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或る教授  作者: 浦島橋梁
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005 : 或る海岸

田町駅をどちらに降りる?

三田口は慶応臭が鼻に付く。

やはり、昔の海へ続く芝浦口一択なのか。

先生、今日は芝浦運河を散策ですね。


「今更だが…何故付いて来た」

「暇でしたので」

「若者は若者同士で連みたまえ」

「迷惑ですか?」

「迷惑ではない」


何もない芝浦口。

閑散としたなぎさテラスを横目に歩く。

何?家系ラーメン屋が総本家吉村家に?

珍しく、小さく動揺する先生。

吉村家か…厚木家だの本厚木家だの、

新杉田に引っ込んでいれば良いものを…

僅かに何か、ブツブツと呟いている。


「家系、いいですね」

「私には脂が厳しい」

「成程」


左手に曲がり暫く無言で歩く二人。

と、思い出したかの様に

先生は横手の廃墟を見上げた。


「ここは昔、何と言ったか…」


暫く考え込む様子の友永教授。


「ジュリアス・シーザーの様な」

「ジュリアナ東京ですね」

「よく知っているな」

「祖母から噂は」


私は個人情報に慎重な男。

この先に踏み込むべきか、

危ぶむなかれ、

迷わず行けよ、

行けば分かるさありがとう。


「曾祖母がよく出入りしていたとか」

「ふむ…」

「ちなみに曾祖母です」


スマートフォンに入れた若き曾祖母。

このスタイル、ワンワン何とか…

と言うらしい。

中々の美人ではある。

先生も少し驚いたのか、

右側の眉が僅かに吊り上がった。


「時代の流れは早いものだな。

 私も上の世代から聞いた

 知識でしかないが、

 巨大な踊り場、だったそうだ」


踊り場。

階段のそれとは違う踊り場。


「ここが歓楽街だったなんて、信じられませんね」

「いや何、海運倉庫を転用したらしい」


流石にここは歓楽街には出来まい、と苦笑い。


「この先は芝海岸通りと言ってね」

「芝浦運河沿いの道ですか」

「見たまえ」


右手の先に旧レインボーブリッジ、

螺旋高架橋が見える。


「明治期、ここは埋立二号地と呼ばれた場所だ」


海岸地区に思い入れでもあるのだろうか。


「東京湾は何れ埋め立てられる運命ですね」

「どうなのかね」


十数年前、東京湾中央部に突出した

人工島が大型の台風により崩壊。

バビロンプロジェクト…と言う名称は、

やはり不吉だったのだろう。

今は「第五次東京湾整備計画」と

呼ばれている。


「地名は埠頭だが、もはや面影はない」

「かろうじて運河は残ってます」

「芝浦埠頭、日の出桟橋…」


海が、遥か先まで後退しまったな、と、

汐彩橋から数キロ先の海を見つめ、

寂しげに笑う。


「先生は芝浦が好きなんですか?」

「学生の頃、田町で降りて…

 よく散歩したものだよ」

「この辺りをですか?」

「まあ、随分、否、全く変わってしまったがね」

「先生流の『哲学の小径』ですね」

「…」


何故か海岸地区は、

散策するに心弾む地域でね、と

答えながら二度三度、

髪をかき上げる。


「(散策場所が)台場でないあたり、

 『意識高い』などと、

 君達には嫌厭されるだろう」

「被害妄想です」


少し歩みを緩める私。


「私も台場は苦手です。

 ゆりかもめはちょっと」

「確かに。

 スラム街の地下鉄の様相、か」

「治安の問題ですね」

「仕方あるまい。

 住都公団のマンション群も

 今やさながら九龍城だ」

「香港に追い付きましたね」


先生、やれやれ、と言う表情で

振り返らないで下さい。


「私も皮肉屋だが、君も大概だな」

「皮肉はお嫌いですか?」

「食傷気味ではある」

「気を付けます」


気にする事はない、

とフォローする先生の後ろに聳えるのは、

佃地区のタワーマンション群の成れの果て。


「反面教師にしたまえ」

「既に先生です」

「そう言う意味ではない」


困ったものだ…と呟き、

小さな溜息を漏らす。


「己の事すら儘ならない人間が、

 他人を指導するとは滑稽だな」

「私には、先生は両面教師です」

「良くも悪くもかね?上手く事を言う」


両面教師、と言う言葉を

気に入ったのだろう。

両面か。成程。成程。


「確かに」

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