らない。

 解るのは、今のままではやがて終わるということだ。

 それも己の敗北によって。

 少年は、おそらく銃弾一発で獣を殺せる。

そして、それが来るのはこちらがあきらめた時だ。

故に、獣は決断する。  

 その決断の行く先は駐車場。

 車が数台あるそれの中央にコンクリートを砕きながら着地する。

 数瞬の遅れをもって来る少年を迎え撃つために。

 しかし、その決断はあるものによって無意味となる。

「!?」

剣だ。

 それも獣の周りに円を描きながら落下する二メートルはある十四本の長剣。

 突然の事に獣は一瞬思考を停止し迷う。

 この場に留まり、待ち構えるか。

 剣をなぎ倒し、飛び出すか。

 それが過ちだった。

 その数瞬の中、獣は頭上に影を見る。

 少年だ。

 そして、獣は二度目の決断を下す。

 頭上へ跳び、己の爪で少年を引き裂こうと。

 そうした。

 地上より跳ぶ影と空中から降りゆく影、二つの影が交差し肉を断ち切る音が響き、鮮血が舞う。

 交差した直後、獣に疑問が生まれた。

 何故、と。

 何故、己は気付かなかったのか、と。

何故、右手に持たていれた漆黒の刃銃に気がつかなかったのか、と。

そして少年は刃を振りぬき着地し、

 獣は体を断たれ地面に落ちた。






・・・・・・・






「終わったか?駆」

 着地し手に何も持っていない少年――黒崎駆に声がかけられる。

 その声の出所はいつの間にか消えた剣の向こうからこちらへ歩いてくる赤いツナギを着た長身の少女だ。

「ああ」

 その答えに朱いツナギの少女――長光カンナはそうか、と小さくうなずきため息を吐く。

「最近多いよな、こういう奴ら」

 カンナの視線の先は、駆のそばで倒れている獣だ。

「今月に入って八件目だ。どうなってやがる」

獣を見ながら愚痴を言うカンナに駆は苦笑し、

「小遣い稼ぎにはなるだろう?」

「命がけの小遣い稼ぎなんて洒落にならねぇよ」

 金より命、とカンナが半目で言っている。

 駆は再び苦笑し、すぐに顔を引き締める。

「確かに最近多い」

 それも、

「獣人、魔獣、悪魔、墜天、妖精、植物種、挙句の果てには幼体とはいえ竜種だ」

「アタシ、竜種なんてはじめて見たぜ、三,四メートルあったな」

 でっかかったなぁ、というカンナの呟きに、

 成体はもっとでかいけどな、という嫌な駆の呟きは聞かないふりをする。

「ま、まぁ、今日もこれで終わりだな」

 明るい声を出してツナギのポケットから時計を取り出す。

 時刻は午前五時過ぎ。

 冬という季節故にまだ暗いが間もなく朝だ。

 その時刻を見たカンナ何かを決意したようによし、と小さくうなずき、

「あ、あのさ、駆」

 ん?と首をかしげる駆から目をそらして、指をもじもじさせ、頬を染めて、視線を反らす。

「この後、朝飯でも――」

 食べにいかねぇか、というデートの誘いは言えなかった。

 駆に押し倒されたのだ。

 それも、勢いで二人の体の体が浮いている程だ。

 ……何だこれーー!

 確かにデートの誘いはした。オシャレな喫茶店で軽くモーニングセットを食べて軽くおしゃべりしてできるならそのまま二人で学校へとも思った。お互いの家まで行って制服に着替えて近所の人に噂され二人で学校に行って学校でも噂されて外堀から埋めて最終的にはクリスマスにでもデートをとも思った。

だが、

 ……いきなりすぎだーーーー!

 いや、でも嫌じゃないというかむしろどんと来いというかよろしくお願いしますというかつまりまとめると、

「ふ、ふつつかものですが――」

「ばかっ、新手だ!」

 一舜の浮遊と妄想の後に見ると、先ほどまでに駆とカンナがいた地面が粉々になっている。

 その十メートル程離れたところに先ほどとは違う獣がいた。

 





・・・・・・・






……面倒だな。

その獣の姿を見て駆はそう判断する。

先ほどのが猫ならばこれは獅子だ。

 おそらく、先ほどの獣より数段強い。

 だが、問題ない。

 一体で無い事は、日中教室の外を眺め続けていた甲斐あってわかっていた。

何やら変なことを口走っていたカンナも獣の姿を見てから正気に戻っている。

 ツナギのポケットに手を突っ込んだ少女を確認した後に駆の両手にあるものが生まれる。

 光だ。右手に黒、左手に銀の光の粒子。

 暗闇を照らすそれは駆の両手に集束し、刃が付けられた銃身が生まれる。

 銃身三十センチ程の銃。

 それの引き金の前に付けられた刃渡り五十センチ程の刃。

 駆はそれを振りぬきながら獅子へと走り出そうとし、止まった。

 なぜなら、

 「『Kカノ』!!」

 その叫びと共に何かが獅子に刺さり、爆発した。

 未だ暗い夜に爆炎が舞う。

「な……!」

 カンナが声を上げて驚いている

声こそ上げないが、駆も同じ気持ちだった

 ……魔術か!?

 その疑問と同時に獅子が雄たけびを上げ、駆とカンナが身構えるが、

「終わりだ」

 聞きなれぬ声と共に獅子は崩れ落ちた。

 それを見届けもせずに駆は声の主を探す。

 見つけた。

 未だ燃え続ける獅子を松明として照らされた駐車場の外、一軒家の上にいる。

 それは少女だった。

 まず目を引くのは肩まである灰色の髪。

 そして、炎に照らされた褐色の肌だ。

 服装はカーキ色のコートにカッターシャツとスーツズボン。男性用だろうがそれが不思議と似合っている。

 ウエストポーチを付けている。 

しなやかな豹を思わせる少女だ。

鋭利な琥珀色の瞳が見つめるのは、自分が為したであろう結果ではなく、

……俺か?

その瞳は確かに駆を見つめていた。

 駆と目が合った瞬間に少女が屋根から飛び降りた。

「……!」

 とんっ、と軽く着地する。そしてそのまま駆たちに近づいてきた。

 後ろでカンナが身構えたのが判る。少女は気にせず近づき彼我五メートルくらいの距離で立ち止まった。

「クロサキカケルだな?」

 鋭く問いかける声。

 真っ直ぐに駆を見据え、

「『刻印の家族ルーンファミリア』所属、リーシャ・ルーンファミリアだ」

「魔術師……」

 ああ、と彼女は頷き。

「敵対の意思は無い。ただ、少し話がしたい。出来れば場所を移したいのだが?」

「そう簡単に従うとでも?」

 黒銀の刃銃を構える。カンナもポケットに手を入れている。

「従って貰う。何せ、お前には必要な情報を私は持っている」

「なに……?」

「『奇跡求める悪魔デウス・エクス・マキナ』」

 カンナが後ろで息を呑む。

 それは駆が持つ黒銀の双刃銃の名であり。

 ……『観測省アウトロー』に登録された俺の二つ名。

 それも駆の在り方に対する名だ。

リーシャと名乗る少女それをわかっていて口にしたのだろう。

「『特異点』を狙っているだろう魔術師がこの街に入った」

駆の目が細まる。

 その反応に満足したのかリーシャ・ルーンファミリアは笑みを見せ、

「聞くだろう?」

 答えが出るに時間はかから無かった。






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