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真相



「どうした、駆? そんな頭の痛そうな顔をして」



 ハイア・セルテス・ガードナに関する一連の事件が終わってから二日。

 十二月二十二日。

 明成学園二学期最後の日だ。

 登校してきた宋真に掛けられた言葉だった。

 駆は机に肘を立て、手で頭を押さえている。



「実際に頭が痛いんだよ」



「風邪か? 珍しいな」



「いや、そうじゃなくてな」



「?」



 首を傾げる宋真。

 視線を前の席のカンナに向け、また首を傾げる。



「お前もか、長光」



「いろいろあるんだよ、すぐわかるから」



 カンナも疲れたように机に突っ伏す。

 二人の様子に首を傾げながらも、自分の席に着く。

 そして、担任が入ってきた。



「よーし、お前ら席付けー」



 担任教師、洛上登。

 ポジティヴな名前だが、



「あー、いいかーお前ら。ダルイから一回しか言わないからよく聞けー」



 ものすごくやる気なかった。

 死んだ魚のような目でクラスを見渡し、



「このクラスに転校生が来ましたー、ハイ、拍手ー」



 パチパチといい加減に手をたたく。

 一拍おいて、



「え?」



 クラスのほとんどの目が点になった。



「せんせー、今日二学期最後ですよねー」



「はい、そーです」



「せんせー、明日から冬休みですよねー」



「はい、そーです」



「せんせー、それなのに転校生ですかー?」



「はい、そーです」



 洛上の言葉をかみ砕いて、理解して、



「ええー!?」



 皆で叫んだ。



「うるせー! しょーがないでしょ! 安心しろよ、お前らー! キモいブス男でも、ムカつくイケメンでも、ダサい豚女子でもないんだからー! ハイ! どうぞ、転校生さん、カモン!」



 やけくそ叫びにより扉が開き、転校生が入る。

 ……はぁ。

 溜息を吐く。

 もうどうにでもなれ。

 もはやどうしようもないのだ。

 面倒事が増えたら宋真に押しつけよう。

 入ってきたのは少女だった。

 灰色の髪に褐色の肌。

 鋭い琥珀の瞳。

 豹のごときしなやかな少女。

彼女は黒板に不慣れな日本語を書きこむ。



「北欧から留学してきたリーシャ・ルーンファミリアだ」



 宋真の視線がこちらに来ているのがわかる。

 手で触れるなと応え、リーシャを見る。



「まぁ、とりあえず一日だけだが……」



 彼女は笑みを浮かべ、



「よろしく頼む」








・・・・・・






 午前中のみの終業式が終わった。

 リーシャ・ルーンファミリアは階段を上っていた。

朝のホームルームでは質問攻めになり、さすがに辟易したが今一人きりだ。

 ……というか、カケルもカンナも助けてくれなかったな。

 いつか仕返ししてやろう。

 密かに決意を抱きつつも階段を上がる。

 屋上へと続く階段だ。

とある人物に会うために駆たちと別れてここに来た。

もっともその人物がいる確証はないが、確信している。

階段を上がりきる。

正面の扉。鍵は掛っていなかった。

屋上への扉を空けた。

 冷たい風が体にぶつかる。

 それでも構わずに前に出て、



「こんにちは、リーシャちゃん」



「……ああ」



 雪村沙姫に出逢った。

 


・・・・・・


 



「ああ、そうだ。怪我とか大丈夫? リーシャちゃん」



 開口一番。

 制服の下には確かに包帯が巻かれているし、未だ傷はあるものの。

 冬服故の少ない肌の露出部分では傷は無い。

 それなのに彼女は自分の怪我を知っている。

 つまり。



「お前、知っているな?」



「何を、かな?」



「とぼけるなよ」



 一息。



「あいつが……カケルがお前の事を守り続けている事をだ」



「――うん」



 あっさり、と頷いた。

 ……こいつは……!



「カケルは、お前が気付いている事に……」



「気付いてると思うよ、駆くん鋭いしね」



 呼び方が変わっている。

 じわりと汗がにじむ。

 ……なんなんだ。

 それは、奇しくも。

 ハイア・セルテス・ガードナが黒崎駆への感情と同じだった。



「お前は何をしている……?」



「うん?」



「あいつは!お前のことを想ってずっと守り続けているのに!ありとあらゆる災厄からお前を守ろうとしているのに!お前は何をしてるんだ!」



「何も」



「お前……!」



 思わずポケットに手が伸びる。



「ただ、待っているだけだよ」



 手が、止まった。



「私からは駆くんに会えないよ」



 沙姫は目を伏せ、悔むように、悲しむように話す。



「私はね。五年前に初めて会った時に駆くんとの『約束』を忘れていたんだよ」



「な……!」



「忘れてたっていうより、もう諦めてたのかな」



 黒崎駆の根幹ともいえる約束。少年と少女が交わした雪の約束。

 それを、当事者である雪村沙姫が諦めていたなんて。

 そんなの。

 ……カケルが報われなさすぎる……!



「言い訳になるかもしれないけど、あの直後に地震があって。探したけれど見つからなくて。きっと死んじゃったんだなぁ、って思ってたんだよ」



 五年もたって。



「駆くんが転校してきた時に『約束』を思い出したけど他人の空似だと思った。最もその後にいろいろあって思いだしたけどさ」



 雪村沙姫は自分の身体を抱きしめるようにし、



「いまさら思い出したなんて言えないよ。いまさら会い直してなんて言えないよ。いまさら守ってくれてありがとうなんて言えないよ。いまさら……」



 リーシャは息をのむ。

 沙姫の泣きそうな顔を見て。この二週間近く遠くから見ていたが常に笑顔だった。

 その彼女が、辛そうに、苦しそうに、儚そうに泣きそうな笑みを浮かべている。



「だから……私は何もしないし、何もできないよ。ただ――」



「……ただ?」



「駆くんの帰る場所になりたい」








・・・・・・








「今回は結構大変だったみたいだね」



 差し出されたコーヒーカップを受け取り、一緒に貰ったメモはポケットへ。

 放課後。どこかに行ったリーシャはほっといて、カンナは寮に帰った。



「……まぁな」



「てゆうか、結局あの小娘しばらくこっちに居る訳?」



「らしいね。彼女の『父』も了承済みらしいし」



 他人事のように言っているがリーシャの転校に関してはこの青年が一枚かんでいる。

 駆はライアスから出されたコーヒーを飲んでいた。

 ……缶じゃないのは久しぶりだな。

 市販には無い香りが漂う。



「まったく、面倒なのがまた増えたわね」



「いやいや、おもしろくなりそうだ」



「……」



 無言でコーヒーをすする駆。



「ん? どうしたんだい駆。元気ないじゃないか」



「……別に」



「もしかして、あの彼の事気にしてるのかい」



「……」



「気にしてもしょうがないよ、なにせ――」



 


――彼は君が何かしてもしなくても結局は失敗したんだから。





「……」



「……? どういうことよ、ソレ?」



「そのままの意味だよ。ハイア・セルテス・ガードナの計画は絶対に成功しなかったろうね、駆がいてもいなくても」



「なんでよ、そこそこ優秀だったんでしょう?」



「そうだね、そしてその優秀さがあだになったんだよ」



「……?」



「……」 



首を傾げるシャオ。

 無言の駆。

 そして――笑っているライアス・デライト。



「彼の術式はさ、対象を影の虚数空間に引きずり込み、『何もない空間に何かがある』という矛盾をもって崩壊させるていうものだったけどさ、それには『何もない空間』と『何か』が同等でないといけないんだ」

 


『何もない空間』の方が大きければ文字道理何もなくなり。

 『何か』の方が大きければその何かが残るのだ。 

 前者なら問題ないが、後者ならその術式は無効化される。

 そして、



「そして、彼は学園全体、つまり生徒教師全員を消そうとしたんだよね」



「それって……」



「……」



 シャオは何かに気付いたように。

 駆は目を伏せ、何も言わず。



「そう。生徒に教師の九割が何かしらの異能持ちであるあの学園を消そうとしたんだ」



 理由は駆は知らない。

 ライアスやシャオは何か知っているようだが決して口を開かない。

 それでも。

 ほとんどが無自覚で未覚醒ではあるもの。

明成学園の生徒や教師は能力者なのだ。

 黒崎駆のような術式を使う術者はほとんどいないが、長光カンナのような能力者は大量にいる。

 ゆえに。

 もし、その存在全てを一個人が作りだした虚数空間に引きずり込んだとしても。



「能力者ってことは異能の分だけ存在の力が水増しされる。異能が強ければ強いほどに、ね。あそこには結構強い能力者もいるから彼の術式が作動したとしても……」



「結局は虚数空間の容量を越えて術式は失敗ってわけね」



「それどころか失敗の時には少なからず存在の力が逆流して術者に流れ込む。そんなことになったら、一瞬で過剰容量で死ぬよ」



 報われない話だねぇ。



「もし、そんなことになったら彼はどういう気持ちで死んだんだろうね? 実際は君を嘲笑って死んだらしいけど。いったいどっちが惨めだったんだろうね」



 ねぇ、駆。



「君は彼を殺したけどそれはもしかして――」



「どうでもいい、そんなことは」



 ライアスの言葉を遮り、コーヒーを飲み干す。



「ただ、俺がアイツを殺した。それだけで十分なんだよ」



 席を立つ。



「ハッ。相変わらず冷めてるわね、アンタ」



「まぁ、気持ちもわからなくないけどね」



 小銭を置いて出入り口目がけて歩く。



「けどさ、駆。今回術式が仕掛けられたのは君の落ち度だぜ」



 扉に手を掛けようとして止まった。



「君はさ、絶対に彼女を守りきるって決めたんだろ? なら、彼女が危険にさらされる可

能性は全て排除しないと」



「まったくね。アンタには失敗は許されないのよ?」



 なにせ、



「『守護の魔法使い』であるこのライアス・デライトが」



「『破壊の特異点』であるこの少・苺鈴が」



 君を手助けしてるんだからさ。

 アンタに力貸してんだから。



「ああ」



 二人の言葉に。



「わかってるさ」



 宣誓のように応えた。






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